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竜討伐 ④

 メイドを呼び、身なりを整えてギルドへ向かう。王都のギルドとは違い、簡素な作りの館内。壁にはペタペタと貼り付けてある依頼書の前に、人がごった返している。買い取り所も複数有り、受付では、何やらギルド職員と冒険者の男性が揉めている。


「いや、さあ、その一人ってどうやって判定するんだ?まさか、生き残ったやつの中からてきとうに選ぶんじゃないだろうな?」


「違います。ちゃんとした査定基準で、査定致します!」


 ギルド嬢は冒険者に一生懸命、説明している。


「誰が査定するんだよ!え?討伐に参加もしない貴族様が直々になさるのか?そんなんで、公平な査定が出来ると思ってるのかよ⁉︎」


 冒険者の言葉にギルド嬢は半泣きだ。どうやら、この問いに対する適切な答えを用意していないらしい。たまりかねたセルロスが助け舟を出す。


「私が此方のギルド嬢に代わり、お応えしても宜しいでしようか?」


 冒険者の男がセルロスを睨む。


「誰だよ、お前!」


「私は此方のリマンド家の侍女様の従者でございます。侯爵様の命により、此方のギルドで龍 竜討伐について適切な対応がされているかの確認に参りました」


 セルロスの言葉に一人のギルド職員が、慌ててギルドから出て行く。


「お、なら説明してくれ。そこの嬢ちゃんより、あんたの方が数段マシな説明してくれそうだ」


 ユリをチラッと見た後、途端に機嫌の良くなった冒険者はセルロスに説明を求める。


「勿論です。竜討伐の依頼を受けた時点で、バックルを腕に装着していただきます。バックルは不正を防ぐ為に討伐が終了するまで外れません。このバックルが討伐の全てを記録して、点数化していますので、この点数が最も高い人物が陞爵するというシステムです。又、このバックルを嵌められてからの衣食住は、ギルドが確保することとなっております」


「なるほどな。なら、後の方で隠れていて、討伐が済みそうな頃に行ってもろくに参加してなきゃ、準男爵には成れないし、パーティで参加しても、個人で参加しても公平にチャンスは巡ってくる訳だ」


「左様でございます」


 セルロスの言葉に、後にいた冒険者から不満の声が上がる。


「おい、姉ちゃん、この従者さんはバックルを嵌めてから衣食住が保証されると言ってるが、俺はそんなこと聞いて無いぜ?」


 この冒険者の言葉を皮切りに、ギルド内はギルドの対応についての不満が爆発して、てんやわんやの大騒ぎだ。


 あ、ここのギルド長、冒険者の衣食住に掛けるべきお金を着服してたな。


「お静かに!お静かにお願いします!」


 ギルド職員達が宥めるも、その勢いは収まりそうにない。


 はあ、セルロスの読み通りじゃない。


 打ち合わせ通りに声を張り上げる。


「皆様お静かにお願い致します。バックルを嵌めている方々は、このセルロスの側へお集まり下さい。宰相閣下の名の下こちらで対応致します」


 年配のギルド職員に声をかける。


「先程から、ギルド長の姿が見えないんだけど?私が来たのに出迎えも無し、これだけの騒ぎが起きているのに対応にも当たっていないとは?いかがなものかしら?まあ、いいわ。それより広い場所をお借り出来るかしら?」


「此方をお使い下さい。普段は認定試験を行う場所になっておりまして、それなりの広さがございます」


 ギルド職員は慌てふためきつつも、此方の要求通り、広い場所へ案内する。セルロスはバックルを腕に嵌めた冒険者達と共に、ギルド職員が案内する認定試験所へと向かった。


 これは、ギルドを取り締まるソコロフ侯爵の策だ。竜討伐のついでに、ギルド職員の膿を出してしまおうという訳だ。だだ、ギルドは独自の情報網を持っており、ソコロフ家が動くとバレてしまう恐れがある為、リマンド家で対応する運びとなったらしい。


 竜討伐が、国家事業だから、その統括である宰相閣下が関わっても何ら不思議はないというのが、ソコロフ侯爵の見解らしい。


 そのついでに、こうやって、ギルド長の尻拭いを何の繋がりもない、宰相閣下の名前ですることによって、宰相閣下への冒険者達の信頼は硬いものになる。まあ、人気取りの策なんだけど…。ギルド長の居ない今のうちに、セルロスがバックルに不正が無いかの確認と、ギルド側による不正の聴き取りをしているだろう。


 慌てて来たギルド長は私への対応の為、セルロスや冒険者達に構っているほどの余裕は無いだろうし。私は、応接室でお茶でも頂きながら、ゆっくりと時間稼ぎをすればいい。


「他にも、バックルを受け取った者が来たら、その認定試験を受ける場所に案内してあげて。で、私はいつまでここに立っていればいいのかしら?」


「申し訳ございません。此方へどうぞ」


 慌てて、応接室へ案内される。別の職員がお茶とお菓子を運んで来た。


 そりゃぁ、こんな騒ぎが起こったんだもん、きちんとした対応が出来なくても仕方ないよ。本来、仕切るべき人間はここに居ないしさ。


「ギルド長はどちらへいらっしゃいますの?本来なら、私が誰の遣いで来たか、聞いたのであればすぐにギルド長が出迎えるのが筋ではありませんの?まさか、ここまで、リマンド家を蔑ろにされるとは、何と旦那様にご報告すれば良いか…」


