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竜討伐 ⑧

 無事に竜討伐も終わり、結局生き残ったのは『稲妻』っていうパーティーと途中で逃げ出した数名の冒険者だけだった。稲妻のリーダーが準男爵を陞爵すると、どの新聞も報じ。王都では初めて誕生した勇者とその一行を讃えるパレードが行われ、国中お祭りムードだ。近々、城で陞爵の義が執り行われるらしい。


 パブロ商会は被害は出たものの、危機的状態には陥ることは無かったと知らせが来た。


 とりあえず、ミハイロビッチ様が最悪の状態に陥ることだけは防げたようね。


 

「ユリ、今日は機嫌が良いな、デートか?」


 食堂で賄いのオムレツをトレーに乗せていると、料理長のロビンが声を掛けてくる。


「違うわ、弟が領地からやってくるの」


 今日は、シンが王都へ来る。数日前に届いたお母様から手紙にはシンが社交界デビューの為、王都へ来ると書かれていた。勿論、お父様やお母様、そして、他の兄弟達の交通費や宿泊代を払える余裕などあるはずも無く、シンが一人で行くので面倒をみてやって欲しいと書かれていた。文末に、貴女に社交界デビューさせてあげれていないことを心苦しく思っていると書いてあった。


 お母様、気にしなくてもいいのに…。


 シンが来ることに心が躍る。


 金銭的な都合で長らく家に帰れて無かったからなぁ。成長期だし、シンも大きくなったかな?騎士学校での話も聞きたい。


「何でまた?」


「やっと、デビュタントを執り行ってあげれるの」


「そうか、良かったな。デビュタントが済み、正式に騎士として任命されれば、ユリ、お前もやっと肩の荷が降りるんだろ?これからは、ユリも自分の為に生きていけるじゃないか」


 ロビンは私がリマンド侯爵家に来た時から、何かと気にかけてくれた人物の一人。


「そうもいかないのよ、下に兄弟がいる身としてはね。私は良い働き口があったから良いけど、妹にはちゃんと適齢期に社交界デビューを済ませてあげたいし、弟もできれば騎士学校へ行って欲しいわ」


 ロビンはスープ皿をユリのトレーへ乗せてくれながら、目を見開いた。


「へー、そんなもんなのか、貴族も大変だな。社交界デビューしなきゃ、そんなに不都合でもあるのかい?」


「ええ、社交界デビューができないなら、豪商の妾になるか、歳の離れた貴族の後妻になるくらいしか道がないわ。私はラッキーなの、本来なら社交界デビューをしなければ、侍女として雇っていただけない所をこうして拾って頂けているのだから」


 だから、皆、無理をしてでも社交界デビューをさせるのよね。


「そうだな。それに、婚約者までいるもんな。しかし、君がそんなんなら、セルロスはいつ結婚出来るんだい?」


 ん?今何と?


 トレーを落とさなかった私を褒めてやりたい。いや、確かにあの場に、ロビンは居たけど…。うん。何だかな…。こう、周りから当たり前のように、結婚を前提として話されると心臓に悪いわ。


 まあ、我が家がこんな状態だから、セルロスは私を選んだんだろうけど…。


 近頃、セルロスが甘くて困る。付き合っている振りを強引に了承させられてから、それっぽく振る舞う様子だったが、パブロ商会へ行ってからそれに拍車が掛かった。同僚達から生暖かい目で見られることが増え、居た堪れ無い。


「背に腹はかえられませんから」


 適当に誤魔化し席へ着く。いつもは美味しいはずの朝食も、セルロスのことが気になって味が全くわからない。


「ユリ、今日、シンくんが来るんだろう?」


 横に朝食の乗ったトレーをセルロスが置き、隣へ腰を下ろす。


 ゴホ


 スープが気管に入っちゃったじゃない!


 あーもう、今は会いたく無かったわ。どんな顔をしたらいいか、わからないわ!


「ゴホゴホゴホ」


「大丈夫か?」


 咳き込むユリの背中をさすりながら、セルロスは気遣わしそうな顔で、水の入ったコップを渡して来る。


 いや、これあんたのせいだからね!って言えたらいいんだけど、現実はそうもいかないわね。


 ユリはコップを受け取り水を飲むと、ようやく落ち着きを取り戻した。


「ありがとう。そうね、昼過ぎにはここへ着くんじゃないかな?」


「滞在する場所は決まったのか?」


「まだよ。シンが着いてから、一緒に宿を探そうかと思って」


 貴族は基本的に王都に屋敷を持っている。でも、うちみたいな下級貴族は数年に一度来るかどうかわからないため、王都の家は売って、王都へ滞在する時は宿を取るか親戚の家に泊めて貰うのが一般的だ。まあ、屋敷って言ってもアパートメントの一室なんだけどね。


「なら、ここに泊まって貰ったら良い。旦那様と奥様には了承は得ているから。奥様は是非客室にと仰ったが、それでは、ユリもシン君も心が休まらないだろうから、従業員棟の空き部屋一室を用意したよ」


「ありがとう、セルロス」


 セルロス、貴方は仕事の出来る男だね。同じ屋敷にシンが泊まるなら、デビュタントの準備もやりやすい。だけど、客室は勘弁して欲しい。ただでさえ、貧乏騎士家のシンが、リマンド侯爵家の客室とか恐れおおくて恐縮してしまうだろうし。私も落ち着かない。なんなら、私の部屋のソファーでもいいくらいだ。


「ああ、それと引き換えにって訳じゃないが、明日の休みを返上して貰えないか?」


 明日はシンの礼服を買いに行くために、休みを頂いていたんだけど、それを知らないセルロスじゃ無いはずだ。どうしたのだろう?


「明日は…」


「わかってる。シン君の礼服はサリーとリサが一緒に買いに行く、オットーが馬車を出すから。実は明日のリフリード様との学習に、急遽コーディネル様も一緒にいらっしゃるという手紙が届いたんだ。奥様はすでにイライラなさっているし、肝心の旦那様は勇者様の件で登城されたっきり、お戻りになる気配は無いから気が重いよ」


 ああ、お嬢様、確実に荒れますよね。こうなると、部屋に閉じ篭もって私以外の入室を拒否なさいます。唯一暇な旦那様付きのサリーが一緒に行ってくれるのね。


「わかった。それなら、仕方ないわね」


「助かるよ」


 旦那様不在時のフリップ伯爵夫人の突然の来訪。その事に一末の不安を覚えた。

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