表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/135

孤児院

加筆したため挿入致しました。

 お嬢様の店は無事にオープンし滑り出しも好調だ。フリードリッヒ様の仲も睦まじく微笑ましい限りだが、旦那様を襲った犯人は、未だ目星すら付いてない有り様だ。


 今日は前々からご興味を持っていらっしゃった、孤児院への慰問の日。フリードリッヒ様もご一緒なので、同行はリサと新しく入った侍女のリンダに任せて、ラティーナ様の食事会へ行く予定だ。


 男爵令嬢のリンダはなんというか幼い、ここへ奉公にくる際に何の確認も、前触れも無く自分の侍女を連れて来た。言語行動も頭が痛いもとい、可愛いがられて甘やかされて育ったのが伺える。裏表の無い素直な部分は好感が持てるけど…。


 男爵令嬢で彼女の父親は、旦那様の直属の部下らしい。有能では無いが、愚直で真面目な話働き振りが気に入られているとか。その彼の初めての頼み事が、娘をお嬢様付きの侍女として迎え入れてほしいというものだった。その頼みを無下に出来ず、お嬢様付きの侍女としてこの屋敷に来たらしい。


 何か問題を起こさないと良いけど…。


 ぼーっとして、止まっているリンダに声をかける。


「リンダ、早くクッキーを袋に詰めて。」


 はあ、まあ労働なんてしたことがないだろうから、わからないでもないけど、一応志願してここに来たんでしょう。


 ユリは軽い頭痛を覚えた。


「ユリ、スミス夫人に手紙を書いたの。」


 マリアンヌがユリへ手紙を渡す。


 皇后陛下の夜会でドレスの注文を頂いたと聞いている。そのお礼かしら?スミス侯爵家へだから…。


「では、これは…。」


 リンダは勢い良く手を上げた。


「はい、私が届けます。ちゃんとスミス侯爵夫人へ直接お渡ししますのでご安心ください。」


 手紙を届けるだけだから、大丈夫よね。結婚相手を探しているだけあって、お使いには進んで行ってくれるのよね。まあ、リンダにとっては、出会いの無い孤児院より、素敵な出会いがあるかもしれないスミス家の方が魅力的よね。


「そう、では、お願いしますね。お嬢様、準備が整いました。本日はリサがお供致します。私は本日は、店舗へ行ってまいります。」


 ユリは結っていたマリアンヌの髪をシルバーのリボンで留め仕上げた。


 マリアンヌはおっとりと笑うと、二人に声を掛ける。


「ユリ、リンダ宜しくね。」


「はい!」


 ユリが礼をしている横でリンダは元気いっぱい返事をした。


 ドアをノックする音がして、フリードリッヒが入ってくる。


「マリー、城から護衛が来た。準備はできた?」


「はい」


 嬉しそうに返事をなさるお嬢様、楽しみになさってましたものね。店が無事に開店し軌道に乗ったので、フリードリッヒ様も城での業務が増え、中々ご一緒に過ごせなかったから余計でしょうね。


「荷物は?」

 

 マリアンヌはリンダが持っていたカゴに視線を向ける。


「後はこのクッキーだけです。」


 リンダが先程詰めていたクッキーの入ったカゴを持つと、フリードリッヒ様が手を出してきました。


「わかった。貸して。」


「はい。」


 リンダは年頃の令嬢よろしく、頬を染めてカゴをフリードリッヒに差し出した。


「さ、マリー、リサ、行こうか。」


 お嬢様とフリードリッヒ様の後に続き、馬車の停めてある玄関へ向かう。ユリの背後でリンダがリサにウキウキと話かけている。 


「リサさん、フリードリッヒ様付きの侍女はいらっしゃいますか?」

 

 気になるわよね。自分の父親と兄の上司になるかも知れない人だもんね。父親は愚鈍でも、その真っ直ぐな性格を気に入り取り立てて貰っているが、上司が代わればこの先はわからないものね。


 リンダの家は男爵家だが領地は持っていない。故に彼女の兄も幼い頃から文官になる為、家庭教師を付け、学校に通い、この春晴れて試験に合格した。見習い期間を経て、彼も父とに同じくリマンド侯爵の下に付くだろう。


「いらっしゃいません。強いて言うならお付きのフロイトさんが身の回りの世話をしてますよ。」


「フロイトさんって?」


「フリードリッヒ様の乳兄弟です」


「フロイトさんてどんな人ですか?私、会ったことないですよね?」


 フロイト、存在感薄いものね。フリードリッヒ様が派手だから余計にそうなのかも…。でも、これはちょっと酷いわね。あの子、普段からボーっとしているし大丈夫かしら?もしかして、私の深読みで、ただ本当に娘を案じて、ここへ奉公に出したのかしら?


「会ったことあるわよ。先程も、マリアンヌお嬢様の部屋の前にいらっしゃったわよ?リンダさんがお嬢様の部屋からでるとき、ドアを開けていて下さってましたよ?」


 お嬢様達の乗った馬車を見送り、ユリが頭を上げると、横に居るはずのリンダが見当たらない。後を振り向くと、そこに見送りに間に合わなかったリンダが呆然と立ち尽くしていた。


 ああ、また、ボーっとしてる間に馬車が行ってしまって、ショックを受けて固まっているのね。仕方ないわかね。


 ユリは嘆息すると、優しく声を掛ける。


「リンダ、ショックなのはわかるけど、しっかりしなさい。はい、これ、スミス夫人への手紙よ。オットーの馬車で行きなさい」


「は、はい」


 リンダはそう言うと手紙を受け取り、とぼとぼ馬車の方へ歩き出した。


 リンダ、早く素敵な相手が見つかるといいわね。男爵がこうして、結婚相手を急いで探す理由がわかる気がするわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