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マリアンヌとフリードリッヒ

 お嬢様に頼まれてお茶を準備し、そのままお嬢様の部屋の前で見張りをする。


「フリードリッヒ様、まだ婚約者候補でございますから、わかっていらっしゃるとは存じますが、くれぐれも、くれぐれもお嬢様に何もなさいませんように。よろしいですね?」


 ユリはフリードリッヒをひと睨みして部屋から出て行った。ドアは拳ひとつ分開いており、そこからユリのお仕着せのスカート部分が見える。


「はあ、ユリからの信用が全くないな。まあ、仕方ないか」


 部屋の中から、フリードリッヒの声が聞こえる。


 はっきりでは、ないけど会話は聞こえるわね。見張りを頼まれるなんて、お嬢様の信用を得ている証拠ね。


「兄様、お話とは?」


「ジュリェッタ嬢の件だ。結論から言えば、この前の夜会に来ていたのはジュリェッタ嬢で間違いない。侯爵夫妻に挨拶がなかったのはジュリェッタ嬢がデビュタントを済ませておらず、そのことを知ったリフリードが機転を利かせて急いでその場から去らせた為だろう。」


 ジュリェッタはリフリード様のエスコートでお嬢様の誕生会に来ていた。それよりも驚きなのが、まだ、社交界デビューを果たしていないことだ。もうすぐそこまで魔法学園の入学が迫っている。ジュリェッタはこの春、魔法学園に入学する予定ではないのか?社交界デビューを果たさなければ、魔法学園の入学は出来ない。


 平民の商家の子供達でさえ、魔法学園に入学する者は社交界デビューをする。その為、彼らの親は高い家庭教師料を城に払って侍女を派遣して貰い、必死でマナーを学ぶのだ。侍女の合格が出てはじめて、魔法学園への入学が認められる。


 勇者の娘とはいえ例外は認められないわよね。


「私が見たのは、やはりジュリェッタ嬢で間違いなかった…。でも、どうしてジュリェッタ嬢とお解りで?あっ、ミハイル様から…」


「いや、それが…。ジュリェッタ嬢が近衛兵団に現れて、付き纏われているんだ…。それも毎日現れるものだから、流石に見間違えはないよ。」


 ジュリェッタはまだ、近衛兵団へ出入りしていたのね。


 ユリは近衛兵団の駐屯所へ入って行ったジュリェッタを思い出した。


「え。ジュリェッタ嬢は、リフリード様と恋仲のはずではございませんの?」


「訳がわからないんだ。デビュタントの時エスコートして欲しいと言ってくる。エスコートは婚約者か身内がするものだと言っても、ミハイルの言った通り言葉が通じない。」


 ユリの頭にハーレムエンド。


 いや、まさかね。私と同じく、前世のそれも日本の同じ時代の人物が、記憶を持ったまま生まれ変わるなんてね。早々にあることではないわ。


「ああ、マリー。君にそんな顔をさせるつもりではなかったんだ。心配いらないよ」


「マリー?」


「ご、ごめんなさい…。私、はしたない…。」


 ん?はしたない?


 今、お嬢様、はしたないって言いませんでした?


 お二人はいったいなにをなさっていらっしゃるのでしょう?フリードリッヒ様、ちゃんとお願いしましたよね?


 ユリは中へ入りたい衝動を抑え、聞き耳をたてる。


 貴族の令嬢として、お嬢様の名誉が傷付くようなことが起きていないか気ではないが、主人であるお嬢様に、外で見張れと言われている手前、中に入ることは叶わない。


「そのまま、聞いて。」


「はい」


「実は…。それより気になることがあって…。ジュリェッタ嬢が、侯爵が暗殺されるというんだ。それで、侯爵家はリフリードが継ぐことになると…。」


「えっ…。お父様が殺される!嘘よ!信じられないわ!ジュリェッタ嬢はどうしてそれを知っているの?誰から聞いたの?」


 旦那様の暗殺。


 ジュリェッタも私と同じく前世の記憶を持った人物!


 だが、ユリの知っている内容と齟齬がある。


 何で?牙狼の騎士もどきは死んだのよ?もしかして、ジュリェッタはゲームの内容しか知らない?それなら、納得がいく。


 ユリもゲームはした。やり込んだわけでは無いから、全てのエンドを迎えたわけでは無いが、大まかにならわかる。


 ふーん。ゲームの知識を先読みの力と言っているのね。


 確かに、ゲームではジュリェッタの言うエンドは存在する。だが、小説では()()()に降格されたリマンド家だ。


「落ち着いて、勿論デマであって欲しい。しかし、無視はできない。彼女には未来予知の能力があると言われている。彼女は未来にあることだと俺にそのことを告げてきた。その真意の殆どは解らないが用心するに越したことはない。」


「お父様、剣術はからっきしですものね…。」


 酷く動揺したマリアンヌの声が微かに聞こえる。


「ああ、城への行き帰りはなるべくご一緒するつもりだ。勿論、侯爵にもこのことは先程報告してきた。そう心配するな、俺が守るから。それに、護衛もつけられるそうだ。それに、クロウも常に側に置くとおっしゃっていた。」


「でも、それでは…。」


「大丈夫だ。配置換えをお願いして、宰相の護衛に加えて頂いたよ。そうすれば、ジュリェッタ嬢も流石に付き纏わないはずだし、行き帰り、宰相と一緒でも任務の一環として見られる。やっかみも減るさ」


 あら、フリードリッヒ様、お嬢様には相変わらず甘いのね。あんなに嫌がっていた旦那様との出勤を、お嬢様の一言で引き受けるなんて。


「お父様のことお願い致します」


「ああ、任せておいて。じゃあ、部屋へ戻るよ」


 フリードリッヒはそう言うと、マリアンヌから離れ、目を合わせる前に部屋から出て行った。マリアンヌはへたりとソファーへ腰を下ろす。フリードリッヒと入れ替わりで入ってきたユリがマリアンヌに声をかける。


「お嬢様、大丈夫ですか?お顔が真っ赤ですが…。」

 

 シリアスな話をしていると思ったけど、いったい何をしていたのよ。本当に、フリードリッヒ様、油断ならないわね。

 

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