表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/135

街へ ③

 二人で昼食を済ませ、馬車へ戻ると、セルロスは先程買った組み紐の一対をユリへ渡した。


「これは?」


「お前の分。この組み紐は二つで一つなんだ。こうして、二人で一つずつ持つことでその願いが叶うと言われている。ユリは貴族だから、組み紐の意味は知らないかな?」


 微妙な立ち位置にいるとはいえ、その意味を知り得る機会は無かった。クリスマスになると、両親は義務で夜会へと出かける。ユリはばあやと共に幼い兄弟の世話に追われた。とてもでは無いが、そんな余裕など無い。


「ええ、知らないわ」


「リボンの色に意味があるんだ。例えば、金貨を指す黄色は商売繁盛を、黒に黄色っぽいピースやビー玉は旅の途中で遭難しないように、夜に目印になる星を意味する。兵士たちの武士を祈るリボンはその兵士達が所属する隊のカラーに金属ビーズといった具合さ」


 リボンの色が部隊の色なら、金属の色は徴標を表しているのかしら?

 

「なるほど、色と使われているビーズやビー玉に意味があるのね。わかりやすいわね。で、この組み紐は?」


 ぶっきらぼうに車窓に顔を向けてボソと呟く、セルロスの耳は赤く染まっていた。


「恋人に贈る物だよ」


 本当はもう少し組み紐について聞きたかったけど、そんな雰囲気では無くて…。


 も、もしかしたら、セルロス、私のことが好き?なのかな?


「そ、そっか、あ、ありがとう」


 それから、ユリもセルロスも口を開くことは無く、馬車の中は馬の蹄の音と車輪が回る音が響くだけだった。


「着きましたよ。あれ、二人とも顔が赤い。馬車の中、そんなに暑かったかあ?」


 馬車のドアを開けたオットーは不思議そうに、目をパチクリさせている。


「あ、新しいコートが温かったのよ。手紙届けてくるわ」


 ユリは誤魔化すように慌て、馬車を降りクリソン伯爵邸へクロエへの手紙を届けに行った。


 ユリの手には、濃いピンクの組み紐が握られている。ユリは自室のベッドの上に寝転がって、先程、セルロスに貰った組み紐を眺めた。


 濃いピンクは、すぐに結婚できない恋人同士が結婚が出来るように願う。


 サリーに教えて貰った。少しづつ毎年薄い色の組み紐を購入する。その組み紐が白色になる頃までには、結婚を…。


 どんなつもりで、セルロスはこの組み紐を購入したのだろう。


 面映さにユリはベッドの上でのたうつ。


 だが、そんな幸せな時間は余り続かなかった。クリスマスの前日、クロエからの一通の手紙が届いた。その内容は驚愕するものだった。


 シュトラウス子爵家の借金の額は、膨大な上、法外な利子が課せられていた。タチが悪いことに、その契約書にはシュトラウス子爵のサインがはっきりとされており、それを無効にすることは難しいとのことだ。爵位と領地、そして家屋敷も全て売り、それでも足りない分はパブロ商会が肩代わりして、完済したと書いてあった。クリソン伯爵が間にはいり、王都裁判所で正式な証書を作成した為、これ以上は何があっても、ミハイロビッチをはじめ、パブロ商会が責務を負うことはないと書いてあった。


 まるで闇金ね。


 これでも、最悪の事態は免れたのよね。


 残念ながら、マロー男爵を取り締まる法は、この国には存在しない。まだ、最初の竜討伐の爪痕が色濃く残り、兵士も騎士も足りない状態だ。宰相を務めていた旧オルロフ侯爵が亡くなり、今は、リマンド侯爵が宰相と王都の管理、税の管理を全て一手に行っている。いくら有能とはいえ、改善策を施すには無理がある。


 クリスマス舞踏会で、スミス伯爵の長女との婚約後の御披露目があるともっぱらの噂だ。スミス伯爵御令嬢が魔法学園を卒業と同時に、結婚式、皇太子殿下の即位となると新聞が囃し立てる。王家のことだ、ちゃんと裏から手が回っているのだろう。


 スミス伯爵家は婚姻によって、侯爵家への仲間入りを果たす。スミス伯爵令嬢が皇太子殿下と婚姻することは、だいぶ前から決まっていた。治癒魔法の力は学園になる前から使えたのだろう。


 フリードリッヒ様のお母様がフリードリッヒ様が騎士学校へ行くと同時に、スミス伯爵家に奥様と足繁く通っていたのがその証拠ね。


 皇太子殿下の婚約者となられた、スミス伯爵令嬢と同じ正妻の娘、スタージャ様。この方が、皇太子殿下の婚約者様の治癒魔法のパートナー。そして、マリアンヌお嬢様の学園でのパートナー。


 小説ではお嬢様との関係が微妙なのよね。スタージャ様はお嬢様のことをあまり良く思っていない節がある。表立って何かをするわけでは無いけど、台詞の中にたまにチクリと刺す言葉が混じっている。彼女がなぜお嬢様を心良く思って無いかは、残念ながら、小説には書いて無かった。


 今のところ、お嬢様とスタージャ様の関係は良好なのよね。一人っ子のお嬢様は、二つ歳上のスタージャ様のことを姉のように慕ってらっしゃるし、スタージャ様もお嬢様のことを気に掛けて下さっている。


 お二人の間に、何が起こるのよ。


 取り敢えずは、パブロ商会からか、シュトラウス子爵のメイドからの手紙待ちね。ミハイロビッチ様がどうなったのか、それだけが気掛かりだわ。


 明後日には、お嬢様と共に領地へ向かう。できれば、その前に連絡が欲しい。メイドには、リマンド侯爵家の領地にいること、全て片付いたら、領地へ来て欲しいと手紙と金貨を2枚入れた。これで、旅費には困らない筈だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