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竜討伐 ③

 食事を済ませ、セルロスはさっさと火を始末する。


「ねえ、ここで野営するなら、火は消さない方がいいんじゃない?」


 暖も取れるし、灯りがあった方がなんとなく心細く無い。


「いや、これから日が暮れるまでもう少し進む」


「どうして?」


 ここでそのまま野営すればいいじゃない?


「火を焚いたということに気が付いた人がいるかも知れない。そうすれば、そいつらがやって来る可能性があるだろ?流石に、俺一人でユリを護りつつ、シャンデリアを抱えて逃げるなんて芸当は出来ないからな」


 セルロスは苦笑いをすると、さっさと出発の準備を整えていく。私がのろのろと重い体を引き摺り馬車に乗り込むと、彼は馬車を走らせた。


 体力の違いを思い知る。ただ何もせず、横に乗っているだけでこんなにも疲れているのに、馬車を走らせるセルロスから疲れを感じない。


「疲れてるのに悪いな、あと、一刻程我慢してくれ。君を危険な目に遭わせたくはないんだ」


 日が暮れかかり辺りが暗くなった頃、セルロスはようやく馬車を停めた。


「ユリ、済まないが小さな明かりを」


 眠い目を擦りながら、セルロスに言われるがまま明かりを灯す。


「これくらいでいい?」


「ああ、十分だありがとう」


 セルロスはその明かりを頼りに馬を馬車から、外し、長めの手綱で木へ繋ぐ。横に干し草と、水を用意していた。


「ユリ、幌の中で眠るといい。毛布があっただろ」


 外とはいえ、同じ空間で嫁入り前の令嬢が異性と寝る?有りなの?野営だから、そんなものなの?


 寝る準備をして横になったが、セルロスが幌の中へ入ってくる気配は無い。不思議に思い幌から、顔を出した。


「眠れないのか?」


「違うわ、セルロスは何処で寝るの?」


「安心しろ。見張りをしててやるから、ゆっくり休め」


 セルロスは幌へと上がる踏み台の上へ座り、辺りを警戒している。ここで一晩明かすつもりらしい。


「え、なら、途中で代わるわ」


「気にするな、一晩位なら平気さ、慣れてるし。それより、明日、街へ入ったら早速仕事をして貰う必要がある。しっかり寝ておけ」


 そう言われれば、これ以上何も言えず有り難く眠らせて貰うことにする。ここで頑張ってもあとで辛いだけ、わかってはいるのだけど、能力の差を見せ付けられたようで、なんとなく気分は良くない。


 せめてと思い、毛布を一枚、セルロスへ渡す。


「夜中、冷え込むでしよう?2枚持って来たから」


 それだけ伝えると、さっさと幌の中で横になり、疲れていたためすぐに眠りに落ちた。


 カタカタと程良い揺れの中、目を覚ます。辺りが暗く今の状況が飲み込めない。隙間から日の光が差し込み。干し草の匂いが鼻に付く。なんとなくではあるが今の状況が理解できて来た。


 昨日、幌の中で寝てたんだった。


 馬車が揺れている。出発した?馬車を動かしているのはセルロスだよね?


 急に心配になり、荷台の前へ移動すると、そっと御者を確認すると、セルロスが馬車を走らせていた。ほっと胸を撫で下ろしたが、それと同時に寝過ごした事への罪悪感が頭を擡げる。


「おはよう」


 シートを捲り、セルロスへ声をかける。


「ぐっすり眠れたようだね、良かったよ。馬車を停めれそうな場所に着いたら、朝食にしよう」


 機嫌の良さそうな声が返ってきて、ほっと胸を撫で下ろす。寝過ごした事に対して、怒ってはいないようだ。


「わかった」


 手早く、支度を済ませ馬車が停まるのを待つ。


 馬車が停まると、薪を集め朝食の準備をする。


 冒険者になるとこんな生活なのかな。今、ジュリェッタはダフィートとこんな生活をしているのだろうか…。

薪に火を付け朝食の準備をする。スープを作り、少し硬くなったパンを浸して食べる。


「もうすぐ、街へ入る。ユリは侍女の格好に戻ってくれ、でないと貴族向けの宿に泊まることが出来ないから。後、俺はお前の従者ということにしておこう。その方がスムーズだ」


「わかったわ。宿を取った後はどうするの?」


「ギルドへ向かう。ユリは部屋で休んでてくれ」


 部屋で待っていろとは、私は足手纏いなんだろか?それとも、任務の邪魔になるのかな?


「私も、付いて行ったら駄目かな?」


 セルロスは驚いた様子で、まじまじとこちらを見て来る。


「駄目ではないが、ユリは冒険者達が苦手だろう?」


 ああ、あのルーキン領の食事処でのことか。セルロスなりに気を遣ってくれていたことに、嬉しさがこ見上げてくる。


「大丈夫よ。慣れたわ。」


 実家に帰る時や、パブロ商会へ行く時など護衛として冒険者を雇っている。流石にあの視線にも慣れた。彼等は侍女が珍しいだけだ。決して悪気があるわけでは無い。


「ならいいが、一緒に行くかい?」


「ええ」


 街までは何も無くスムーズに着いた。ギルドがある街は何処も雰囲気は同じらしく、ルーキン領の町と良く似ている。


 ただ、ここはだいぶ大きいわね。


 シャンデリアが荷物としてある為、すぐに宿を取る。貴族専用の宿だけあってその作りは上品で美しい。ロビーのソファーやローテーブルも良い物を置いてある。


 受付でセルロスは、リマンド家の侍女とその従者だと伝え部屋を取る。こうすることで、一部屋に寝室が2つと、真ん中にリビングがある部屋が用意して貰えるらしい。まあ、確かに、リマンド家の侍女となると、伯爵令嬢とか子爵令嬢とかですもんね。従者が同部屋に常に居るのが普通か…。


「メイドはご入用でしょうか?」


 セルロスしか連れて居ない為、着替えや入浴を手伝う者が必要かと聞かれる。どう答えようか思案しているとセルロスがさっと助け舟を出してくれる。


「着替え時のメイドをお願い致します。必要な時はこちらから、声を掛けさせて頂きます」


「わかりました。では、そのように手配致します。どうぞ、ごゆっくりお過ごし下さい」


 鍵を貰い、ベルマンに荷物を運んで貰う。多目のチップを払い出て行って貰うと、部屋でホッと息を吐く。


 上位貴族令嬢の真似も楽じゃ無いな、ボロが出ないか気が気じゃ無い。まあ、嘘をついている訳じゃ無いけど、威厳のある態度で接するとか、人に傅かれることに慣れていないから。

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