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フリードリッヒの頼み

「ユリ、セルロス、少し時間を貰えるか?」


 ユリとセルロスが侯爵の執務室から出ると、フリードリッヒが声をかけて来た。


「どうした?」


 誰も見ていないことをいいことに、セルロスは砕けた調子でフリードリッヒに接する。セルロスにとって、フリードリッヒは昔面倒をみてやった弟分のようなもだ。


「大丈夫です。なに、セルロス。フリードリッヒ様にそんな口の聞き方してるのよ」


「そう、怒るなよ。俺はフリードリッヒ様の剣と、学問の兄弟子なんだからさ。昔は良く、稽古の相手になってやったんだぜ!で、なんだ?時間掛かるなら、談話室にでも行こうぜ」


 あっ、そうだった。セルロスもセバスさんに習ったんだったわね。セルロスがフリードリッヒ様に気安いのも納得できる。 


「ああ、その方が助かる」


 使用人用の談話室へ行くと、この時間帯は皆、出払って静まり返っていた。


「思った通りだな。で、何だ俺らに相談って?」


「マリーの店のことだ。マリーは夜会の翌日に店を開こうとしているが、解体屋の手配も、大工の手配もしていない。店舗の目星は付いたがどうしたら良い?」


 フリードリッヒの必死な様子にセルロスは吹き出した。


「全く変わってないな、お前は。お嬢様のこととなると、どんな小さな事でも血相を変えて相談しに来るとろは。最近じゃあ、鉄仮面や氷の騎士だなんて大層な名前で呼ばれているみたいだが、俺の前では常に百面相してるじゃないか」


「仕方ないだろ!他に相談出来る相手もいないんだ。それより、どうしたらいい?マリーを悲しませたくない。なんなら、頼りになる存在だと再認識して欲しい」


 フリードリッヒはセルロスが揶揄ってくることすら、どうでも良い様子で必死に聞いてくる。


「早急に大工、解体屋、レンガに木材等の人材と材料を揃える必要がある。本来なら、商業ギルドに依頼して選定するんだが、あまりにも時間がないな…。何処かに施工が終わりそうな建物があれば、そのまま、移行して貰えば良いだけだから、簡単なんだが…。今回は、短期間でだから、依頼する建物より少しでも大きいことが条件だ。俺が依頼していたチームでも良かったんだが、もう、解散してしまっているからな」


 流石、別館のリフォームを任されるだけあって、色々しっているわね。


 建物を建てる場合は、商業ギルドに建物の種類と規模を伝えると、メインとなる大工を紹介してくれる。紹介された大工と話し合って、気に入った人を見つけると、後は、大工がギルドで必要な人材を募ってくれる仕組みだ。


 だから、施工が始まるまでに二週間以上要するのは当たり前だ。木材や煉瓦、釘にセメントに使う砂等から壁紙や照明、それらを買う店も選定しなければならないし。注文を受けた店は商品を作成しなければならない。


「そういえば、貴族商業街にローディア商会が新たな店を構えていたな、そこの大工と工員を回して貰えないだろか?」


 近衛騎士をしているフリードリッヒは、貴人の護衛の為、貴族街をよく馬で回っている為、詳しい。


「ローディア商会ね、どうにかなるかも知れない」


 ローディア商会の会長は社交クラブの会員。何度か会話をしたことがある。リマンド侯爵家の名を出せば食い付いてくれる確率は高い。


 そう呟くユリに、フリードリッヒは目を輝かせる。


「本当か?」


「ええ、でも、それには私の時間が足りないわ。旦那様に食事会の準備を任されたの。それに、お嬢様のお世話だってあるから」


 フリードリッヒはユリの手を取り握りしめる。


「マリーの世話は俺ができる限りやるから、空いた時間をローディア商会との交渉に充てて貰えないか?」


 その手をセルロスは慌てて引き離し、ユリは自分にとっても都合の良い提案に大きく頷いた。


 フリードリッヒ様がお嬢様とご一緒なら、私は唯のお邪魔虫だ。その時間は比較的自由に過ごせるから、お嬢様や奥様に内緒で食事会の準備が出来る。それに、お嬢様の店の為と言う大義名分があるから、社交クラブにリマンド家の馬車で行くことも可能だ。


 クラン子爵の件以来、社交クラブへ行けて無かったが、馬車で会館まで乗り付け、護衛を待たせることが出来れば何の問題もないだろ。


「おい!お前な、ユリがお前が幼い頃から知っていて気安い相手だからって、妙齢の淑女なんだから、婚約者でも無い限り手を握るのは駄目だろ。全く、お嬢様のこととなると、見境が無くなるのは今に始まった事じゃ無いけどな」


「そんなにカリカリするなよ、俺とユリの仲なんだから」


 セルロスは盛大に溜息を吐くと、フリードリッヒをひと睨みした。


「絶対他で言うなよ、その台詞」


「わかったよ、この埋め合わせはちゃんとするからさ、機嫌直してくれよ」


 フリードリッヒへはそう言うと、ニマニマしながらセルロスの肩にポンと手を置き、ユリに聴こえないように囁いた。


「店舗の開店準備は、なるべく二人になるように配慮する。俺もユリにマリーを取られたくないからさ」


「約束だぞ」


 セルロスが小声で返せば、フリードリッヒは心得たとばかりに力強く頷いた。


 なんだかんだいって、二人とも仲良いよねー。フリードリッヒ様は他の使用人達とも上手くやっているようだ。まあ、メイドや下女は見目のいいフリードリッヒ様を受けが良いのはわかるけど、男性からも好かれている気がする。


 本当、お嬢様の婚約者がフリードリッヒ様になってよかったわ。リフリード様にはセルロスを始め、リマンド家の使用人男女問わず何となく余所余所しいかったから。まあ、それもコーディネル夫人の所為なんだろけど。


 でも、セルロスが気安すぎるのは問題よね。



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