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お嬢様のデート ②

 道中楽しく、オットーの話を聞く。あの市場で働いている殆どの人が元冒険者だそうだ。領地に田畑があるか、小さい頃から何処かに弟子入りして手に職でもない限り、冒険者になるのが普通らしい。それでも、ある程度金を貯めたら、何かしら商売をするのか畑を開墾するのが一般的だという。


「冒険者は肉体労働だから、身体能力が衰えると厳しい職業なんだよ。命懸けだし、依頼を達成出来なきゃお金は貰えないしね。Bランクでも50超えると厳しいと聞くよ。依頼が達成できなければ、格下の依頼しか受注できなくなるし、また、それを失敗するばその下の依頼って具合さ」


「一攫千金が出来る職業ではあるけど、中々世知辛いわね」


「まあな、運良く兵士試験に受かればめっけもんだけど、軍法とかあるから、自由気ままな奴には中々務まらないし、これも実力がなけりゃ入隊出来ない」


 確かに、今、我が国の国庫に余暇はないから、実力の無い兵士を一から鍛える余力は無いわね。


「棒にも箸にもかからなかった人はどうなるの?」


「非民街に沢山いるよ。あそこにいれば、朝と夕の二回食事が出るからな。それか、野盗になるかだな」


 夢の無い話ね。非民街はもと傭兵駐屯所だったと聞いたことがある。最初の竜討伐の時に旧オルロフ領から逃げて来た人に解放してから、その名残りで今も無償で食事を提供していると聞いた。


「なるほどね、王都は今、就職難だものね」


「さ、着いたゼ」


 オットーはユリを手伝って貰って御者席から降ろすと、ユリに目配せした後、馬車のドアをノックする。


「着きました」


 オットーが声を掛けてドアを開くと、フリードリッヒがマリアンヌをエスコートし馬車から降りて来た。


「マリー、足元に気をつけて」


 フリードリッヒのとびっきりの笑顔に、オットーは鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をしている。


 ほらね、とでも言う風な目でユリがオットーを見ると、オットーは首が捥げるのではないかというくらい縦に振っている。


「わぁー、可愛い」


 マリアンヌの感嘆の声に、皆頬が緩む。


「気に入ってくれたみたいで良かった、前、同僚が奥さんの誕生日プレゼントを買う時に付き合わされた店なんだ。その時、いつかマリーと来たいと思ってたんだ。」


 夢が叶ったよ。と、照れ臭さそうに笑うフリードリッヒにオットーは口をパクパクさせ、ユリに訴えかけてくる。


 ほら、言った通りでしょうと、言わんばかり顔をしてユリはオットーにこそっと話しかけた。


「店の裏手に馬車を停めてきて。あと、車内にバスケットがあるから、それも持って来てね」


「わかった」


 オットーは馬車へと戻って行った。店内ではマリアンヌとフリードリッヒが楽しそうに服を選んでいた。


「ありがとうございます、私、この店気に入りましたわ。」


「マリー、どんな服が好き?この水色のワンピースも似合うし、こっちの、小さな花柄のもいいな」


「実は、私、市井の流行がわからないんですの。」


 困った風のマリアンヌにフリードリッヒは、さも楽しそうに服を手に取って合わせいる。


「じゃあ、俺が選んでもいいかな?」


 最初から自分で選ぶ気満々じゃない。そりゃぁ、お嬢様の服を選ぶのは楽しいわよ。私も凄く楽しいもの、あれ程美しかったら、何でも素敵に着こなせるわよ。


「はい、宜しくお願いします。」


「よし、これにしよう。これを着てみてくれ。女将さん、これ試着していいかな?」


「いいよ、奥の部屋を使って。」


 ユリはマリアンヌに付いてこの店の女将さんに案内された奥の部屋に入る。


 フリードリッヒ様と女将さんは顔見知りっぽいわね。


 フリードリッヒが選んだ服は、水色のコットン生地に小さな赤い薔薇の刺繍がスカートの裾の所に一周ぐるりと施してあるワンピース。首元は白い丸襟で前開きの包み鈕になっており、腰には後ろに結ぶワンピースと同じ生地のリボンがついています。このリボンで締めてウエストを調整するのね。


 平民の服では上等な部類のもの。


 ユリはマリアンヌの服を脱がせ、ちゃっちゃと着付け行く。


 この後、平民街を散策するんだったわね。あまり浮かないように、髪は街でみる三つ編みにしよう。


 ワンピースを着せてはみるものの、その顔立ちと溢れ出る気品は隠せるものでは無いわね。まあ、フリードリッヒ様が付いているし、クロウ達もひと知れず警護しているから大丈夫でしょう。


「あら、お嬢様。これはこれで可愛らしいですわ。この服なら髪は2つに分けて編み込みに致しましょう。髪留めは先程、入り口に有ったリボンがよろしゅうございますわね。ちょっと待ってて下さい。購入してきますね。」