 少し意地悪を言ってみる。案の定、目の前のギルド職員は暑くもないのに、額から汗をダラダラと流し、ええと、あの、その、と話にならない。仕方ないので、出されたお菓子に手をつけ、お茶を頂く。


 あら、美味しい。いい茶葉を使ってるじゃない。香りもいいし、このお菓子もそれなりに値の張る品だ。最上級のおもてなしって訳ね。


 私の手がお茶に伸びたことに、目の前の厳ついギルド職員はほっとした様子だ。40代後半だろうか、少し髪に白髪が混じり、顔には皺が刻まれている。元は冒険者だったのだろう、眉間と頬の傷がそれを物語っていた。


 粗野で、高貴な女性と話すのは苦手、腕に物を言わせ人を従えていた口の人間かな?それとも、冒険者仲間からの人望は厚い?ま、この短時間ではわからないわね。


 会話が続かないのでは、話にならない。答えやすい質問を投げかけることにする。


「貴方の名前は?普段はどんな仕事をしているの?」


「セルゲイです。普段は認定試験を担当しております」


 ふーん。竜討伐の担当じゃないのね。


「竜討伐の担当者を呼んでもらえるかしら?」


 セルゲイの顔色が、一層悪くなった。


「竜討伐の件も兼任しております」


 あ、そういうことね。確かに、竜討伐は一時的なものだから、他の仕事と兼任となるのは仕方ないわね。


「貴方が、その責任者なのかしら?なら、討伐時の保証の条件はご存知ですわよね」


 口を噤む。あっ、もう不正を認めているようなものじゃない。そうよね、流石に、リマンド家の侍女を脅す訳にはいかないものね。普段なら威圧的な態度でどうにか丸め込んだ口なのかしら?


 お茶のおかわりを頂き、お菓子も粗方食べ終わった頃、額に汗をかき、慌てて来たであろう。ギルド長が部屋へ入って来た。


「申し訳ございません、侍女様。まさか、いらっしゃるとは思いませんで、何のお構いも出来ず。どうでしょう、従者様も呼んで昼食でも、この先に美味しい煮込み料理を出す店があるんですよ」


 ギルド長は背の低い、デップリとした頭の寂しい男性だった。彼は揉み手でもする勢いで捲し立てる。こんな状況には慣れている様子だ。


「お気遣いありがとうございます。ですが、貴方を待つ間にお菓子とお茶をご馳走になりましたの。お腹一杯ですわ」


 長く待たされすぎて、目の前のお菓子を摘んでいたら腹が膨れたとアピールしてみる。


「いゃあ、貴族の女性は少食でございますな。では、ギルド内を案内致しましょうか?そうそう、今日は良い魔石が手に入りまして、是非ご覧ください。」


 あくまで、自分のペースに持っていく作戦のようだ。こちらも時間稼ぎができればいいので好都合だ。


「何の魔石ですの?」


「ワイルドベアです。大型の熊の魔獣でございます。牙や、皮もお見せ出来れば良いのですが、貴族のお嬢様には些か刺激が強いもので、解体後きちんと処理するまではお目に入れられません」


 横にいた、セルゲイが席を立とうとする。


 出て行かれては面倒よね。敢えて、竜討伐の話に戻す。


「それは、そうと竜討伐の件なのですが…」


 ユリにそう切り出されては、自分が担当者と言った手前、セルゲイは椅子に座らざるを得ない。ギルド長が、セルゲイを軽く睨んだ。


「宰相閣下の命でいらっしゃったと伺いました。そういえば、リマンド家の馬車がこの街へ着いたという情報が入りませんでしたので…。ギルドへの護衛の依頼も無かったと聞いております」


 偽者では?と疑っているのかしら?


 確かに、侍女が侯爵の命を受ける場合は、ギルドへ依頼して護衛を頼むのが一般的だし、しっかりとしたリマンド家の馬車でその街へ入るものだ。


 でもそんなことしたら、警戒されて、こうしてボロがでることが無いじゃない。その情報をもとにしっかりと準備するんでしょう?


「ええ、私個人の馬車を使っておりますの。そちらの方が慣れておりますし、護衛も、家者達に依頼しましたのよ。長旅ですので、心地よく過ごしたいでしょう?」


 敢えて、のほほんと答える。


 伯爵家の令嬢であれば、これ位可能な家がある。セルロスと予め用意した答えだ。この言葉だけで、上位のそれも力のある家の令嬢だとギルド長は勝手に思うだろう。案の定、ギルド長の顔色が悪くなる。


 彼等は私に、気持ちよくなんの情報も渡さずお帰り頂かなければならない。まさか、セルロスがこうしている間にも、冒険者達に聴き取りを行っているとは思うまい。


明日も更新します

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