食事会 ①
「セルロス、別宅へ行ってくるわね。リンダを任せても良いかしら?彼女、口が軽いから食事会のことは言わないで欲しいの」
「ああ、わかった。首尾はどうだ?御奥様は城に挨拶へ行かれてから、旦那様と別宅へ向かわれると連絡が入った。それまでが正念場だ」
食事会はきっとカオスな雰囲気だろうな、すごい面子だもの。ラティーナ様のまわりって個性が強すぎるわ。
ラティーナ様がソコロフ公子と婚約なさったのだから、オルロフ伯爵はクラン子爵に対して、ラティーナ様への今までの待遇の悪さを追求してくるだろうし、結婚式に対しても、彼女の腹違いの妹であるエーチェ嬢に対しても言及することは予測できる。
ユリは馬車の中で、今日の流れの再確認をする。本来、これを執り仕切る御奥様と旦那様は少し遅れていらっしゃる。それまで、ユリがかの方々を持てなさなければならない。
別宅に入ると、メイド達と呼び会や控室のチェックを行うと、厨房へ急ぎ材料や料理、食器やお酒、ジーュースやお茶に問題は無いか確認をする。
目まぐるしく動いていると、城に御奥様が到着されたという連絡が入った。
良かった。間に合われたみたいね。
ユリが安堵した時、リマンド家の従者が息を切らせて入ってきた。
「お嬢様の乗った馬車が襲われました」
「お嬢様は無事なの?」
「はい、お嬢様はフリードリッヒ様と共に城へ逃げられ無事でございます。近衛騎士が駆けつけまして、他の者達も無事でございます。軽く怪我をしている者はおりましたが、皆、命に別状はございません」
良かった。でも、お嬢様が狙われなんて、そんなイベントは発生しなかったはずよ。本来なら、お嬢様は魔法学園に入学されている時期。お嬢様が魔法学園へ入学されなかったから?なら、誰がお嬢様を狙ったの?まだ、お嬢様は悪女認定されていない。
なら、お嬢様が個人的に狙われることは…、いや、有るわね。フリードリッヒ様に恋心を抱く令嬢。はあ、一体だれよ、お嬢様を狙ったのは…。
「そう、連絡ご苦労様。少し休んで頂戴。そこの貴女、彼を休憩できる部屋へ案内して、お水を出してあげて」
ユリはメイドに使者を任せると、来客の準備に戻った。
取り敢えず今は、食事会を無事に終わらせる事。それに集中する必要があるわね。この食事会はラティーナ様にとって、クラン子爵家の権利を掌中に収める良い機会なのだ。
ユリにとって、そして、リマンド侯爵家にとっても、ラティーナ様、ひいてはソコロフ家に恩を売る絶好の機会だ。失敗するわけにはいかない。
そろそろ、お客のいらっしゃる時間ね。旦那様と御奥様はこの騒ぎの為、少し遅れられるでしょうから時間を稼がないといけないわ。何か良い方法は無いかしら?
ユリは厨房へと足を運んだ。
「料理長、お腹に溜まらず、少しの間、空腹を紛らわせる、時間稼ぎを出来そうなものっでないかしら?」
すっかり準備を終えた料理長は、顎の下に手を当て考える素振りをする。
「何かあったのか?」
料理長の問いにユリは先程、伝令からの報告を掻い摘んで伝えた。
「なる程、まあ、皆無事でなによりだ。そうだな、今日は暑いくらいだ。庭でほら、この前ユリが淹れてくれたお茶でも振る舞ったらどうだい。あの冷たくて、フルーツを入れたやつだよ。茶葉は数種類持って来たから、変わったお茶を庭でも愛でて貰いながら、飲んでもらえばそれなりに時間も潰れるだろう」
アイスティー。
この世界では、紅茶に氷を入れて飲むと言う習慣がない。基本貴族階級の人間が実際に淹れることは少ない。女性は侍女として働く1、2年、男性も補佐官や見習い時だけだ。平民は魔法を使えないので、氷を出すことが出来ない。アイスティーが生まれるはずがないなだ。
「そうね、それは良いかも!ミントはある?後、フルーツを用意して、ミルクもお願い。ピッチャーとティーポットをあるだけ用意して、後、お湯を沸かしておもらえますか?私は、庭にテーブルと椅子を用意して来ます。」
どうせなら、いろいろなアイスティーを準備しよう。
「わかった」
料理長はニカッと笑うと、片手を挙げて厨房の奥へと引っ込んで行った。ユリは厨房へ入ってきたときとは打って変わって、肩の力が自然と抜け顔は自然と綻んでいた。