 そう言うとユリは足音も軽やかに試着室から出ると、入り口近くに陳列してあった青いリボンを手に取る。


 あのワンピースと同じ色の青いリボン。ワンピースを見た時にこれって思ったのよね。


「女将さん、これ下さい。後日、リマンド侯爵家まで請求書をお願い致します。」


「わかったよ。リマンド侯爵家に請求すればいいんだね、何だか高級な店の店主になった気持ちだよ」


 女将さんは冗談ぽく言う。


「女将さん。頼んでた通り、この侍女と裏手に停めてある馬車の御者を待たせて欲しいんだ。」


「いいわよ、それくらい。」


「ありがとう御座います。フリードリッヒ様にいわれてお菓子とお茶をお持ち致しましたので、後で入れさせていただきますね」


 女将さんは口を大きく開き手を当て目を見開く。お菓子など一生平民の口に入るものではない高級品だ。それも、侍女にお茶を入れて貰えるなんてそんな機会があるのは、大きな商会の会長とその代理くらいだ。


「お菓子かい?それも侯爵家の?そんな上等なもの頂いていいのかい?それも侍女様にお茶を入れて貰えるなんて、何だかお貴族様にでもなった気分だよ」


 夢のようだ、一生に一度あるかないかの贅沢だよと目を丸くしたまま飛び上がらんばかりだ。


「そんなに喜んでいただけたら、私も嬉しいです。では、お嬢様の所へ行きますね。」


 ユリは女将さんの反応に嬉しそうにニコニコして足早に奥の部屋へ戻って行った。


 


「お嬢様、リボンを購入してきました。では、髪を整えますね。」


 ユリは、あっという間に髪を編み込みリボンで結ぶ。


「さあ、出来ましたよ。お嬢様。」


 試着室のカーテンを開けて貰いマリアンヌが外へ出ると、フリードリッヒが試着室の前に水色の可愛らしい靴を持って待っていた。


「マリー、良く似合うよ。思った通りだ!さあ、仕上げにこの靴を履いてごらん。」


 そう言って、フリードリッヒは膝を折りマリアンヌに靴を履かせる。


「まあ、なんて可愛らしい靴!」


「あら、良く似合うじゃない。これで立派な町娘、には、やっぱり見えないわね。高貴な人間は何を着せても高貴なままね〜やはり、育ちがものを言うのかしら?」


 女将さんは感心しながら、腕を組んだ。


「じゃあ、ここからは歩いて行こうか」


「はい」


 平民街の商業地は馬車でまわるわけにはいかない。


「馬車はこの店の裏手に停めさせて貰えるから、ユリも御者もさっきマリーが着替えた部屋で、お茶をして待てるように女将さんにお願いしたよ。」


「女将さんありがとうございます。」


「お安い御用よ。お礼も頂いたしね。私達の口には入らない、高級お菓子。こちらの侍女さんがお茶も入れて下さるそうだし。侍女さんはユリさんておっしゃるのね、折角だからうちの商品をみてって頂戴!絶対気に入る物があると思うわ!御者さんの所には年頃のお嬢さんはいらっしゃらないの?」


 女将さんがユリとオットーを見てにっこりと笑うと、二人は引き攣った笑顔を浮かべた。


「女将さん、お店は大丈夫ですの?」


 マリアンヌの言葉に、女将さんはこともなげに答える。


「ええ、今日はもともと定休日だからね」


「まあ、申し訳ございません、折角のお休みでしたのに」


 ああ、お嬢様。いい子にお育ちになったわ。貴族の子女なのだから、それこそ権力を傘に自分が店に入ったのだからその間は貸し切りにしろって言う人が殆どなのに。


「この近衛騎士に、好きな子、紹介しろって約束してたからね。その約束を守ってもらっただけだよ、お嬢ちゃんが気にすることじゃないよ。」


「そ、マリーが心配することじゃないよ」


 はあ、嫌だ嫌だ。フリードリッヒ様、デレデレじゃない。顔の筋肉緩みっぱなしですよ。オットーなんて、ビックリしすぎて使い物にならないじゃない。


「しかし、本当に居たんだね」


「え」


 マリアンヌは少し驚いた顔をして女将さんを見る。


「この近衛騎士の好きな子だよ。女の子に興味ないんじゃないかって噂があるくらいなんだよ。あんだけ好意を寄せられてるっていうのに、あまりにも無愛想で鉄仮面って言われてるくらいなんだから。」


 この女将さんもフリードリッヒ様に対してオットーと同じ認識なのね。


「笑うのは、マリーの前だけで充分だよ、もういいだろ。行こう、マリー。」


 フリードリッヒは焦れた様子で、マリアンヌの手を引いて店の外へ出た。




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