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ストーリー通り ①

 お嬢様が夜会からお帰りになった。楽しかったらしくふわふわとした様子で、夜会でのことを矢継ぎ早にお話し下さる。


「あのね、ユリ。皇后様が私の店でドレスをお作り下さるとお約束下さったの」


 コルセットの紐を解きながら相槌を打つ。


「それはようございましたね。これで、出だしは保証されましたね」


「そうなの。ふふふ、私のドレスを褒めて下さったんですから、それで、他の方々も興味を持って下さったのよ」


 ユリはマリアンヌの装備具を外しケースへ戻すと、髪を解きながら不自然にならないように心がけてつつ、聞きたかったことを尋ねる。


「ジュリェッタ嬢はいらっしゃっていましたか?」


「あら、ユリも勇者親子に興味があるのね。ええ、無事にデビュタントを迎えてらっしゃったわよ」


 良かった、無事に社交界デビューを迎えることが出来たのね。これで、お嬢様と被らずに魔法学園に入学して貰える。


 ユリはホッと胸を撫で下ろす。


「お嬢様、そのままお風呂へお入り下さい。お疲れでしょうからこの後、マッサージも致しますね」


「ありがとう、わかったわ」


 マリアンヌを浴室へと誘い、そのまま髪を洗う。シャンプーの良い香りが辺りにたちこめる。


「面倒なことはおこりませんでしたか?ジョゼフ殿下は大丈夫でしたでしょうか?」


 事あるごとに、お嬢様に言い掛かりをつけてくるジョゼフ殿下が社交の場で大人しくしているとは思えず、心配で聞いてみる。


「少しね、でも大丈夫だったわよ。あの女性に興味の無いジョゼフ殿下が、ジュリェッタ嬢には関心を持たれたみたいだったの。ジョゼフ殿下のお好みの女性はジュリェッタ嬢みたいな方だったのね。お爺様が、一生懸命に私をジョゼフ殿下に勧められていたみたいですけど、私、ジュリェッタ嬢とは見た目が真反対でしょう?」


 マリアンヌが大きな溜息を吐く。


「左様でございますね。お嬢様の美しさと、ジュリェッタ嬢の美しくは相反するものでございます」 


「ね、ジョゼフ殿下が私を好きになる筈が無いわ。リフリード様みたいにね」


 マリアンヌは少し寂しそうに笑った。


「お嬢様」


 お嬢様が悟られた通り、あの物語の男達はジュリェッタの顔が好みなのだ。フリードリッヒ以外、ジュリェッタと結ばれなくてもマリアンヌに惚れることは無い。


「ふふふ、ユリそんな心配そうな顔をしないで、私には、兄様がいますもの、大丈夫ですわ。でも、私と周りの人達が婚約させたいと思っている方々って、私よりもジュリェッタ嬢のような方を好むのはいただけないわ。もとより上手く行くわけがないわ」


 そのまま、マッサージを施し、ドレッサーの前に移動して貰い髪を乾かす。水差しからコップに水を注ぎ、マリアンヌに手渡した。


 マリアンヌは少し膨れた様子で水を飲み干した。


「左様でございますね。その点、フリードリッヒ様はお嬢様がお生まれになった時から、お嬢様一筋でございますよ」


 ドレスの片付けを終えたリサも加わり、二人で髪の手入れをしていると、夜も深まっているのに何やら騒がしい。


「いったい何かあったのかしら?リサ、見てきて頂戴。」


 いつもは静かな屋敷の中が騒然とし、普段は冷静沈着なセルロスの旦那様という取り乱した声が聞こえる。


「はい、お嬢様。」


 リサは慌てて、部屋を出て行きました。ユリが手早くマリアンヌの身支度を整える。


「お嬢様、念の為、直ぐに外へ出られるようにこちらのワンピースに袖をお通し下さい。」


 身支度が終わったその時、ドアをノックする音と共にフリードリッヒの切羽詰まった声がした。


「マリー、ドアを開けても大丈夫かな?」


「あ、はい。」


 マリアンヌが返事をすると直ぐにドアが開き、蒼白のフリードリッヒとリサが入って来た。


「マリー、落ち着いて聞いてほしい。」


「はい。」


 もしかして、嫌な予感がする。リマンド侯爵が襲われたのはいつだった?


