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終焉 ③

 帰還準備の為、フリードリッヒ様の帰りが少し遅くなった。奥様も上皇陛下の葬儀に合わせて、お帰りになり、屋敷は葬儀が終わって七日もたたないうちに、お祝いムードに包まれている。


 お嬢様や奥様は沈んでいらっしゃいますけど、戦争に勝利した事と、旦那様が無事お帰りになる事、そして、帰還式が終われば、お嬢様の結婚式が控えているので、私はウキウキしている。


 ドレスは既に出来上がり、ベールや靴、宝飾品も続々と部屋へ運び込まれている。


 最近、鬱陶しいのは肉屋の娘で、肉を配達に来る度に、セルロスは何処に居るのかと料理長に聞いているらしい。


「あっ、この前いらした侍女様。こんにちは」


 ユリが厨房へ行くと、丁度肉屋の娘が来ていた。


「こんにちは、配達にいらしたの?」


「はい。上等なのが手に入ったのでお持ちしました。あの、少し相談に乗って頂けませんか?本来なら、執事様に相談したかったのですけど、中々お会いできなくて…」


 セルロスを探していたのは、何か相談事があったからなのかしら?なら、色眼鏡で見たことを反省しなきゃならないわね。


「少しなら、時間があるからいいわよ。貴女はお時間大丈夫かしら?」


「はい」


 嬉しそうに笑う少女に、ユリは自然と笑みが溢れた。ユリは少女を庭園の隅のベンチへ誘う。


「で、相談とは?」


「あ、あの…、この屋敷で働くにはどうしたらいいですか?友達がこの屋敷でメイドとして、働いているって聞いて、彼女に聞こうと思ったら、その子、今は別荘に移ったって」


 この屋敷のメイドの殆どは、領地から連れてきた者達なんだけど…。


「友達の名前を聞いても良いかしら?」


「ビオラって言うんです。ご存知ですか?」


 ビオラ?


 ユリの頭の中に、お嬢様のお風呂に細工をしたメイドの顔が浮かぶ。


「ええ、知ってるわ。どこで、彼女と知り合ったのかしら?」


 ユリは動揺が顔に出ないように、必死に取り繕う。


「小さい頃、ビオラも、私の家の側に住んでいたんです」


 彼女から聞いたビオラの境遇は、調べたものと大差ないものだった。


「この屋敷のメイドは、基本的には代々リマンド侯爵家に仕えている家から、採用することになっているの。王都で採用した子達は、下女から始めて、メイドに昇格した者達よ。ビオラはフリップ伯爵家の奥様が、連れていらしたみたいね」


「下女ですか…」


 少女の顔色が一気に悪くなり、下を向いて口を噤む。


 下女は辛い仕事だ。大事に育てて貰った少女には過酷だ。


「ユリ」


 声のする方を見ると、フリードリッヒ様がこちらへやって来た。


「いかがなさりましたか?」


「悪い、人手がいる」


「わかりました。では、肉屋のお嬢さん」


 ユリとフリードリッヒは肉屋の娘をその場に置いて、屋敷へ入って行った。


 肉屋の娘がフリードリッヒに釘付けになっている事に、ユリは気が付かなかった。


 フリードリッヒはユリを空き部屋に連れ込むと、ドアを閉めた。


「ユリ、スミス侯爵と反目する。皇后は我々の味方だ。この凱旋のパレードが手始めだ」


「凱旋のパレードの準備を賜ったのですね。おめでとうございます。直ぐに皆に伝えます。前持って行っていた準備が無駄にならなくて良かったわ。直ぐに皆に伝えるわ」


 旦那様が不在の今、スミス侯爵に邪魔をされないように水面下で、婚姻の準備を隠蓑にオルロフ伯爵に仰ぎ準備を行った。オルロフ小侯爵の娘と、ノア殿下の婚約をする際には賛成すると約束して。


 ユリは馬車を走らせ、マリアンヌの店へ急ぐ。店長に会う為だ。車窓から、肉屋の娘が見えた。何やらガラの悪そうな男達に連れられて、暗がりへ入って行く。


「止めて」


 ユリは馬車を降りると、護衛を連れてそっと肉屋の娘の後を追った。 

 

「ねえ、貴方達に、あの娘を助けれる?」


「わかりません。もう少し様子を見てみないと」


 後をつけると、話し声が聴こえる。


「その話は本当なの?」


「ああ、本当さ。俺達もびっくりしたんだ。聖女と持て囃されてたジュリェッタが、俺らの寝ぐらにやって来たんだから」


「ふーん?あの女、あの事件のせいで、伯爵様に追い出されたんだ。ふふふ、いいきみね。ゲラスがあの女から貰った薬に麻薬を入れたせいね。で、あの女、ここで何をしてるの」


 連れ去られたんじゃない?


