リフリードの秘密
お嬢様はすくすくと可愛らしく成長され、もうすぐで三歳でいらっしゃいます。フリップ伯爵の二男であられます、フリードリッヒ様とまるで兄妹のように仲睦まじく、お二人とも可愛らしいので目の保養ね。
また、フリードリッヒ様がお嬢様にすっごく優しくて、優しくて。お陰で、マリアンヌお嬢様はフリードリッヒ様が大好きなのよね。
ご一緒にお昼寝したいと言われたら、ご一緒にベッドに入られて絵本を読み聞かせてお嬢様が眠られてから、ご自分の剣の鍛錬に向かわれますし、オヤツも、ご自分の皿から、お嬢様の好きな苺をお嬢様のお口へフォークで運ばれて、にこにこしていらっしゃるし。
こんなにお優しい、フリードリッヒ様が居なくなったらと思うと…。
そもそもなんで、フリードリッヒ様はここから出て行くんだったっけ?これだけ溺愛して妹以上に可愛がっているマリアンヌお嬢様をお嫌いになるとは思えないんだよね。何があったんだろう?本当に騎士になりたいだけなのかな?
まず、フリップ伯爵夫人とその息子であるフリードリッヒ様がリマンド侯爵家に当たり前のように住んでるの?私が来た時から、お二人はいらっしゃいましたよ。小説でもこのことは触れてないんだよね。
この疑問は、フリップ伯爵の訪問によって解決されることになる。
「ユリ、フリップ伯爵がいらっしゃってるから、フリードリッヒ様をお呼びして、マリアンヌお嬢様と中庭で遊んでらっしゃるから」
先輩侍女に言われ、中庭にフリードリッヒ様を呼びに行く。
フリードリッヒ様が側を離れると、マリアンヌお嬢様絶対にご機嫌斜めになるのよね。だから、私がフリードリッヒ様が戻られるまでお相手することになるんだだけど…。まあ、私はマリアンヌお嬢様の遊び相手くらいしか役に立たないのも事実で…。
中庭では、フリードリッヒ様がマリアンヌお嬢様にせがまれて、花で王冠を作っていらっしゃいました。
「フリードリッヒ様、フリップ伯爵がいらっしゃっております。フリップ伯爵夫人のお部屋に行くようにと申しつかりました」
あっ、やっぱり、マリアンヌお嬢様頬っぺたを膨らませて、今にも泣きそう。
「イヤ、イヤよ。マリーはまだ、おにいたまと遊ぶの!」
今にも泣きそうなマリアンヌ様にフリードリッヒ様は出来上がった王冠を被せて、少し困った顔をなさっています。
「ごめんね、マリー。お父様がいらっしゃったから、行かなきゃならないんだ。すぐに戻ってくるからね」
大きな瞳から涙をボロボロ流しながら叫ぶマリアンヌお嬢様。
「ヤーよ。ヤーよ。じゃぁ、マリーもおにいたまと一緒にいぐの!!」
「うーん、そうだ。なら、ユリと一緒においでよ。飽きたら、ユリとマリーの部屋で待ってたらいい。ユリ、それで大丈夫かい?」
えっ、家族団欒の中、私はその部屋でマリアンヌお嬢様の遊び相手をしろと?まあ、これから、にいたまがいい、にいたまと遊ぶ。と愚図られるお嬢様を宥めるよりはマシかな?
「承知致しました」
「マリー、良かったね、ユリが一緒に居てくれるって」
「うん」
「はい、お嬢様」
良かった、ご機嫌になられた。愚図られると最近長いのよね…。お嬢様の一番のお気に入りはフリードリッヒ様、で、次は私なんだけど…、寝る時はフリードリッヒ様が横に居ないとダメみたいでいつも一緒のベッドで寝てらっしゃるのよね。勿論、奥様もマリアンヌお嬢様のことを可愛がってはいらっしゃるんだけど、奥様は、天真爛漫でいらっしゃるから育児は苦手みたいだし…。
部屋へ入ると、そこにはフリップ伯爵夫人と、中世的な美しい男性がいらっしゃいました。
この方がフリップ伯爵なのね。フリードリッヒ様と同じ白銀のサラサラストレート、モーブの瞳に甘いマスク。何、この美しい人は!流石、フリードリッヒ様のお父様だわ、そっくりじゃない!はあ、フリードリッヒ様、大人になったらこんな感じなんだ。もちろん小説の挿し絵も美しかったよ、でもほら、フリードリッヒ様脇役だからあまり絵が無いのよ。それに目の前の方は動いているし、当たり前だけど生きてるし眼福だわ。
「あら、フリード、マリアンヌお嬢様もご一緒なの?」
「うん、一緒がいいって、飽きたらユリが部屋へ連れて行ってくれるから大丈夫だよ」
「お嬢様は、フリードが大好きなのね。ユリ、お嬢様のフルーツとミルクを貰って来て頂戴。その間は、私がお嬢様をみているから」
フリップ伯爵夫人に言われて、厨房へお嬢様のおやつを貰いに行きます。さっきの部屋には、クッキーと紅茶しかなかったものね。お嬢様、絶対にフリードリッヒ様と同じのって愚図られるから、二人分用意して貰おっと!
「リフリードは貴方の子ではないの?それは本当なの」
部屋へ入ろうとしたら、フリップ伯爵夫人の驚いたような声が聞こえた。
「ああ、私の子では無い。あれは、彼女のお気に入りの従者との子だよ」
フリップ伯爵の弱ったような、返答が聞こえてくる。
あっ、今ドアを開けたらまずいやつ。この事実は墓まで持っていくべきものだわ。そっか、だからリフリードの髪は赤っぽい茶色で瞳は蜂蜜色なんだ。
「どうなさるんですか?」
「どうも、こうもない。リフリードに罪はないよ、我が子として育てるさ」
「わかりましたわ」
だから、リフリードって魔法が上手く使えなくて困るのか、それでお嬢様に劣等感を抱くんだよね、血の滲むような努力をしている割には全く使えるようにならないのよ。これって、彼のお母様が悪いじゃない!
「君には苦労をかけるな、今、家にお前達を置けばコーディネルからの嫌がらせを受ける。もうしばらく、リマンド侯爵家で過ごしてくれ。私もなるべくこちらに来るから」
「僕はマリーがいるから、ここがいいなー。マリーも僕と一緒がいいでしょ?」
「はーい」
あっ、そろそろ入っても良さそう。
ノックをして、入室の許可を貰い部屋へ入る。ワゴンのミルクが二人分あるのを見て、フリードリッヒ様が嬉しそうに笑った。
「ユリありがとう、もう一つは僕のぶんだね」
「はい、お嬢様はフリードリッヒ様と一緒がお好きなので」
「全く、フリードは、私と暮らすよりマリアンヌ嬢と一緒に暮らしたいみたいだな」
フリップ伯爵は少し寂しそうに笑ってらっしゃいます。
「お父様、マリーはとってもかわいいんですよ、それに僕が居ないと泣いちゃうし、お父様は僕が居なくても泣かないでしょ?」
フリードリッヒ様の言葉にフリップ伯爵夫妻は声をたてて笑ってらっしゃいます。
「本当、フリードはマリアンヌお嬢様が大好きなのね」
「はい」
ああ、満面の笑みのフリードリッヒ様可愛らしい。それを見てにこにこしていらっしゃるマリアンヌお嬢様はもっと可愛い。