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マリアンヌの婚約 ①

「どうして、リフリードなんですか?リフリードで良いなら、僕でも良いじゃないですか?」


 フリードリッヒの叫び声がフリップ夫人の部屋から響く。


 リネンを運んでいる途中、フリードリッヒ様の叫び声が聞こえて、フリップ夫人の部屋の前で脚が止まってしまった。立ち去ろうとは思うのだが如何せん脚が前に進まない。そうこうしているうちに、フリップ伯爵の声が聞こえてくる。


「そうはいかんのだよ、ジョゼフ殿下のパートナーにリフリードが内定してしまったのだ。知っておるだろ、相手の得るものから選び与えられるということを」


「それが、マリーとの婚約ですか?」


 フリードリッヒの悲痛な声が響く。


「ああ、そうだ」


 決定は覆らない、ジョゼフ殿下とリフリードが治癒魔法のパートナーと言うことは王命。それゆえに、マリアンヌ様との婚約も強く頼めばリマンド侯爵でも飲まざるを得ない。ジョゼフ殿下はマリアンヌ様と婚姻する権利があるのだから。その事をフリードリッヒ様は幼いながらに理解しているはずだ、自分の母が特別な血を引く人物だと言うことを小さな頃から聞かされていたと書いてあったからね。


 長い沈黙。


 そっか、リフリードとの婚約って、ジョゼフ殿下が絡んでたんだ。お嬢様との婚約をまだ幼いリフリードが望む訳は無いから、多方、彼の母親である第一夫人かその父辺りからの要求なんだろな…。これは私ではどうすることもできないわ。


 普段のお嬢様に接するフリードリッヒ様の様子をみていると胸が痛むわ。本当、それは無いよ!


「なら、一つだけ我儘を聞いて貰えませんか?」


「何だい?」


「僕の治癒魔法の相手はマリーにして下さい。治癒魔法のパートナーとは一生を通じて絆ができます。その相手を学園で適当に見つけるのは嫌です、結婚できないのならせめてこの繋がりだけは僕が欲しいんです」


 お嬢様が学園に入学する前に治癒魔法使えるようになる原因か…。


「だが、マリアンヌ嬢が相手だと確実にお前は治癒魔法の習得を諦めることになるのだぞ?」


 確かフリードリッヒの魔法能力は高いから、治癒魔法を習得する可能性は高いんだっけ?


「それでもいいんです。そうしたら、リフリードに何か有った時は僕がマリアンヌと結婚できるでしょう?」


 そろそろ不味いかな?


 私はゆっくり足音が立たないようにその場を離れる。


 お嬢様が学園に入学する前に治癒魔法を使えるようになったのは、フリードリッヒ様の我儘で、リフリードと婚約したのはフリップ第一夫人側からの要望か…。


 リフリード、あまり出来が良くないから劣等感に苛まれてしまうんだよね。その原因がフリップ第一夫人の不貞とか、母親としてあり得ないんだけど!この世界は血が全てだってわかってるはずなんだけどな、フリップ第一夫人も貴族なんだし!


 フリップ第一夫人は確かかの竜討伐で滅んだ侯爵家の直系。だから、伯爵令嬢だけど魔法能力は侯爵令嬢と同等だから資格はあるって言って、うちの旦那様に散々婚姻を迫ったんだっけ?まあ、皇女様には勝てなかったんだろうけど…。で、行き遅れになって、門下で責任を取る形でフリップ伯爵が結婚したと…。


 フリードリッヒのお母様とは生家の格が違うから、フリードリッヒのお母様はフリップ第一夫人にいつも遠慮しているんだよね。


 フリップ伯爵も第一夫人とは夜会に出席する為のみの関係みたいだし、それに比べて第二夫人とは仲睦まじいよね、月の大半はここに泊まってらっしゃるし…。


「おい、邪魔だ。何、リネン持ったまま突っ立ってるんだ?」


 セルロスか、人が考え事してる時に煩いわね。


 ん?こいつ、確かこの家で生まれ育ったんだっけ、なら、リフリードについても私よりは知ってるかも?


「ねえ、リフリード様ってどんな方なの?」


「唐突だな。何だ、お前もお嬢様の婚約の話を聞いたのかよ」


 お前、お嬢様付きだしなとでも言うように、軽く溜め息を吐いた。


「で、どんな方なのよ?」


「良くも悪くも普通だよ。まだ魔法が使えないらしく家庭教師が焦ってるって話だぜ?んー、見た目は可愛らしいお顔をなさってるよ。だだ、色がね、どっちでもないんだ」


 セルロスの言う、色とは髪と目の色のことだ。本来貴族同士の子なら、伯爵か夫人の色がはっきりと出るのだ。それが魔力とイコールとなっている。だから、お嬢様がジョゼフ殿下の治癒魔法能力相手に選ばれ無かった。お嬢様は皇女様と侯爵様の子供、ジョゼフ殿下は上皇兄と下級侍女との子供、間違いなくお嬢様の方が魔力が高いのは周知の事実だ。下級貴族の娘である私でもわかること…。


「お嬢様と同じ歳だもんね。まだ良く分かんないか…」


「まあな、俺はフリードリッヒ様とこのまま婚約してくれればって、期待があったのは事実だけどね」


「私もだよ」


 反りは合わないけどこの点だけはセルロスに同意できる。フリードリッヒ様なら、お嬢様がどんなにピンチに陥っても全力で守ってくれる!そんな確信がある。


「ねえ、上位貴族の婚約破棄ってどんな場合に起こるの?私には関係のないことだけど、ほら、予備知識としてね」


 さっき、フリードリッヒ様がもし、お嬢様とリフリードが婚姻破棄をしたら自分がお嬢様と婚約できるって言ってたよね。


 セルロスは訝しげな視線を向けて来つつも答えてはくれるようだ。


「そうだな、相手側が不貞を働いた場合かな?後は、死別、で、著しく評判を下げた場合もそうだね。それが家の評判でなく、また、その下に弟妹がいる場合は年齢に問題が無ければ繰り下げになる場合が殆どだけどね」


 なる程、リフリードと婚約破棄をしたら、フリードリッヒ様と婚約することになるんだ。


「それは、どうして?」

 

「貴族の結婚なんて家同士の利害関係の下に成り立っているからだろ。皇女様なんて、基本同盟の証として嫁ぐんだぜ。まっ、うちの奥様は宰相の役を引き受ける対価として嫁いで来られたけど」


 そんなことも分かんないのかよ。とでも言いたげな視線を向けてくる。


 リフリードとお嬢様の婚約破棄はリフリードが何かやらかすか、死ぬかのみなんだ…。死はアレだから、リフリードが何かやらかす方へ賭けるしかないわね、出来るだけのことはやろう。


 リフリードとの婚約が決まってしまった。来年フリードリッヒ様は十二歳、騎士学校へ行く為にこの侯爵家から出て行く。お嬢様はショックを受けられるはずだわ、それを少しでも癒す為にお嬢様の信頼を勝ち取らないと。後、旦那様と奥様がお嬢様の事を愛していることをしっかり伝えていく必要があるわね。小説のマリアンヌは二人から愛されていないと感じ、他人へ厳しく当たるような態度をとるわけだし。ここからが勝負よね。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前(本編?)から「フリードリッヒ」と「リフリード」の二人の名前が紛らわしかったけど、作者様は混乱しないのですか? ※本話の合体(リフリードリッヒ)は誤字報告へ挙げさせて頂きました。 ※作中の…
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