お嬢様のデート ①
お嬢様の誕生会も無事に終わり数日がたったころ、ユリがマリアンヌの部屋にたくアロマの調合をしていると、フリードリッヒが声を掛けてきた。
「ユリ頼みがある」
「はいはい、今度は何の本をご用意したらいいですか?」
騎士学校時代の手紙の件もあり、フリードリッヒは事あるごとにユリを頼ってくる。幼い頃からの縁もあり、フリードリッヒの世話を焼くのは自然なことだ。
「本ではないんだ。マリーをデートに誘ったんだが、何処へ連れて行ったらいいと思う?ああ、後、マリーはリフリードと本当に出かけたことが無いのか?」
なんだ、学習の為の本の相談かと思えば、デートの相談かよ。というか、やっとデートに誘ったのね。奥手かよ。まあ、モテるらしいから、自分でデートに誘うとか思い付かなかったのかしら?それとも、侯爵になる学習が押してて、本当に時間が取れなかっただけ?
「ございませんよ。リフリード様はご自分のことで精一杯でしたから、本来なら、ご自分一人でこなされなければならない仕事でさえ、お嬢様主導のもと進めていたくらいですから」
「そこまで、リフリードは追い詰められてらいたのか、兄上から、リフリードの魔法の出来が悪いから、良い指導者に心当たりはあるかと尋ねられたことがあったが、これほどまで、追い詰められていたとは知らなかった。マリーにも、かなりの皺寄せがあったみたいだな」
何、そんなことも知らないなんて、フリップ伯爵家に全く帰って無かったの?ああもう、ここまで初恋拗らせてたなんて、知らなかったわよ。そう言えば、デビュタントの時、この屋敷に来たくせに、お嬢様に会うことも出来なかった意気地なしなんだよね、この人。
「そうですよ。そのおかげで、お嬢様は領地に軟禁状態。夜会は疎か、お茶会すら参加出来なかったんですからね」
「それは、申し訳無かったね。俺が婚約者になれたら、そうならないように努力するさ。ユリのお陰で前持って準備が出来たしね。宰相閣下の評価もまずまずだよ。ありがとう」
シン経由で送った手紙に、お嬢様は○○という幾何学の本を教師に頂いていたとか、倫理は○○まで進んだとか、帝王学は○○という本を使っているとか書いたことか。ふーん、ご自分で本をご用意なさって勉強されたんだ。
「それは様ございました。なら、お嬢様を不幸にするような事は絶対になさらないで下さい。オモテになる噂は、屋敷に篭りっぱなしの私の耳にまで入ってきてますから」
氷の騎士様って、街中のお嬢さん方の憧れの存在ですからね。表情が変わらないからって、鉄仮面って二つ名をお持ちよね。どこぞの伯爵令嬢に求婚されたとか、城の美人侍女に言い寄られているとか、噂が絶えないみたいですけど?
「大丈夫だよ。どれも、しっかりお断りしているから。そもそも、俺はマリー以外興味はないしさ」
うわー、何、このセリフ。この人に恥ずかしいって感情無いの?こっちが、恥ずかしいんだけど。こんな調子でお嬢様に好き好き言ってるの?ああ、だから、この前真っ赤な顔をしてお帰りになったのね。
「なら、結構です。で、ご相談とは?」
どうせ、いつもの無茶振りでしょう?
「そんな顔しないで、君にしかたのめないんだからさ」
あの、その台詞、大抵の女の子は勘違いするやつですから。
「で、何を、したら良いのでしょう」
この後、たっぷりとユリはフリードリッヒのデートプランを詰めるのに付き合う羽目になった。
はあ、こんなに時間を使うとは、もう休憩時間終わりじゃない。まあ、デートにご一緒して、服屋でお茶して待てばいいから、その日はゆっくり自分の買い物もできるから良しとするか…。
デート当日、フリードリッヒ様とお嬢様と一緒の馬車に乗りたく無くて、ユリは御者のオットーの横に座る。
何が悲しくて、いちゃいちゃしている二人と密室に居なきゃならないのよ。
「ユリさん、本当にここでいいんですか?」
オットーが気を使ってユリに尋ねるが、ユリからすれば、中で空気に徹するより外の風に当たる方が随分とましだ。
「オットー、貴方、ピンクの空気の中、気配を消して馬車に揺られたいと思う?」
「それは嫌だな」
オットーはユリと二人きりということもあって、いつもよりだいぶん砕けた雰囲気で話てくる。
「でしょう?」
「フリードリッヒ様って、そんな感じだったっけ?鉄仮面って二つ名まで有るくらいだからクールじゃないの?俺らと話してる時も、あまり感情が顔に出ないからさ」
へー、そうなんだ。人見知りなのかしら?私の前では感情豊かなんだけどなぁ。お嬢様の前では昔からいつもニコニコ笑ってるか、ちょっと困った顔してるかのどちらかよね。
「ねえ、私の知っているフリードリッヒ様とオットーの言ってるフリードリッヒ様って、同一人物よね?」
「お嬢様と一緒に私が操っているこの馬車に乗ってらっしゃるフリードリッヒ様ですが」
あっ、オットー、今、イラっとした?
「オットー、フリードリッヒ様がお嬢様と一緒のところをつぶさに見てな、私の気持ちがわかるから」
解せぬ様子のオットーに、ユリは溜め息まじりにそう言うしかなかった。




