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エーチェ ⑤

 お姉様が近々、帰ってくるとお父様が仰った。一人で帰って来ると思いきや、なんと、新たな使用人も連れて来るという。


 腹立たしいったら無いわ!勝手に使用人を雇うなんて、この屋敷の女主人はお母様なのに!この際だから、きっちりと、上下関係を教えてあげる必要があるわね。


 お父様に頼んで、お姉様とソコロフ公子の婚約も解消するように説得して貰わなきゃならないし。やるべきことが目白押しね。


 ああ、その前に、ドレスを用意しなきゃならないわね。ユリさんの話から、お姉様は誰かの伝手でその方の予約枠でマダムの店でドレスを作ったてことになるわね。まあ、お姉様がマダムの店にご自分の予約枠を持っているとは思えないけど、確認してみる価値はあるわ。もし持っていたら、その枠全てを私が譲って貰えば良いわけだし。違っても、お姉様からその貴人に頼んで予約枠を譲って貰えるように、説得して貰えばいいだけよ。


 少し駄々を捏ねれば、『エーチェに譲ってあげなさい。姉なんだから』とお父様に援護射撃をして貰えるから。


 お姉様が作ったドレスを取り上げれればいいけど、体型が全く違うから無理。ドレスの映える柔らかな女性らしい体型の私とは真逆で、お姉様は全体的に少年のような細っそりと引き締まったした体型をなさっている。


 冒険者をなさっていたので、それに磨きが掛かっているに違いないわ。ああ、嫌だ、嫌だ。子爵令嬢なのに男の子みたいな体型なのよ?本当、マダムのドレスが勿体ないわ、トラウザーズにシャツでも着れば良いのよ!

 

 ソコロフ公子もお可哀想に、あんな男の子みたいなお姉様の婚約者だなんて。お姉様の初恋の相手だって、私が声を掛ければあんな男の子みたいなお姉様じゃなくて、私の恋人になったのだから、ソコロフ公子もきっとね。


「お嬢様、ドレスが届きました」


 メイドが大きな箱を抱えて入ってきた。皇后陛下の誕生日の夜会で着る予定のドレスが出来上がったのだ。エーチェは早速、ドレスに袖を通す。


 真紅の胸周りが大きく空いた、腰の細さを強調するドレス。私を最も魅力的に魅せてくれるデザインを選んだ。真っ赤なピンヒールを合わせて、大胆に開いた背中を見せる為に髪は上に結衣あげる予定だ。


「とてもお似合いです」


「城中の男性の目を釘付けにできますね」


 口々にメイドたちがエーチェを褒め称える。マダムの店ほどではないが、それなりに人気の店で誂えたドレスだ。店主が母のファンだったらしく、色々気を利かせてくれるので懇意にしている店の一つだ。


 盛りの過ぎた歌姫にとって、子爵は生活を維持する為の唯一の拠り所だった。彼に縋り、好かれるように取り入る母を見て育ったエーチェには、貴族の娘達には無い色気があった。歌姫であった母から受け継いだ仕草であったり、表情であったり、人を魅了する為に舞台に立つ者独特のそれらを幼い頃より、自然と学んでいたのだろう。


「ふふふ、そうかしら」


 メイド達の言葉に満更でもない風に、ご機嫌に鏡の前で装備具を合わせる。


「そうに決まってます。当日は念入りに仕上げましょう。奥様も新たなドレスをご用意なさったみたいですし、お二人が揃えば、他の方々など霞んで見えるでしょう。お城での夜会ですので、クシュナ夫人も参られませんし」


 クシュナ夫人はエーチェの母のライバル的存在だ。雰囲気も系統も同じで、昔から張り合っている。彼女の装いはいつも派手で人目を引いた。未亡人のクシュナ夫人は夜会でいつも数多くの貴族を侍らせている。ただ、彼女は正式な城の夜会に出席できる身分ではない。


 皇后陛下の誕生会は私達親子の独壇場ね。お父様もさぞ鼻が高いだろう。


 エーチェはニッコリと満面の笑みを浮かべ、夜会で男達の視線を一身に集める自分達母娘の姿を思い描く。


「今年の誕生会には、リマンド侯爵令嬢は参加されるのかしら?」


 デビュタントがお済みだから、こうゆう公式のものには、侯爵令嬢として参加する義務があるわよね?


「はい、参加されるみたいです。確か、エスコートはフリードリッヒ様がお勤めになるとか…」


 いつもは近衛騎士として、警護に当たってらっしゃるフリードリッヒ様が!なら、踊って頂ける可能性があるわね。ああ、楽しみ!早く夜会の日にならないかしら。


「ああ、香水はどれにしましょう。今からフール商会へ遣いを出して、今流行りのモノを持ってくるように伝えて」


 ダンスでフリードリッヒ様と密着するんだから、匂いにも気を付ける必要があるわね。



 

 


 

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