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クロエの結婚式 ③

「小伯爵の結婚式なのに、旦那様はどうしてご自分で式に出られないの?」


 正装をし、髪を撫で付けたセルロスが前に座っている。こうしていると何処ぞの公子に見えるから不思議だわ。


「招待の全てに出席されるお時間はなし、旦那様と奥様が出席なさると、主役が主役じゃなくなる恐れがある。かと言って、クロエさんはリマンド家の侍女だったから断る訳にも行かない。それで、俺の出番って訳さ。侯爵の名代と言っても平民だから周りも気を遣わなくて済むし、小伯爵とクロエさんの顔も立つからね」


 馬車に揺られながら、サンマルク教会を目指す。城の夜会にも出たことの無い、私にとっては初めての社交の場だ。教会に近づくにつれ、冷たくなっていく手とは裏腹に背中には一筋の汗が伝う。


「セルロスはこういう場には、出席したことがあるの?」


「あるよ、結婚式じゃないけどな。緊張してるのか?大丈夫だ。俺たちのことなんて誰も見てないさ、気楽に考えなよ。注目されるのは花嫁と花婿、そして、皆、自分達の人脈作りに必死さ。俺の仕事はリマンド侯爵の名代で来たことを告げ、祝いの品を渡し、主賓に挨拶をして帰るそれだけだよ。君はただ、横でにこにこしていたらいい。夜の正式な夜会には二人とも出席することは出来ない訳だし」


 そうだ。セルロスは平民で、私は社交界デビューを済ませて無い。二人とも夜会に出席出来ないんだった。


 ほっとしたと同時に、なんとも言えない虚しさのようなものが込み上げてくる。今日の出席者達と私は違うんだ。一括りで貴族の娘と言っても、今日出席している人は皆社交界デビューを果たしている。私みたいに、公の場での振る舞いを知らない人は居ないんだ。


「どうした?今更気遅れしてるのか?大丈夫、今日の君はそこら辺の令嬢達より充分可愛い。マナーもクロエ達のおかげで完璧だ。自信を持ちなよ」


 セルロスは爵位すら無い、私より気遅れするだろうにこんなにも落ち着いている。年だってそんなに変わらないのに。


 はあ、お世辞にも可愛いって言われてときめいている自分に呆れつつ。ほうと小さく息を吐く。


 前世でも可愛いってセリフ言われたこと無かったな…。


「ありがとう。大丈夫な気がしてきたわ」


 ウエディングドレス姿のクロエはとても美しかった。とても幸せそうで、こっちまで幸せな気持ちになれた。


 式が終わり、教会の庭で簡単な軽食が用意されていた。セルロスと共に挨拶をして回る。今日の一番大事な業務だ。


 ドレス代には及ばないけど、しっかり頑張らないと。


 あっ、ルーキン伯爵だ、他にはローディア商会の会長に見知った顔ぶれが並ぶ中、水色の髪の少し疲れた雰囲気の男性が目に留まる。


「ねえ、あの方はだれ?」


 セルロスにこっそりと耳打ちする。


「ああ、シュトラウス子爵だ」


 彼がミハイロビッチのお父様。シュトラウス家のメイドの手紙の内容を思い出した。彼は今、売れない画家の会合とやらに引っ張り出され、支援を迫られているらしい。横で微笑んでいる快活そうな女性は、その夫人だろう。茶色の髪だし庶民の出であることは疑いようがない。


 三年後、シュトラウス子爵は死亡し、シュトラウス子爵家は無くなる。


 差し当たり、子爵が病気である様子は見られない。パブロ商会だって経営は順調そうだし…、ミハイロビッチが爵位を手放し、姿を隠さなければならないような状態になるとは信じ難い。爵位を手放したとしても、パブロ商会の支援があれば、魔法学園を途中で去るような事態にはならなかったよね。


 この三年間の間にどんなことが起こるのだろう?彼の母親はどうなったのだろう?


 これからシュトラウス家に起こるであろう悲劇に、胸が痛くなった。

 

明日も18時過ぎに更新します。


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