表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/135

婚約破棄

 平和だった、ここ数年は何事もなく。なんでこうなった?


 リフリード様に呼ばれて、お嬢様と共に伯爵邸へお邪魔し、お嬢様を馬車でお待ちしていたら、真っ青な顔で今にも泣きそうなお嬢様が、こちらへ向かって歩いてらっしゃるじゃありませんか!


 お嬢様を支えて、馬車に乗り込み訳を尋ねると、リフリード様から婚約破棄を申し渡されたと?


 え?


 それは、魔法学園に入ってからでは?


 シナリオが崩れている?


 よくよく話を聞くと、リフリード様はジュリェッタともう恋仲らしく、将来の約束までなさったと?


 は?


 ダフートが三回目の竜討伐に参加し、そこで生き残り

勇者となった時にも驚いたけど、まさか、もう、リフリード様がジュリェッタと出会って、恋仲になっていたなんて?私の知らない所で話の内容が変わっている?それとも、私の読んだ本とこの世界は別物なの?


 心中穏やかでは無い中、それでも、ユリはマリアンヌを宥める事に徹する。

 

「ジュリェッタ様がどのような方か存じませんが、マリアンヌお嬢様より美しく、素敵なお嬢様をユリは存じません!それに、伯爵様に言えばよいものを、こんな下らないことでわざわざお嬢様をお呼び立てするなんて!リフリード様はいったい何をお考えなのでしょう?」


 ユリの言葉を聞き、マリアンヌはほっとしたのかユリにしがみ付いて泣き出した。ユリはハンカチをそっと差し出した。


 リフリード様との婚約破棄、それも、リフリード様の非によって。ユリにとっては喜ばしいことだが、マリアンヌからしてみれば、リフリードの分まで課題をこなし、遊びたいのも、同世代の子女達と交流を持つ機会さえ潰してサポートしてきたのだ。著しくプライドを傷つけられただろう。


「大丈夫ですよ、お嬢様。旦那様がきっとどうにかして下さいます。なんたって、旦那様はお嬢様が大好きなんですから。それに、奥様もご自分の容姿を貶されたのですよ、黙ってらっしゃいません。もちろん、伯爵様がリフリード様をゆるしても、このユリが絶対に許しません!」


 ユリの誇らしげなに言うと、マリアンヌはおもわず吹き出し、楽しそうに目に涙を溜めてころころ笑う。


「ユリ、ありがとう。でも、リフリード様はお母様の容姿を貶してはいなくてよ?」


 最近の奥様のご自慢は、お嬢様と良く似た姉妹のように見えると言われたことですから。そのことをお知りになったら、必ず激怒されますよ。


「マリアンヌ様は奥様によく似ておいでです。そのマリアンヌ様を貶めるなんで、奥様を貶されているのと同じです。必ず奥様もそうお感じになります!」


 ユリが胸を張りキッパリと言い切ると、マリアンヌは再びさも可笑しそうに笑い声を上げた。


 良かった。少しは元気になられたみたい。


 城へ帰るとユリはマリアンヌに付き添い、侯爵の執務室へと向かう。


「お父様、マリーです。ただいま戻りました。お時間少し宜しいでしょうか?」


「かまわんよ、入りなさい。」


 その声に促され、マリアンヌの後に続いてユリは部屋へ入る。侯爵は先ほど書いていた書類を執事に渡し、マリアンヌにソファーに座るよう促すと、ユリにお茶を頼み、軽く執事に目配せした。


 ユリと執事のセバスは軽くおじきをして部屋から出ると、厨房へと向かう。


「ユリ、フリップ家で何があったんだい?最近はリフリード様の魔法も上達し、上手くいっていたというのに」


 セバスは道すがら、訝しげにユリへ聞いてくる。

 

 そう、リフリード様はミハイロビッチを無事に師として迎え、魔法を使えるようになったのだ。それから、魔法が楽しくなられたご様子で、ミハイロビッチが来てくれる日だけでは飽き足りず、ご自分でミハイロビッチ宅へ足を運び、鍛錬に勤しんでいたらしい。


「リフリード様がお嬢様に婚約破棄をして欲しいと仰ったようです」


「はあ、何と言うことを…。その理由は?」


「リフリード様は勇者の娘であるジュリェッタ嬢と恋仲になられ、その方と結婚の約束をなさったそうです。それで、お嬢様から婚約を破棄して欲しいと」


「まったくしょうもないヤツだな…。自分の母親が無理に進めた婚約だというのに…、それなのに恋人を作り、その上、婚約破棄を言い出すなど。どう育てたらそのように育つのだ」


 セバスは眉間に皺を寄せ難しい顔になる。


「このまま婚約破棄となるのでしょうか?」


 貴族の婚姻は家の繋がりや契約を重視するため、本来、本人の意思ではどうにもならないものだ。それを、好きな人ができたからなどという理由で破棄するなど聞いたことが無い。 


「なるでしょうな。理由が理由なだけに、そこまでお嬢様を馬鹿にされ、婚約を維持することは難しいですから。まあ、奥様は婚約破棄理由には激怒なさるでしょうが、婚約破棄自体は大喜びされそうですが…」


「確かに」


 ユリとセバスは顔を見合わせて笑う。


「まあ、旦那様が良きに取り計らってくださいますよ。旦那様はお嬢様のことを大事にしていらっしゃるのですから」


「はい」


 ユリの心はセバスの言葉で幾分か軽くなった。


 そうよね。まだ、旦那様は健在なんですもの、それに、この婚約破棄自体がもしかしたら、良い方向に向かっているのかもしれない。旦那様が健在なら、お嬢様の婚約者を早急に選定なさるでしょうから、旦那様が毒に犯されても、その婚約者がリマンド侯爵家を切り盛りするはずだわ。なら、奥様が出来もしない家業を取り仕切り、財政難になることも無いわよね。そしたら、お嬢様も慣れない事業に手を出される必要もないわよね。


 お茶の用意をして執務室の前で待っていると、セバスを呼ぶ声がした。話は終わったのだろう。ユリはセバスと共に中へ入ると、侯爵にマリアンヌを部屋へ連れて行って休ませるように言われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