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食事会 ②

 続々とお客様が集まってくる。クラン子爵をかわきりに、オルロフ伯爵に、コーディネル様が来た。


 ユリは庭に案内をし、アイスティーを振舞う。


「お待ち致しておりました。どうぞ、冷たいお茶でございます。少量づつお注ぎ致しますので、飲み比べて下さい。こちらは、アッサムにミントと蜂蜜を加えたものです。あちらは、フルーツティーでございます。あのメイドが持っておりますのはレモンティー、そして、あの緑色のが茶葉を蒸して揉み乾燥させたものでございます。皆様のお好みのお茶が見つかれば幸いにございます」


 敢えて、お茶の飲み比べの余興を用意した感を全面に押し出す。


 何か言いたげな、クラン子爵も近くのお茶に手を出した。


「甘いのにサッパリとした味わいですな」


「ふふふ、これはオレンジの香りが鼻に抜けるわね。初めてですけど美味しいわね」


「ああ、暑かったからよけいにそう感じるよ」


 御三方ともお気に召して下さって良かったわ。


「そう言えば、クラン子爵。ラティーナの誕生会に我々を招待いただけなかったのは、何故かな?ラティーナは我が妹の一人娘、私が何か其方へ不義理なことをしましたかな?お陰で、誕生日プレゼントを渡す機会を損ねてしまったではないか」


 澄ました顔で、オルロフ伯爵はクラン子爵へ軽いジャブを打つ。


「これは、失礼致しました。ラティーナへの誕生日プレゼントをご用意頂いていたとは。ラティーナの幼少期より、伯爵から個人的にラティーナへの誕生日プレゼントを頂くことが御座いませんでしたので、まさか、ご用意頂いていたとは」


 流石、クラン子爵、負けてないわね。


「父と兄が代表として、送っていたのでな。その後は、子爵のご存知の通りだよ。だが、ラティーナのデビュタント後は華々しく誕生日し、我々も呼んでくださるものとばかり…。奥様の連れ子であるエーチェ嬢の誕生会は、それはそれは華やかだったと噂になっておりましたぞ」


 オルロフ伯爵は敢えて、ラティーナの誕生会を催して無いことのへの批難と、エーチェ嬢を連れ子でクラン子爵の実子とは認めないと言わんばかりだ。


 妹がいたのに、浮気などしていないよね。ってことですわよね。


「左様でしたか、これは失礼いたしました。リマンド元侯爵夫人も喪に服していらっしゃいましたし。私はラティーナが傷付かないように配慮したつもりでしたが、間違っていたようですね。今年は魔法学園も卒業しましたし、盛大に祝おうと妻と準備をしていたのですよ。ただ、肝心のラティーナが帰って来ないのでね」


 オルロフ伯爵が誕生日のプレゼントを送って来ない。そして、御奥様が大旦那様の死で喪中のだから、ラティーナ様が恥をかかないように、夜会の催しを大々的に行わなかったと言っているのだ。娘に興味のない父親。そして、姪に興味のない叔父。私からすれば、どっちもどっちよね。まあ、父親なぶん、クラン子爵が罪が重いのかしら。


「ラティーナにプレゼントを送れば、何故か、エーチェ嬢がそれを身に付けているではないか?そんな家におちおちプレゼントを送る訳にはいかんよ。我が一族は誰も、彼女に我が姪へのプレゼントを触って欲しくないのだからな。お陰で、ドレス以外、ラティーナに贈れなくなったではないか」


「ははは、姉妹仲が良く貸し借りをしておるのだろう」


「貸し借りでございますか」


 フリップ夫人が口を挟む。


「ああ、姉妹で貸し借りをして、何が悪い。まあ、確かに軽率ではあったな、この通り、その件に対しては謝罪しよう」


「私のお気に入りの、サファイアのブローチ。おばあ様か送った真珠の首飾り、お祖父様がお作りになったダイヤのピアス。上げればきりがありませんが、それら全て、今、ラティーナが持っているのですわよね。なら、今度、借りに伺いますわ。ラティーナには許可を得ておりますので。私、宝石をこよなく愛しておりますの、ですので、誰が、何を送ったのか全て覚えておりますのよ」


 フリップ夫人の言葉に、クラン子爵の顔が引き攣る。


 流石、この親子敵にまわすと厄介ですわね。奥様とお嬢様にこの会を開くことを伏せられた、旦那様の気持ちが痛いほどわかります。


 メイドが入って来て、ユリにそっと耳打ちする。ラティーナ、そして、ソコロフ夫人が来たのだ。リマンド侯爵と元リマンド侯爵夫人ももうすぐ着くとの連絡も来た。ユリはラティーナ達の迎に赴く。


「ソコロフ夫人、ようこそいらっしゃいました。ラティーナ様、卒業おめでとうございます。そして、ラティーナ様、婚約おめでとう御座います。友人として、お祝い申し上げます」


「ユリ、ありがとう。貴女のお陰で、無事、こうして学園を卒業できたわ」


 ラティーナの言葉に夫人は首を縦に振る。


 ああ、お二人とも、ラティーナ様の境遇をお知りなのね。


「私もラティーナ嬢の境遇には、心を痛めていたのだけど、子爵家とはいえ、他の貴族の家の中の事までは口出し出来なくて…ユリ嬢、私達からもお礼を言わせて下さいね」


 ソコロフ夫人は形の良い眉を八にし、口元を扇で隠す。


「ソコロフ夫人、私は充分気に掛けて頂いております」


「勿体ないお言葉です。さ、ご案内致しますので、此方へどうぞ」


 ユリが中庭へ案内をすると、舌戦を繰り広げていたであろう三人の口が一斉に止まり、夫人へ挨拶をする。


 その切り替えの早さに、ユリは感心した。


「ソコロフ夫人、ご機嫌麗しく」


 形式通り、オルロフ伯爵より挨拶の言葉を述べていく。一通り挨拶が済んだところで、ユリは皆を食堂へと案内した。

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