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ユリの憂鬱

 春が近づいた頃、パブロ商会から手紙が来た。手紙にはやっと全てが片付いたと書いてあった。ミハイロビッチは、パブロ商会会長夫妻の援助もあり、どうにか、学園を卒業したらしいが、人間不信となり、パブロ商会本店の近くの林の奥に引きこもってしまったらしい。時折、夫妻が会いに行くことにしたと書いてあった。メイドは本当に最後の最後まで、シュトラウス子爵家に残り、ミハイロビッチの世話を焼き、彼が新しい住む小屋への引っ越しまで手伝ったと書いてあった。


 最後までとはお願いしたけど、ここまでしてくれるとは正直思っていなかった。金貨二枚の効果ね。


 なら、もう少ししたら、ここへ来てくれるかな?


 王都では、明日、スミス令嬢と皇太子殿下との結婚式と同時に、皇太子殿下の即位式が執り行われた。遂に、スミス侯爵家の誕生だ。社交界デビューの済んでいないお嬢様は、勿論そのパーティーに参加はできないけど、本当は、王都でその雰囲気だけでも感じたかっただろうに、それは叶わなかった。


 その上、リフリード様の学習が著しく遅れていて、そんな余裕がない。本来なら、リフリード様主導で取り組むべき仕事も、その殆どがお嬢様の負担となりつつある。二人を教育する立場である、フリップ伯爵も我が子の出来の悪さに頭を抱えていらっしゃる有り様。


 フリップ家の長男であるシードル様も、リフリード様とお嬢様の婚約がそもそも、間違っているのでは?と幾度と無く、フリップ伯爵へ仰っていらっしゃる所を目にした。だだ、シードル様もご自分のお母様がそれを強く望んでいる手前、強く言えないご様子。


「はあ、上手く行かないわね」


「どうしました。ユリ」


 盛大に溜息を吐いたユリに、セバスが気遣って声をかけた。


「あっ、失礼致しました。だだ、お嬢様が不憫で…。本来なら、旦那様や奥様と王都でお過ごしになれるのに…。暗に、リフリード様のことを責めているんじゃないんですよ…。リフリード様にだって、何か理由があるのでしょう。でも…」


「ユリ、その先は」


 セバスに嗜められ、ユリは謝罪の言葉を口にする。


「すみません」


「リフリード様もお辛いだろう。魔法がまだ上手に使えないらしく、そのせいで、ご本人も悩まれているみたいだ。遠乗りや剣術の稽古まで禁止され、その鍛錬を強要されているらしい」


 魔法が使えないことがあり得ない!という風潮の中、必死で使えるようにならないかも知れないという恐怖を抱えて、その鍛錬をしているかと思うと可哀想だと思う。でも、それならそうと、お嬢様や旦那様に一言ご相談なさるべきだ。


 そもそも、リフリード様が魔法を使()()()()ことは、お嬢様を始めリマンド侯爵家の人間は知らない。苦手だという認識だ。だから、お嬢様のリフリード様への当たりもきつくなるのは致し方ない。


 夫人の浮気のせいで、()()というレッテルを貼られているリフリード様も被害者よね。


 ミハイロビッチが落ち着き次第、どうにかして、リード様との接点を作らなきゃ!リフリード様が魔法を使えるようにさえなれば、リフリード様は変わるわきっと!


「そうなんですね、師と相性が悪いのでしょうか…」


「ん?そうだの。シードル様と同じ師に付いて、学ばれているみたいだが、同じ兄弟とはいえ、師が合わぬこともあるやもしれんな。よし、フリップ伯爵に相談してみよう。ユリ、ありがとう」


 これが、ミハイロビッチに出会うことに繋がれば良いけど…。確か、兄であるシードル様が四方八方に手を尽くして探すのよね。


「リフリード様、魔法が上達なさるといいですね」


「そう、祈るばかりですな。それはそうと、ユリ、君にソコロフ家から手紙が届いておりましたぞ。いつの間にソコロフ家と繋がりをもったのですかな?」


 ソコロフ家?


 ソコロフ家といえば、侯爵家の一つじゃない!どうしてそんな所から私に手紙が?ソコロフ侯爵家と接点など全くない。まず、お会いしたことも、そもそも、お顔を拝見したこともないのに?


 セバスに渡された手紙は、しっかりとソコロフ家の家紋が刻まれているが、差し出し人の名前は無い。


「身に覚えがありません」


「そうですか…。ですが、お相手がお相手です。ここは良いので、部屋へ戻って内容を確認なさい」


 セバスにそう言われたら、ユリは自室へ戻らざる得ない。お嬢様へ出すココアを頼み、ユリは自室へと戻り椅子へと座る。ペーパーナイフを手に取り手紙を開封する。中には、可愛らしい文字で書かれた白い便箋が入っている。


 ん?


 ソコロフ侯爵家は夫人以外女性はいらっしゃらなかったと思ったんだけど…。厳格で質素、礼儀と秩序を重んじていらっしゃると有名な夫人の字とは到底思えない。


 奥様の天敵でしたっけ…。


 昔、リフリード様のお母様に聞いたことがある。ソコロフ夫人は陛下の教育係をしていらっしゃったと、その時に、奥様は陛下の勉強の邪魔をしては、よく叱られていらっしゃとたらしい。


 よく見ると、それは馴染みのある文字で、ラティーナ様のものだった。


 なぜ、ラティーナ様がソコロフ侯爵家の家紋入りのレターセットを使ってらっしゃるのかしら?


 読み進めると、今、ソコロフ侯爵家に身を寄せていると書いてある。ソコロフ侯爵の次男との婚約を進めているが、実家からの横槍で中々思うように進まないらしい。落ち着いたら連絡をする。大丈夫だとは思うが子爵家の人間には気をつけて欲しい。あちは切羽詰まっているので、どんな手を使ってくるかわからないと書いてあった。


 子爵家が侯爵家と繋がりを持てるのは本来なら喜ばしいことなのだが、ラティーナ様の場合は特殊だからね…。


 彼女の品を手配していたことは、バレないとは思うが、ユリと手紙の遣り取りをしていたことは、調べればすぐにわかる。なら、子爵家からのなんらかの接触があるかもしれない。気を引き締めるに越したことはないわね。といっても、お嬢様は深窓の姫君、外出などなさる暇はないし、私もお屋敷に篭りっぱなしだから滅多なことは起こらないわよね。


 返事は不要と書いてあったし、こちらからのラティーナ様への連絡は控えた方が良さそうね。

 

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