 ユリは話しに耳を傾ける。


「唆したのは、あんただろ?全く、悪い女だな。ジュリェッタはリマンド侯爵家のお嬢様が、奴隷を持ってるってうさわを流せって、依頼を出したんだよ」


 お嬢様が奴隷を?あの噂の出所は、ジュリェッタだったのね。それよりも、ジュリェッタが用意した回復薬の中身は本当に痛み止めだった。



 最近、市井でリマンド侯爵令嬢が、女の奴隷を所持しているという噂が流れていた。


「えっ、あの噂を流したのはジュリェッタだったの?」


「ああ、どんだけ、リマンド侯爵令嬢を嫌ってるんだか、まっ、良い金額貰ったから、俺達には良い客だがな」


 男は下卑た笑いを浮かべる。


「はい、これ。で、お願いしていた件は?」


 娘は懐から木の札を取り出して男に渡す。


「ありがとうよ。ほら、約束の品だ。それと、リマンド侯爵家の執事だが、ユリって婚約者がいるのは本当だ。それと、リマンド侯爵令嬢がブスって噂は嘘だ。すっごい美少女だ。中々、お目に掛かるのも難しいから、危害を加えることも無理だ」


 ユリは見つからないように、そっとその場を離れた。


「ユリ殿、あの娘は肉屋の…」


 護衛の騎士は驚いた様子だ。


「ええ、そうです」


「憲兵に連絡しましょうか?」


 あの程度なら、注意で終わる上、ジュリェッタにまで辿り着かない可能の方が高い。


「いえ、そのままにしておきましょう。何を企んでいるのか、黒幕はいないのか、知る必要があるわ。それと、デザイナーの件は、フリードリッヒ様にお力を借りましょう。ちゃんと、準備をしなくては。取り敢えず、お嬢様の店へ急ぎましょう」


 時間がいくらあっても足りない。凱旋の準備にイザベラが奴隷でないという証明。それと肉屋の娘が男から貰った包みの中身も気になるが、今はそれに割いている時間は無い。


 ユリはマリアンヌの店に行くと、沿道飾る為のリボンにする長い赤い布地の準備の進み具合を確認し、フリードリッヒが正式に準備を任されたことを伝える。お針子達は俄然やる気を出したみたいで、ユリは胸を撫で下ろした。


 後は、マダムのところね。マダムの店の見習いのお針子達もリボンの準備をしてくれている。フリードリッヒ様が正式に任命されたことを伝えなきゃ。


 後は、ローディア商会への花の仕入れ状況の確認、パブロ商会と商業ギルドへ行って、人員の確保。マルシェに行って小さな花屋たちを抑えて、野菜売りのサアシャに、前日に手伝って貰えそうな人達を集めて貰えないかと相談してみた。


 明日には、フリードリッヒの手によって、凱旋パレードの日時が告知され、当日、沿道に撒く花籠の受け取り場所が告げられる。貴族達には、帰還式への招待状が届く。


 ユリは屋敷に戻ると、奥様の部屋へ向かう。マリアンヌにかかっている、奴隷所持の疑念を払う為だ。この家の女主人であるリマンド侯爵夫人は、陛下の姉。多少の無理は通る。


 ユリは今日、市井で見聞きした肉屋の娘と、不成者の話をリマンド侯爵夫人にした。今日同行して貰った騎士にも証言して貰う。


「まあ、また、ジュリェッタ嬢でしたの?懲りないわね」


「奥様、確か、クリスマスの夜会でお嬢様がお召しになっていたドレスの模様に、砂漠の国の皇太子がご興味を示されておりました。イザベラのことをご存知かも知れません」


「まだ、砂漠の国の皇子が、魔法学園に通っていたわね。陛下に言って、皇子に尋ねてみましょう。その件は、私が何とかするわ。それより、凱旋式の準備は大丈夫なの?花は出来るだけ沢山用意しなさい。近くの町からなら間に合うでしょう。屋敷の者達も使っていいから」


「承知致しました」


 フリードリッヒ様が凱旋パレードの準備を任されて、奥様も何くれと心を配って下さる。命令が遅いとぶつぶつ文句を言ってらっしゃったが、前持って準備をしていたことを知っていらしたので、落ち着いてはいらっしゃった。


「お父様の葬儀は、散々でしたもの。教会の祭祀やお母様の葬儀に参列した重鎮達は怒り心頭にでしたわ。スミス侯爵も皆様に相談すれば良いものを」


 確かに、相談すれば教えてはくれるでしょう。タダはないから、その代わり何かを差し出す羽目になるでしょうけど…。


「それは、スミス侯爵には難しいかと」


 棚ぼたで侯爵になった人だからね。


「そうみたいね。残念な方、あの人も手を噛んだ犬は飼うつもりは無いでしょうし…。早く御自分で新たな飼い主を見つけなければ、餓死してしまうでしょうに…」


 旦那様、スミス侯爵を完全にお捨てになるつもりなんだ。そっか、今迄、スミス侯爵が政を難無くこなせていたのは、旦那様の助言があったからなのね。でも、旦那様はスミス侯爵が、恩を仇で返す人物とみて、スミス侯爵を見捨てるおつもりなのね。


 小説でもスミス侯爵がリマンド侯爵家を助けていたら、いえ、追い討ちをかけなければ、あんなに悲惨な結果にはならなかったわ。他の二侯爵が前線から戻って来た時には、全て決着が着いていて保身の為、正視する以外なかったのね。今になってわかったわ。

 


今、着地地点に困ってます。どこで終わろう。

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