 ユリは必死で小説の内容を思い出す。


「宰相と、奥様の乗っている馬車が襲われた。」


「え」


「まず、お二人ともご無事だ。奥様の怪我は擦り傷程度、宰相は腕を折られた。ルーキン伯爵が左腕を損傷、今、ハンソン様とクロウが敵を追っている。城からも兵を出すそうだ


 マリアンヌはそのまま床へとへたり込んだ。フリードリッヒはマリアンヌを抱き上げると、そのままソファーへ下ろし座らせ、自分も近くの椅子に腰を下ろすと言葉を続ける。


「護衛をしていたルーキン伯爵の傷が思いのほか深い。今、城に駐在していたミハイルに来て貰って客室で治癒魔法をかけて貰っている。あのルーキン伯爵にそこまでの傷を負わせるとなると、かなりの手練れだと考えていい。」


 ルーキン伯爵が重症?旦那様で無くて?ストーリーは同じだが、怪我の具合がルーキン伯爵と旦那様が入れ替わっている。牙狼の騎士風は死んだはずだ、なら、誰が旦那様達を狙ったのだろう?小説では、旦那様は剣に塗られた毒が元で亡くなるのだ。なら、ルーキン伯爵も?ああ、わからないわ。


「良かった。皆、生きているんですよね。」


 マリアンヌの目から涙が溢れた、フリードリッヒは椅子から立ち上がるとマリアンヌの前で膝をつき、優しくハンカチでそれを押さえる。


「ああ、奥様と宰相閣下に会いに行くかい?奥様は気を失われて、ベッドで寝てらっしゃるが、宰相はサロンでセルロスと一緒にいらっしゃるはずだよ」


「ええ、お母様のお顔を見に行きます。お父様の所へも。」


「わかった、付き添うよ。」


 マリアンヌが立ち上がると、フリードリッヒはその肩を抱き支えるように外へでる。ユリがフリードリッヒとすれ違うとき、キリと睨み付けぼそっと釘を刺した。


「フリードリッヒ様、今はお嬢様が気が動転されています。それ以上はなさりませんように、宜しいですね。」


「わかってるよ、ユリを敵に回したくはないからね。それに、流石にこの状況だ。」


 フリードリッヒは軽く手を上げ、マリアンヌと共にリマンド夫人の部屋へ向かった。


 ユリは部屋の片付けを済ますと、リサへ先に休むように伝え、自分は状況を確認する為に皆が集まる一階へと急ぐと、客間から慌てた様子で出てきた夥しい量の血のついた布を抱えたメイドとすれ違った。


 もしかして、ルーキン伯爵の?


 心臓の音が早くなる。


「ちょっと待って」


 いてもたってもいれず、ユリはメイドを呼び止めた。


「何でしょか」


 振り返ったメイドの声は震えて、顔は蒼白だった。


「その布は?」


「ルーキン伯爵様の着ていらしたシャツでございます」


 ユリが布だと思っていたものは無惨にも破れ、夥しい量の血を含んだルーキン伯爵のシャツだっのだ。


「で、伯爵は無事なの?」


 メイドの顔が曇る。


「今はなんとも…、お医者様が患部を押さえて止血されているのですが…場所が場所でして、旦那様が城へ遣いを出されたのでソコロフ卿がもうじぎいらっしゃるかと…、それまで持ち堪えて下されば…」


「そう、教えてくれてありがとう。もう、行っていいわ」


 メイドの様子から、ルーキン伯爵の容態が思わしく無いことが窺える。


 そんなに深傷なの?盛りを過ぎたとはいえ、剣術の腕前は中々のものだと謳われている。多勢に無勢だったのなら兎も角、ちゃんと警戒していたのだからそこら辺の賊にやられるとは思えない。どれだけ手練れだったのよ。


 気持ちを切り替え、ルーキン伯爵居る部屋へ入ると、ベッドに横たわるルーキン伯爵の横に、医師が座り、メイド達が忙しく動いている。


「ルーキン伯爵の容態は?何か手伝えることはありませんか?か


 声をかけたユリに、医師は喜色満面の顔になる。


「おお、侍女殿、この水を凍らせていただくことは可能かな?」


 ユリは医師に言われれるがまま、桶に入っていた水を凍らせる。


「これで、よろしいでしょうか?」


「おお、流石じゃ。この氷を砕いて下され」


 ユリが氷を砕くと、医師はそれをサラシに包みルーキン伯爵の患部に当て、メイドに押さえておくようにもうし付けると、別のメイドに、皮袋にその氷を入れるように言い渡した。


「治癒者が来るまで、ひたすら患部を冷やすように。すまんが、侍女殿、もう少し氷を用意して貰えるだろうか」


「わかりました」


 医師はひと心地着くと、メイド達に指導しながらルーキン伯爵の傷口を冷やす。


「見た目は酷いが、切り傷の方は問題ない。厄介なのは毒じゃ、侍女殿のお陰で毒の廻りを抑えることは出来だが、この毒は解毒剤が無い。治癒魔法が効けば良いのだが…」


 医師は力無くそうこぼした時、急いで近づいて来る音が聴こえたかと思うと、乱暴にドアが開き、ミハイルとセルロスが慌てた様子で入って来た。


「ソコロフ卿をお連れ致しました」


「おお、ルーキン伯爵はこちらじゃ。急いで治癒魔法をかけて下さい」


 医師に促され、ミハイルはルーキン伯爵に治癒魔法を施す。淡いブルーの光がルーキン伯爵を包み込む。


 うわー、綺麗。あっ、見とれている場合では無いわ。


 ユリはそっとセルロスと共に部屋を出た。


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