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シン ③

 昨日は色々ありすぎて、借金のことを姉さんに相談できなかった。今日、相談しようと思ったけど、何やら朝から忙しいらしく、顔を合わせる間も無かった。代わりに、昨日、姉さんが言っていた通り、サリーさんとリサちゃんがデビュタントの買い物に付き合ってくれた。


 サリーさんに促されるまま店に入り、リサちゃんと相談しながら服を選ぶ。本来なら、こんな事をしている場合じゃないのだけど、これは必要経費だと言い聞かせる。俺が社交デビューを済ませて、正式な騎士になれば父の給料の倍は貰える算段だ。


 姉さんが騎士学校に入る前に家庭教師を付けてくれたかいもあって、そこそこの成績で卒業できたから、城勤が出来そうだ。近衛騎士は無理でも、第一騎士団か、第ニ騎士団には所属したい。ここに所属すれば、宿舎があって食事も出る。その為、給料をそのまま借金返済に充てることができる。


「明日は、姉さんとの時間が取れるでしょうか?」


 借金のことを早く相談したくて、サリーさんに尋ねると、さっきまで笑顔だったサリーさんの顔が曇った。


「うーん。難しいわね。実は今、お嬢様の苦手なお客様がいらっしゃってて、その方がいらっしゃると、お嬢様は塞ぎ込んでしまわれるのよ。そうなると、ユリ以外お手上げでね。昔、フリードリッヒ様がいらっしゃった時は、フリードリッヒ様が宥めてらっしゃったんだけど…。フリードリッヒ様が出て行かれてからは…」


 なんだよ、その我儘お嬢様は。そう言えば、フリードリッヒ様への姉さんからの手紙には、そのお嬢様のことのみが書いてあった。毎回、そのお嬢様が何を勉強なさっているとか、最近は、こんな本を読んでなさるとか、そんなたわいのないことが書いてある。姉さんに言われた通り、その部分のみを抜いてフリードリッヒ様へ渡すと言うことを騎士学校に行っている間の数年行っていた。


 それを渡した時だけは、普段は何にも興味ありません、って顔のフリードリッヒ様は凄く嬉しそうな顔をなさっていたな。


「あの、フリードリッヒ様とお嬢様の関係って?」


 なんとなく、フリードリッヒ様には聞き辛かった事を聞いてみると、さらっと返答があった。


「フリードリッヒ様はお嬢様がお生まれになる前から、リマンド侯爵家でお過ごしになっていらっしゃったの。それで、仲睦まじく兄妹のようにマリアンヌお嬢様と過ごされていたのよ。でも、リフリード様とお嬢様の婚約が決まってからは、フリードリッヒ様はここを出て行かざるを得なくなってしまって…。ほら、奥様はあのような方だし、旦那様はとてもお忙しい方でしょう。だから、心の拠り所だったフリードリッヒ様が出て行かれてからは、一番長く一緒にいるユリへの依存が激しくなられて…」


 お嬢様って、案外寂しい人なんだな。フリードリッヒ様のあの笑顔は、離れ離れになった妹の近況を知る兄の気持ちだったんだろうか。歳の近かった姉さんがお嬢様の遊び相手をしていたことは容易に想像できた。その関係上、フリードリッヒ様とも親しくなったのだろうな。


「まだ、お嬢様は小さな子供だったんでしょう。なら、そんなに早くフリードリッヒ様がリマンド侯爵家を出て行く必要は無かったのではないのですか?」


 流石に、妙齢の兄妹でも無い男女が、同じ屋敷に住んでいたなら問題だろが、未だ、年端もいかない子供だったじゃないか。


「それがね、マリアンヌお嬢様の婚約がフリードリッヒ様の腹違いの弟君なのよ。で、その弟君は人見知り気味だし、お嬢様は彼になんの興味もお示しにならないしね…。それなのに、フリードリッヒ様がお嬢様と同じ屋敷に住むことをリフリード様のお母様が許す訳無いじゃない」


 嘘だろ?そんな状態で、マリアンヌお嬢様の婚約者がフリードリッヒ様では無く、その弟のリフリード様になったんだ?


「フリードリッヒ様のお母様が第二夫人だからですか?」


「それだけじゃ無いわ。王家が関わっているから、旦那様も奥様も無理に突っぱねることが出来なかったみたいなのよ。詳しくは、私もわからないわ」


 ん?なら


「今日いらしている、お嬢様の苦手なお客様って?」


「そ、リフリード様のお母様であるフリップ伯爵夫人よ」


 サリーは肩をすくめて、さも、面倒くさそうな顔をし、リサもうんうんと頷いている。


 買い物が終わってから、サリーさんが教えているリサちゃんのマナーの勉強に同席させて貰う。これも、姉さんから言われたことだ。姉さんはこれで苦労をしたらしく、俺も身に付けていた方が良いと熱弁された。


 それから数日、サリーさんのマナー学習と、リマンド侯爵家の騎士達に混じっての鍛錬をして過ごしている。未だ、お嬢様は本調子では無いらしく、姉さんはお嬢様に付きっきりらしい。借金のことを話せないまま悪戯に時が過ぎる。


 城での夜会を明後日に控えたその晩、ユリが部屋を訪ねて来た。


「シン、中々時間が取れなくてごめんね」


 少し、しょんぼりした雰囲気の姉さんに、昔、野苺を摘みに行ったが、全て前夜の雨で駄目になっていた日のことを思い出す。あの日朝は、姉さんが野苺が沢山なってる所を見つけたって、はしゃいでたっけ、ワクワクして行った結果が全滅。その日もしょんぼりしながら、シンごめんねって謝ってくれたっけ。


 姉さんは昔から、妙に大人びた所がある。たった一つしか違わない俺に、大抵のモノは譲ってくれた。昔は大して疑問に思わなかったが、四つ下の妹に、姉さんがしてくれたように譲れるかと言うと、正直言って難しい。面倒事も一人で抱え込む節があるから、借金のことを伝えるのはかなり迷った。でも、他から聞くより、ちゃんと家族から聞く方がいいだろうと意を決する。


「大丈夫だよ。サリーさんと、リサちゃんがよくして下さってるし、それに、護衛騎士の方々の鍛練にも混ぜて頂けているから充実した日々を過ごさせて貰ってるよ。それより、姉さんに伝えなきゃならいことがあるんだ」


 姉さんはわかってるとでも言いたげな雰囲気で、一つ大きな溜息を吐いた後、にっこりと笑った。


「借金のことでしょう。大丈夫よ、もう、その件は片付いたから」

 

 


 

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