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 セルロスはいつも通り書類の山と睨めっこしていた。


「セルロス、今日、お嬢様とマダムの所から来るデザイナーとお針子達とオランド商会へ、服を作る道具を買いに行くわ。一から揃えるからそれなりの出費になる予定よ」


「はあ、いくらかかるんだよ」


 セルロスの眉間の皺が深くなる。


「何、出費が嵩んでいるの?」


「奥様のドレスの請求書が来た。それと、離れの補修工事の見積もりが思ったより高くてね」


 ああ、亡きお嬢様のお爺様が療養なさっていた離れね。外観と内装はそのままに機能を加える工事をされる予定の。

 

 旦那様の要望は座敷牢。いや、美しい監獄。


 はめ殺しの窓に生活魔法すら使えない館内。木の一本、花壇すら潰し離れの周りを芝生で囲み外から人が近づいてきたら一目瞭然となる予定だ。


 それとも、シェルターなのかしら? 


「あれだけの魔石と、強化ガラスを使うんだもんね」


「移民の受け入れでだいぶ私財を投入した上、奥様の維持費だって毎月すごい金額だからな」


 奥様の維持費が高い。オペラの年間指定席に、毎月持ち込まれる宝飾品の数々、化粧品も全て最高級品。あのマダムの店の月一の予約権。魔馬の飼育費等挙げるとキリがない。


 水道の蛇口を捻ったように流れ込んでいるお金も、それ以上に使えば枯渇するのは当たり前よね。


 そうならないように調整するのがセルロスの仕事だ。


「わかった。なるべく出費を抑えられるように努力するわ」


「頼むよ。少しでも、貯蓄に回したい。初回の竜討伐でだいぶ私財を投入なさったからね」


 最初の竜討伐時に、沢山の移民をリマンド領へ受け入れたそうだ。その時に沢山の私財を投入し、移民の家や新しく田畑を食べ開拓する費用に当てたらしい。その支援した家の一つがオルロフ家らしい。


 オルロフ家からいくつかの爵位と引き換えに、今のオルロフ領と多額の資金と領地を提供した。それが、今のオルロフ伯爵家だ。オルロフ伯爵はリマンド侯爵の支援を得て、旧オルロフ侯爵家の領民と共に今の領地を得た。


 オルロフ侯爵とその直系の者達は領民を守る為、竜討伐時に亡くなり、侯爵の弟である今のオルロフ伯爵が末の妹と娘、そして領民を連れ避難し難を逃れた数少ないオルロフ侯爵門家の生き残りだ。


 オルロフ伯爵は矜持が高いから、スミス侯爵家を敵視しリマンド侯爵家に入り込みたいと考えているのよね。それが、リフリード様とお嬢様の婚約だったんだけど…。


 まあ、わかんないでも無いよね。兄が死に自分が次期侯爵になると思っていたら、伯爵家に降格され、スミス家に侯爵位を奪われた形になったんだもんね。


 最初、陛下の婚約者はオルロフ侯爵令嬢だった。だが、あの竜討伐でお亡くなりになり、その席が空き、スミス侯爵令嬢が皇后になった。腑が煮え繰り返るのはわかるけど、亡くなったものは仕方ない。可能性のあったコーディネル様はフリップ伯爵と婚約し、治癒魔法の力を失った直後だった、他にオルロフ家には陛下と婚約出来る妙齢の令嬢が居なかったので致しかた無い。


 もし、コーディネル様と陛下が婚約されていたらオルロフ伯爵は侯爵。例え領地が無くとも侯爵位を返還する必要は無い。


「じゃあ、そろそろデザイナー達を出迎えに行くわね。ああ、そう、次の月曜日は社交クラブへ参加するわ」


「わかった、その日は俺も一緒に行くよ。従者として」


「リマンド侯爵家の執事様が従者って!」


「あはは、気にしない、気にしない!ほら、もう着く頃だぞ」


 ユリは頬を膨らませたまま、エントランスへ急いだ。

エントランスに着くと、丁度馬車が停まっていた。


 良かった、間に合った。


 馬車から、若い女性達が降りて来る。ユリは皆が降りるのを待って挨拶をする。


「リマンド侯爵家で、お嬢様付きの侍女をしておりますユリと申します。皆様のご案内をさせて頂きます」


「デザイナーのイザベラです」


 イザベラ…


ユリはハンマーで頭を打たれたような気持ちになる。正直、この後の自己紹介してくれたお針子達の名前が頭に入って来ない。


 薄幸のデザイナー。


 砂漠の国であるサウザード帝国の皇帝の側室が不貞を犯し産まれた子。産まれてすぐにその命を守る為、側室が侍女に託した娘。イザベラは道中で親代わりである侍女を亡くし、護衛と共に命からがらこのトリッシュ国に流れ着いた。護衛が死に彼女はマダムに拾われる。


 彼女の作ったドレスを着て、ジュリェッタはクリスマスに開催される舞踏会に出席し、彼女の父親違いの兄との距離がグッと縮まる。その兄こそが、魔法学園に留学中のサウザード帝国の皇子であるアクシオン。彼はジュリェッタの着ているドレスの刺繍を一目見て、これが実母の祖国の物であると気付く。ジュリェッタのお陰で、イザベラは兄と再会を果す。


 その礼として、サウザード帝国はオーランド国と戦争をした直後、弱体化した我が国への攻撃をしなかった。


 ゲームではハーレムエンドの必需品だ。このドレスが手に入らなければハーレムエンドは望めない。終盤の手助けアイテムで、全ての攻略者の好感度を上げることができる一発逆転が狙える品。


 なぜ、彼女がここへ?


 お嬢様とジュリェッタのポジションが入れ替わっている?


 もう、こうなると、小説の情報もゲームの内容も信じられない。


「ユリ様?」


 イザベラに声をかけられて、ユリはハッとした。


 やっばーっ、お針子さん達の名前聞いてないよ!


「お部屋へ案内致します」


 ユリは動揺を隠し、無理矢理侍女の顔をどうにか貼り付けてイザベラ達を部屋へ案内した。

 

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