計略 ①
感想、ブックマーク、評価ありがとうございます。誤字訂正非常に助かっております。移動中にちょちょこ書いているので…、変換ミスを訂正忘れのまま…なんてことも…。
ああ、仕事が終わらない。
お嬢様の店の準備に、日に日に増えるお嬢様へのお茶会や夜会へのお誘いの手紙。食事会の準備に、お城で開かれる夜会の準備。ユリは目が回るような日々を過ごしていた。
いつもの通り、お嬢様へ来た手紙の仕分け作業を行う。リマンド侯爵家の傘下で年頃で尚且つ、婚約者の居ない公子達の家から茶会の招待状が届いている。中には、宝石や布地を着て欲しい、気に入ったものがあればプレゼントしたいと言った物も含まれている。
ああ、お嬢様がこの前出された手紙を勘違いなさっているのね。
お嬢様が布地や宝石を特産としている門下に、ご自分の店で取り扱いたいとご自身でお手紙を出されたのだ。それを子息に興味があるので会ってみたい、という風に解釈されたようで、このような手紙がそれ以来こうして来るようになった。
フリードリッヒはピリピリしてるし、ユリはセルロスと共に彼等の相手をする仕事が増えた。
はあ、勘違いのお掛けで踏んだり蹴ったりよ。
ユリはついに仕事が回らなくなり、お嬢様へのお茶会や夜会の誘いのお断りの返事を、行儀見習いに来た伯爵家の令嬢リアレッドに任せることになった。ユリの横で返事を書いているリアレッドから、不満の色が見て取れる。おおかた、騎士家の娘であるユリの下に付くのが不満なのだろう。
「お嬢様はコレ全欠席なさるんですか?」
マリアンヌに見せずにユリが仕分けをし、欠席を決めていることへの非難が籠っている。
「ええ、そうよ」
ユリは尚も新たな手紙を開封して、中身を読み、仕分けして行く。
あっ、スタージャ様からお茶会の誘いだわ。これはお嬢様へお渡ししなくては。
ユリはスタージャからの手紙をマリアンヌに渡すボックスへと入れる。
「まあ、ロベルト卿からの手紙だわ。アマリリスを観に行きませんかですって、ロマンチックだわ。はあ、こんな素敵な手紙にお断りの手紙を書かなきゃならないなんて。お嬢様も、この手紙を見られてたら、絶対にロベルト卿とお出かけなさりたいと思うんですけど…」
ロベルト卿は伯爵家の次男だ。甘いマスクで物腰の柔らかなプレイボーイ。どこぞの美しい踊り子や、オペラ歌手など浮名を流した相手は数知れず。夜会では常に彼を美しい華達が取り囲んでいる。
「そうね、ロマンチックなお誘いね、お嬢様と面識があればですけど」
会ったことも無い令嬢を、二人きりでのデートに誘うとは軽率にも程があるわ。会えばご自分に靡くと、自信に溢れた手紙にしか思えないわ。
はあ、フリードリッヒ様もロベルト卿みたいに、ロマンチックな場所へお嬢様を誘えばいいのに、それすら難しいみたいだし…。市場調査に託けて、市井の服屋や、貴族街のドレス店を回るくらいしか誘えないなんて!他には、店で使う家具を買う為に商会へ行って、帰りにカフェやランチをご一緒に召し上がるくらい。ロベルト卿と比べると女性慣れなさってないのがよくわかるわ。
「えっ、お嬢様とお会いになったことがないんですか?」
「ええ、お嬢様が参加された夜会はデビュタントの時と、この前の奥様主催のご自分の誕生会のみです。お茶会は、スタージャ様が開催されるものしか参加されませんし。ここ最近まで、領地に引き篭もってらっしゃいましたから。ロベルト卿と会話を交わす機会があったとは思えませんわ」
ユリの言葉に侍女は驚いた様子で、自分の前に積まれた手紙の束に目をやる。
「もしかして、この手紙全て」
「ええ、お嬢様と面識の無い方々です。ですので、くれぐれもその辺を踏まえて、尚且つ失礼の無い様に返事を書いて下さい」
リアレッドは思うところがあったのだろう、黙ってペンを走らせ出した。
クラン子爵家からの手紙だわ。あそこに年頃の公子はいらっしゃらなかった。
訝しみながらユリが差出人を見ると、夫人の名前が書かれていた。
夫人から?
開封して手紙を読み進めると、ラティーナの魔法学園卒業を祝う夜会への招待状だった。
ああ、慌てて夜会を開催されるのね。良かったわね、ラティーナ様。上手くこの機会を利用してクラン子爵家を取り戻して下さいね。一悶着が起こる夜会に、お嬢様を出席させる訳にはいかないわ。幸い、ビオラの件はクラン子爵令嬢の耳には入っていないみたいだし。ビオラを離れに移したから、もう少しは時間稼ぎが出来そうだわ。
招待状の日付を確認すると、まだだいぶ余裕がある。
急いで欠席の返事をする必要は無いわね。おおかた、エーチェ嬢がフリードリッヒ様目当てにお嬢様を招待なさったのだろうから、急いで返事をして機嫌を損ねるより、期限一杯期待を持たせるのが得策ね。また何かしないとも限らないし。
ユリはラティーナと明日久しぶりに会う約束をしている。食事会の打ち合わせの為だ。
この手紙は丁度良いタイミングね。
「ユリさんに結婚の申し込み沢山来てますよね。どうして、受けられないんですか?」
侍女は手紙を封しながらユリへ質問してくる。
「私、執事のセルロスと結婚の約束をしているの」
「ユリさん、一応貴族の娘ですよね。なら、相手は貴族を望まないんですか?あっ、もしかして、セルロスと恋愛婚?なら、もう結婚なさっててもおかしくないですよね?」
ユリが貴族からの申し込みを蹴って、セルロスと婚約しているにも関わらず結婚していないことが、リアレッドはどうしても受け入れれない様子だ。
「私、お嬢様が魔法学園に行かれる時に付き添つもりですの」
「信じられない!まさかそれが理由で結婚してないんですか?」
「そうよ」
ユリの言葉にリアレッドは驚きを隠せない様子だ。
「私が、お嬢様の侍女に選ばれない理由がわかった気がします」
私がセルロスと結婚出来ないのは、別の理由もあるんだけどね。相変わらず、ジュリェッタは近衛騎士団駐屯所に通っているみたいだし…。まあ、フリードリッヒ様は移動になったから、お会いすることはないだろうけど…。
あんな調子で淑女教育、間に合うのかしら?もし、淑女教育が間に合わなかったら、リフリード様と婚約破棄したことで伸びたお嬢様の魔法学園の入学と被ってしまうじゃない!そうなったら、もともこもないわ!どうしたら、ジュリェッタに淑女教育に身を入れて貰えるのかしら?
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