王都へ
結局、フリードリッヒ様は小説通り騎士学校へ入学されるためリマンド家を出られた。私はお嬢様と共に王都の屋敷へ向かう。
騎士学校では、丁度、我が弟であるシンと同期となるからと、フリードリッヒ様には弟へ手紙を送るついでに、お嬢様の近況を知らせる手紙を送ることについて了承を得た。こちらから送る分には中身の検閲は無いが、手紙は家族のみしか送れない。シンへの手紙の中に便箋一枚を忍ばせる一方通行の物。押し付けがましくなってはいけない。さらっと、近況を報告するだけに留めるつもりだ。
お嬢様がピンチの時に一番力になってくれそうな人物は、やはり、フリードリッヒ様をおいて他にはいない。リフリード様との婚約が破棄されたら、一番に連絡を取るべき相手だ。フリードリッヒ様ならお嬢様をお任せできる。
小説とは違い、お嬢様と奥様との仲は良好。その点だけでも頑張った甲斐があるというもの。フリードリッヒ様とフリップ夫人が領地の城を出られた後は寂しそうにされていたけど、部屋に引き篭もるなどということは無く。兄様も頑張られるのだから、自分もと、強くお気持ちを持たれているみたいだし。
「ユリ、これからは毎日お父様やお母様と会えるのよね」
馬車の中でお嬢様が期待に満ちた眼差しでこちらを見られる。奥様は、あえるかもだけど、旦那様はお忙しい人だからなんとも言えないな。
「そうですね。お二人ともお忙しい方ですから、今までよりは一緒に過ごすお時間が取れると良いですね」
「ええ」
と、花も恥じらう笑顔を向けて下さいます。尊い。
王都にはポンコツ陛下や、わがままジョゼフ殿下もいらっしゃるけどね。はあ、お二人の存在がお嬢様の王都での試練なのよね。
陛下がお嬢様をちょくちょく城へお呼び出しになり、ジョゼフ殿下と一緒に魔法の鍛錬を強要なさる。このことが、わがままジョゼフ殿下に卑屈を与える要因になるのに。
もとより、お嬢様とジョゼフ殿下では本来産まれ持った能力に明らかな差があることは明白なのに。陛下はジョゼフ殿下にお嬢様より才能があると言ったため、お嬢様より、魔法が上手く使えないことに腹を立てて、お嬢様に八つ当たりするようになるし、お嬢様も、陛下の言葉を間に受けて、ジョゼフ殿下が自分より魔法が使えないのは、努力が足りないからだと馬鹿にするようになるのよね。
ジョゼフ殿下のお母様は、城のメイド。一般庶民なわけだから、皇女と侯爵から産まれたお嬢様に敵うわけがないのは明白なのにね。
本当に余計なことばかりする人。これぞ、世襲の弊害だよ。私の生家であるブルグス家が困窮した原因の一つが、陛下が竜討伐で国庫を使い果たし、その穴を埋める為に増税をしたからだし。
考えてたら、イライラしてきたわ。
「ユリどうしたの?大丈夫?」
心配そうなお嬢様の声に、はっと我に帰る。
「大丈夫ですよ、お嬢様」
はあ、お優しいお嬢様。見目麗しい上に、本当に良い子にお育ちになったわ。
「セルロスに久しぶりに会うわね。元気にしているかしら?」
セルロスは今、王都の屋敷で執事を任されている。セルロスの妹で、お嬢様の乳姉妹であるリサから慣れない仕事に四苦八苦していると聞いている。
「どうでしょう?慣れない仕事に苦労していることでしょう」
あの冷血漢があたふたしている様子を想像して、心の中で細く笑む。
いつも人の粗探しばっかりやってるんだから、たまには、できない人間の苦しみも味わったらいい、そうしたら、少しは人を労る気持ちも芽生えるでことでしょう。
「ユリはセルロスと仲が良いわね」
「そんなことございません。ただ、年が近く、付き合いが長いから気安いだけです」
他の若い侍女達は大体二、三年でお嫁に行ってしまうし、他の職業侍女さん方は皆さんそれなりの年齢だからね。
「それを仲がいいって、言うんじゃないの?」
楽しそうにしてらっしゃいますが、断じてそんなことはありませんから!
「お嬢様、話は変わりますが、クロエの結婚式に出席する為、明日、明後日と賜暇を頂きました。ご不便をお掛け致します」
「私からの結婚祝い持って行ってね」
「はい、承知致しました。クロエがお嬢様がお茶会を開かれるときは、是非呼んで下さいと言っておりました」
そう、明日はクロエの結婚式なんです。クロエはお嬢様と離れるのが嫌で、結婚を取りやめると拗ねてクリソン小伯爵を困らせたことがある。クロエ、本当に美しいものが好きなのよね。
明後日は社交クラブに顔を出す日。領地を離れた為、パブロ商会へ顔を出すにも一週間の連休が必要だし。その分、社交クラブへは行きやすくなったけど…。
行儀見習いのお嬢様達じゃないけど、お金も休みもいくらあっても足りないわ。




