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クロエ

 お嬢様の一存で私はお嬢様付きに戻ったものの、歳の近い侍女達からはそのことでよく思われていない。勿論セルロスからも…。


 いくら小さく有られても、リマンド侯爵家の一人娘であるマリアンヌお嬢様の意向が一番な訳で、お嬢様が『ユリがいい』と仰られれば旦那様か奥様がそれに意を唱えられない限りそれが通る訳で。旦那様は宰相としてのお仕事がお忙しいので、滅多に領地にはいらっしゃいませんし、奥様は奥様で、お茶会に夜会と飛び回っていらっしゃるので、マリアンヌ様のことはフリップ伯爵夫人と侍女長のソフィアさんに任せっきりですから、お嬢様のお気に入りの私は必然的にお嬢様付きになる訳で。


 もう、私にどうしろって言うの?自分で実力不足なのはわかってる。悔しいけど、センスの良い伯爵令嬢のクロエさん、私より数段お嬢様を可愛い仕上げてらっしゃる。知的センスに溢れるユリアさん、便箋選びからお手紙を書くのだってお手の物。男爵令嬢のマリアさんの刺繍はとてもお上手だし、糸の選び方や配合、グラデーションの入れ方や図案、まるで画家が描いた絵の様。


 悔しいけど、幼いころより貴族令嬢として小さな頃から学ばれた方々に、付け焼き刃の私が敵うわけがないのよね。


 はあ、どれも侍女としては欲しいセンスなんだよね。


 貴女達がずっとお嬢様の側に侍ってくれるなら、私だってお嬢様が彼女達に懐くように頑張るわよ!でも、一、ニ年もしないうちにここを辞めてお嫁に行かれるじゃない!


「ユリ、ユリもサラみたいにもうすぐお嫁にいっちゃうの?」


 サラさんは伯爵家の三女で、私と一緒にお嬢様付きだった方です。未熟な私に代わり全てを采配してくださっていた先輩侍女。この前、若き子爵様に見染められ嫁いで行かれたのよね。


 お嬢様、懐かれてたから寂しそうで。


「ユリはお嬢様がご結婚されるまでお嫁に行きませんよ、ご安心下さい。」


「本当に?」


「はい、ユリにはお嬢様と同じ歳の兄弟がいます。ユリがここで働かなければ、その弟は路頭に迷ってしまいますからね!すぐ下の弟には学校へ行ってほしいですし、私と違って出来がいいんですよ?」


 努めて明るく冗談ぽくお嬢様に伝えると、お嬢様は少し心配そうに上目遣いでこちらを見る。


 少し釣り目のキラッキラの大きなモーブの瞳が期待感を隠さず真っ直ぐに私を見つめる、ああ可愛い。


「ならユリは一番下の弟が大人になるまでは、マリーの側にいるのよね?」


「はい、お嬢様にお役御免を言われない限りは。もし、お嫁の貰い手が無かったら、その後ずっと雇って下さいね。歳の離れた方の後妻に入るよりはお嬢様にお仕えする方が楽しそうですから」


 シンは私より魔力がある。魔法学園にもどうにか通えるレベルだ、なら通わせてやりたい。出来れば家庭教師も付けてやりたい。ここで働き実家へ送金すればそれが叶う。


 それに、妹達の持参金額も貯めておいてやりたい。出来るだけ良い条件の所へ嫁いで貰いたいから。そうなると確実に行き遅れだね。それでもいいかな、一生お嬢様の側に居るのも多分悪くない。母親のように寄り添って、お嬢様の子育てを手伝って…


