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サアシャ ②

 残念ながら、セルロスさんには会えず。それから、空振りの日が続いた。


 はあー、何の為に朝早くから支度して、毎日リマンド侯爵家へ行ってるのよ。まあ、厨房の料理人達とは打ち解けたけど、私が会いたいのはセルロスさんなのに!仕方ない、お父さんとの約束は破ることになるけど、少し、敷地内を散策してみよう。


 野菜を下ろし、料理長へ挨拶をした後、庭を覗いてみる。そこは、綺麗に手入れされていて、美しい色取り取りの花が咲き誇っていた。奥の方には東屋が設えてあり、そこにはブルーのドレスに身を包んだ美しい女の子がベンチに座っている。その側には侍女とセルロスさんの姿があった。


 妖精みたい。


 真っ白な肌にふわふわのゴールドの髪。真っ赤な小さな唇。大きなモーブの瞳。ドレスの袖から折れそうなほど細っそりとした傷一つない腕が伸びている。それが、苺を一つ摘んだ。


 サアシャは自分の腕を見る。日に焼けて、野菜を運ぶ為に女の子にしてはがっしりとしている。途端に、恥ずかしくなり、慌てて馬車へ逃げ込むように乗り込むと、急いで馬車を走らせた。


 可愛いの基準が違う!何あれ?本当に同じ人間なの?あんなの側に仕えてたら、私がにっこりと笑ったくらいじゃあ全く靡かないじゃない!まあ、あの子はどうみてもお貴族様だから、セルロスさんとどうこうなることはないけど…。でも、侍女様達もあの子と同じお貴族様だから、積極的に行くしかないわね!ああもう、あんな綺麗な子の側に居たら、こちから、口説いて貰おうと待ってたって何も始まらないわ!


 お父さんには申し訳無いけど、明日からは積極的にアピールするわよ!待ってばかりじゃあ、一向に存在すら認識して貰えない!あのお嬢様より清楚で気品がありお淑やかになんて、到底無理!なら、違う側面で攻めればいい。それこそ、懐っこさと愛嬌で勝負だ!これなら、令嬢達に負ける気がしない。


 翌日から、サアシャは野菜を下ろすと、セルロスさんを探し、中庭を彷徨く。よく手入れされた庭は、美しくまるで夢物語の中にいるようだった。庭の奥からセルロスさんが侍女と思しき人物と一緒に此方へ向かって来た。二人はサアシャがここに居ることへ、驚いた顔をしたが、サアシャは一向に気にする気配はない。そればかりか、屈託の無い笑顔で手を振りセルロス達の元へ駆け寄る。


 こんなに簡単に会えるのなら、最初から屋敷内を探せば良かった。


「こんにちは、セルロスさん!」


「どうして、ここへ?貴女が立ち入ることを許された場所では無いのですが」


 セルロスさんは目を見開き、困惑気味に尋ねてくる。


「実は、素敵なお庭だなーと思ってぇ、ちょっと覗いたらぁ迷子になっちゃったんですぅ。帰り道が分からず、必死に探してたらぁ、こんな所まで来てしまってて、セルロスさんに会えて良かった!馬車の所まで連れてって下さい。でないと、私、お家に帰れません」


 迷子を装い、上目遣いで困ったように目をうるうると涙で濡らしセルロスさんに真摯に頼み込む。ポイトはちょっとドジで素直な可愛げのあるサアシャ。ついつい、心配で気になるようになってくれたらこっちのもの、後はゆっくり外堀を埋めていけばいい。だから、リマンド侯爵家の中に敵を作れない、横にいる侍女さんにも好印象を持って貰わなきゃ。


「はあ、わかった。馬車まで送るよ」


 セルロスさんは溜息混じりに、サアシャへそう告げる。


 そんなにあからさまに面倒そうにしなくてもいいじゃない。こんなに可愛い娘を送るのよ?


「ありがとうございます。あのー、本当にごめんない。お庭があまりにも素敵だったのでぇ…、気が付いたらぁ…」


「どんなにリマンド侯爵家の庭が美しかろうと、貴女が立ち入って良い場所ではありませんよ」


 つれない言葉に、サアシャは落胆しつつも、二人きりで素敵な庭を散策できた事に喜びを覚えた。


「はい、気を付けます」


「ならいい」


 優しい口調になり、ほっとする。


 良かった、許してくれた。そうだよね、執事なんだから、規則を破ったら注意する立場にあるんだよね。まあ、怒られるの覚悟だったわけだし。こうして、二人きりで話す機会もできたわけだし、結果オーライってことかな。


「あのー、この庭すっごく素敵なんで、見て回りたいんですけど…。頼んだら、許可して貰えたりしますか?」


 勿論、セルロスさんのエスコート付きで!


「庭を気に入ってくれたのは嬉しい。だが、申し訳ないが、それは許可できないんだ」


 何だ、残念。


「ほんのちょっと、見てまわるだけでもダメですかぁ?」


 可愛く、得意の上目遣いで食い下がってみる。


「リマンド侯爵家の敷地内は一般公開していないんだ」


 一般公開って!うちは長年リマンド侯爵家に野菜を卸してるんだよ?他の庶民と一緒にしないでよ!


「私、通いのメイドさんと同じくらいはぁ、信用があると思うんだけどなぁ」


 独り言風に、ちょっと拗ねた感じで呟くと、セルロスさんの困ったような顔が目に入る。


「リマンド侯爵家に、通いのメイドは居ませんよ。皆さん、住み込みで仕事をしています。まあ、年に数回はご実家へ帰りますが、規約で、この侯爵家で見聞きしたことは話さないことになっておりますので」


 あ、そうなんだ。だから、いくらマルシェでリマンド侯爵家に勤めている人を聞き回っても、一向に見つからなかったんだ。馬子も住み込みで、休みを貰って帰ってるって言ってたもんね…。


「そうなんですね。そう言えば、リマンド侯爵家の執事って結婚したらいけないんですか?セバスさんも、その前の方も独身だったって、お父さんに聞いて」


 この流れなら、聞いても問題ないよね?


「いえ、結婚してはならない訳ではありませんよ。では、ここで」


 セルロスさんと話しながらあっと言う間に馬車の所まで来てしまった。セルロスさんはサアシャに馬車に乗るように促すと、さっさと建物の中へ入って行った。


 ふふ、さっきの話なら、セルロスさんと結婚できる可能性があるってことね!


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