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疑惑

「どうしたんだよ、顔色が悪いぞ」


 お茶セットをワゴンに乗せて、厨房へ運んでいる途中でセルロスに声をかけられる。


 もし、ジュリェッタが自分と同じだったらと思うと、心配で仕方がないのだ。彼女はヒロイン。その事実だけで、この世界のいろんなモノが彼女の味方ではないかとさえ思える。


「あ、うん。そ、そっかな?」


 曖昧に濁すユリに、セルロスは心配そうな表情でワゴンを取り上げた。


「部屋に戻って休めよ。これは俺が片付けとくから」


「ありがとう、でも、大丈夫よ」


 執事であるセルロスに、この仕事を押し付けるわけには行かない。


 ユリの言葉を理解したのか、セルロスは近くにいたメイドを呼び止め、ワゴンを厨房へ運ぶように申し付ける。


「もう、召し上がりになった後だから大丈夫だろう」


 お嬢様が口にされる物は、全て細心の注意が払われる。だった一人のリマンド家の後継者なのだから当然だ。故に、メイドが運ぶことは無く、ユリか最近、念願のお嬢様付きになったリサが担当する。


「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから、ちょっとビックリしただけ」


 ユリの言葉にセルロスは納得がいったような顔をした。


「ああ、旦那様が暗殺されるかもしれないって話か」


 本当は違うが、自分とジュリェッタが転生者で、この世界で起こる事を知っているなんて、そんな事、口が裂けても言えない。頭のおかしい人扱いされるか、見張りがついて、警戒されるかのどちらかだ。ジュリェッタにはヒロイン補正があるかもしれないが、ユリはモブだ。そもそも、強制労働を強いられる身。危ない橋など渡る訳にはいかない。


「ええ、そう」


 セルロスの勘違いに合わせおくより他はないわね。


「大丈夫だ。クロウが常に旦那の警護に付くから。それに、そうなると、ルーキン伯爵自ら旦那様の警護にあたられるだろうしな」


「何故、ルーキン伯爵が?」


「ああ、ユリは知らなかったか。それは、このリマンド家の成り立ちに関係があるんだ。ルーキン家はもともとこの国の者ではないんだ。亡国の王子だったリマンド家の祖先は、オーランド国に攻め込まれ命懸けで逃げていたところを、この国の王に匿われ、それどころか末姫を与えられた。それがリマンド家の成り立ちさ。ルーキン家はそのその命を救われた王子の騎士なんだ。ルーキン家の誓いは、遥か亡国がある時代から女神に立てた誓いらしい。ルーキン家は彼らの王であるリマンド家が滅びない限りその剣と盾となるとね」


 そんなこと小説には書いてなかったわ。


「初耳だわ」


「だから、リマンド家の血筋はその亡国の王族の血統である。シルバーに近いプラチナブロンドの髪にオーブの瞳なのさ。本来は、シルバーだったのがこの国の末姫の血が混じり、プラチナブロンドになったと言われているんだ」


 まあ、これは、殆ど言い伝えに近いから、真意のほどは曖昧な部分もあるけどね。と、セルロスは苦笑いをしがら話してくれた。


 何それ、面白そう。この世界での娯楽は少ない。


「その話、何処で読めるの?」


「興味があるのかよ。読むなら、中央図書館にあるぞ」


 中央図書館は貴族街と平民街の丁度真ん中にある。貴賤に関係無く本を閲覧できる。庶民や下級貴族にとってはとても有り難い場所だ。


「ありがとう」


「だから、安心しな。そんなに簡単に旦那様は死なないからさ」


 安心させるようにセルロスは務めて明るくそう言うと、ユリの頭の上にポンポンと軽く手を置く。


「でも、先読みの力があると言われているくらいなのだから、その真意のほどは確かなのでしょう?」


「んー。微妙なんだよなぁー、それが」


 何、そのはっきりしない様子は?小説を読んだり、ゲームをしたりしていたのなら、きっちりとその先読みの力とやらを発揮できるでしょうに。


「微妙って?」


「ああ、それが、全て少しずれているというか、ピッタリ当て嵌まるものが無いんだ。確かに、城にはアナスタシアという侍女がいたんだが…。彼女は失態を犯して侍女を首になり、街の酒場で働いているという予言なんだが…。だが実際は、失態は犯したが騎士と結婚して、辺境へと一緒に移動となった」


 アナスタシア…


思い出した。ジュリェッタの協力者になる人物だ。彼女は城で侍女の経験があり、美人だった為、城では顔が効くのよね。確か、ジュリェッタが魔法学園で必要な物をハンソン様と共に買い物に行った時に出会う。アナスタシアがタチの悪い冒険者崩れに絡まれている所を、ジュリェッタがハンソン様と共に助けるイベントが発生する。


 アナスタシアはジュリェッタに感謝して、彼女のメイドになると言うのよ。昔、城で侍女をしていた、失態を犯し首にはなったけど、きっと役に立つとアピールしジュリェッタの侍女となる。


 ゲームでも小説でも、アナスタシアがどんな失態を犯したかは言及されていない。


「ねえ、アナスタシアさんは、どんな失態を犯したかの予言はあったの?」


「無いな」


 やっぱり。ゲームか小説に載ってないことは、予言できないんだ。


「そっか、で、アナスタシアさんはどんな失態を犯したの?」


「それが、彼女の罪は彼女の旦那様になる騎士の将来にも関わることだから、公にはされなかったそうだ」


 まあ、旦那様が騎士爵を頂いているならそうなるわね。騎士様の体裁もあるから。


 これがゲームの世界と同じならば、ジュリェッタは課金システムのアイテムを運んでくれる人物が居なくなる。


 小説では、流行りに敏感なアナスタシアが今、王都で流行っているアイテムをジュリェッタに薦めてくるのだ。彼女は狡猾で、自分がジュリェッタの侍女なのだから、まず、自分が試してからジュリェッタに使うように言う。それは、普通なのだが、その量が多い。ジャンプーも、香油も、毎度、3分の1はアナスタシアが使う。


 ただ、彼女のセンスは抜群で、尚且つ、ジョゼフ殿下の好みも熟知している。城で働いていたこともあり、ルーキン家の侍女、ナタリーより数段目も肥えているし、王都に伝手も多い。だから、ここぞという時、ジョゼフ殿下好みの素晴らしいドレスや可愛らしいワンピース、それに合う装身具を用意できるのだ。


 彼女がゲームで、課金アイテムの案内人として現れたときは嵌まり役だと思ったわ。


 アナスタシアが辺境へ行ったのなら、ジュリェッタは課金アイテム(センスの良い品)を手に入れる機会を失ったことになるわね。


「アナスタシアさんはもう辺境へ立たれたの?」 


「まだだ、皇后陛下の誕生日の夜会の後、辺境伯夫妻と共に辺境へ向かわれるそうだ。アナスタシアさんは辺境伯の屋敷で侍女として、迎えられることになったらしい」


 アナスタシアが辺境へ立てば、完全にジュリェッタとの接点は無くなるわね。

 

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