ヤバイ、ヤバイ、トリップしてたわ。


 何はともあれ、断罪されないことが重要よね。


「わあー、ユリがずっと私の側に居てくれるの?それは素敵!」


 良かった、お嬢様ご機嫌になって下さって。


 ノックの音がして、フリードリッヒ様が入ってこられました。


「マリー、剣術の稽古が終わったんだ。さあ、一緒に魔法の鍛錬をしよう、中庭でお母様が待っている」


 お嬢様はフリードリッヒ様と共に部屋を出て行かれました。最近、お嬢様はフリップ第二夫人の元、フリードリッヒ様と魔法の鍛錬を始められました。


「ねえ、さっきの話は本当なの?」


 一緒にお嬢様の支度をしていたクロエさんが、微妙な表情をして聞いてくる。


「ずっとお嬢様の側にいるって話?」


「ええ、貴女ここに婚姻相手を探しに来ている訳じゃないの?」


 ああ、そのことね。


「違うわよ、私は実家の借金を返すためにここで働いているの、だから余程良い条件でなきゃ結婚はできないわ。持参金無し、その上で実家への援助をしてくれる方でなきゃね」


 相当美人で無い限り、そんな相手、まず現れ無いわね。


「そうなんだ貴女苦労しているのね、ごめんなさい、誤解していたみたい、私。貴女も私達と同じだと思ってたから…。」


 そうよね、若い令嬢が侍女として働いていたら、普通婚姻相手を探しに来たと考えるのが普通よね。

 

「で、誤解は解けました?」


 クロエはバツが悪そうに、顔を少し赤くしながらボソボソと喋り出した。


「ええ。先程のお嬢様を見ていて気が付いたの、侍女がころころと変わるのはお嬢様の為にならないって…。私達と違って貴女はずっとお嬢様の側に居るつもりでしょう。私もお嬢様は大好きだけど…自分の幸せを棒に振ってまで仕えたいとは思わないわ。だから、私が貴女を立派なお嬢様付きに育ててあげても良くってよ」


 ん?なんですと?


 クロエさん、今何と仰いました?


 貴女が私を育てる?


「あの、私を育てると…?」


 聞き間違いではないよね?


 クロエは顔を真っ赤ににし、エプロンの裾をぎゅっと握りしめて捲し立てる。


「ええ、だって貴女がお嬢様付きとかお嬢様が可哀想じゃない!ドレスを選ぶセンスも、髪を結うセンスも技術もイマイチだし、文字はそれなりに見れるけど時候の言葉は定型文で面白味が無いし、手紙の内容も温かみに欠けるし、流行り物に疎いし、それに、それに、ああ、挙げるとキリがないわ。そう、だから私がお嬢様の為に貴女を立派な侍女にしてあげるって言ってるの!じゃなきゃ、良い縁談が来てもお嬢様が心配でお嫁に行けないじゃない!」


 クロエさんってツンデレ?


「あ、ありがとうございます?」


 凄く貶された気がするけど、教えてくれるって言うんだしお礼でいいのよね?


「覚悟しておいてね!そうと決まれば、ユリアとマリアにも協力して貰いましょう。やるなら徹底的にね!」


 うん?私、選択を間違えてた?

 

 それから空き時間を利用して、三人からのレクチャーが始まった。


「ユリ、そんな文章じゃ相手に侮られるわ。手紙一通で第一印象が決まるのよ?はい、書き直して」


「はい」


 クロエはソフィアさんの数倍厳しいんですけど…。


「商会は幾つか行きつけを作っておくと良いわ。店員と仲良くなっていればいち早く流行り物を手に入れることができるから、お嬢様が流行りの物を知らないなんて失態を犯さずにすむわ。但し、試す前には入念な下調べが必要よ。クリームや化粧品は必ず貴女が使ってからお嬢様に使うことね、たまに粗悪品が混じっている場合があるから。高価な物だからといって試すのを躊躇してはならないわ」


「わかりました」


 クロエは貴族社会の色々なことを教えてくれた、妬み嫉みが激しいこと、失敗をすれば容赦無くそこを突いてくること…。


「お嬢様は私が貴族社会で上手くやっていく為の大切な後ろ盾なの、一時でもお嬢様付きになれたのだから、お嬢様が失脚なさらない限りその恩恵を受けることができるの」


 だから、貴女には頑張って貰わないとね?と、にっこりと笑ってるけどプレッシャー凄いから。


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