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終焉 ②

誤字報告、ブクマ、評価ありがとうございます(^^)

 新聞は連日、戦況を報じる。『メープル騎士団苦戦!』の文字がどの新聞の一面に大きく踊っていた。だが、内容はまだ、メープル騎士団と傭兵軍のみしか前線に出ていないので、我が軍には余裕がある。他国から攻め込まれても対応が出来ると、民を安心させる内容となっていた。


 気が気でないのは、現メープル騎士団に所属している騎士達を家族や恋人に持つ人達だ。だが、彼らはその怒りをぶつける矛先を持ち合わせていない。メープル騎士団を戦い易くする為の囮である傭兵軍は上出来だと報じられ、その機会を上手く利用できない、メープル騎士団に非難が集まってきている。最近では、傭兵達に同情の声まで上がる始末だ。


 散々威張り散らして、戦争へ赴いた手前、その家族達も、砦を守るのみで前線に出ない第一騎士団への不平を漏らせない。唯一の矛先がメープル騎士団の将であり、この作戦の総責任者である上皇陛下とその補佐であるジョゼフ殿下だ。


 そして、高騰し続ける穀物の値段に、王都を管理するスミス侯爵と上皇陛下を諌める役割を担うリマンド侯爵への民の不満で始めた頃、リマンド侯爵が私兵を編成し、戦地へ赴いたと各種新聞が報じる。


「リマンド侯爵といえば、剣術はからっきしなんたろ?」


「馬にもまともに乗れないと聞いたことがある」


「確かに、馬に乗っているお姿を見たことが無いな」


「戦地へ行くだけでも難儀なさるな」


 その記事はあまりにも、帝国民を驚かす内容だったらしく、国内はその話題で持ちきりだった。


「リマンド侯爵家の私兵って、戦争で役に立つのか?」


「あそこは文官しか出たことのない門家だぞ」


「ルーキン伯爵家があるじゃないか!代々、メープル騎士団の騎士を輩出している名家だ」


「ルーキン伯爵家のみで、何が出来るってんだ?」


 マルシェの店先でも、その話題が飛び交っている。


「旦那様のイメージって…」


「うん。ほら、剣術大会があるだろ?14歳の名家の貴族は強制参加の」


 闘技場で行われる一種のお祭りだ。技術を競うのではなく、存在をアピールする場だと聞いたことがある。但し、騎士学校にも入れないような弱小貴族の子息達にとっては、名家の貴族に拾って貰う為の最大のアピールの場になる。庶民も見ることができる、大きなイベントだ。


「うちには、その大会に出れるような実力の持ち主は居ないから、スルーしていたわ」


「その大会、旦那様は強制参加されたわけだが、乗馬は手綱を引く者が付き添い。馬の横にはルーキン伯爵が付き添っていた。剣術は当然一回戦敗退。リマンド侯爵家小公爵と大々的に紹介されてのその結果だから、ある程度年齢の行っている王都民なら、誰でも覚えているよ」

 

 そんなことがあったんだ。将軍家の令嬢なら乗馬に狩りくらいなら、嗜みとしてこなすものね。数は少ないけど、女性騎士も人気の職業だし。


「有名な話なのね」


 今日、ユリはセルロスと肉屋に来ている。マリアンヌの結婚式で王都民に振舞う料理の為の、肉を抑える為だ。いつものマルシェの店舗ではなく、解体を行う冒険者ギルドの裏手にある作業場へ赴いたというわけだ。


 目の前では、筋肉隆々な男達が前掛けを血で染めながら、大きな魔獣を刃物で手際よく解体していく様は圧感だ。


「すみません、お待たせして」


 一際体格の良い、白髪混じりの長い髭を蓄えた男が、濡れた髪を拭きながら2階から降りてきた。


「いえ、作業を見学させて頂いておりましたので、お気になさらないで下さい」


 ユリの言葉にほっとした様子の男は、セルロス達を二階に上るように促す。


「流石に血飛沫を浴びた状態じゃぁと思いまして、ひとっ風呂浴びたんですよ。いやぁ、お待たせして、申し訳ない。こちらへどうぞ」


 小綺麗な部屋へと通すと、男はソファーを勧めた。彼の娘がお茶を運んで来る。今日はめかし込んでるのだろう、大商家の娘が着るようなワンピースを着ていた。セルロスにお茶を出すとき、にっこりと笑顔を向けるて、セルロスの横にある椅子にストンと座った。


 え?何で?貴女に用事は無いんだけど?


「ご用件は?」


 話を切り出した男に、春に予定している結婚式の為の肉の確保を頼む。


「リストはこれですか、また、豪勢ですね」


「王都民への振る舞い分もありますので。で、可能でしょうか?」


 娘を気にする事なく、セルロスからリストを受け取り、男は少し渋い顔をした。


「この金額ですか?ランクも細かいですね。コレは振る舞い分ですよね。なのにDランク以上ですか…」


 金額が気に入らないのかしら?


「何か問題でも?」


「夜会用の肉がAランクなのはわかりますよ。舌の肥えた貴族の方々が召し上がるんですから、ですが、振る舞い用は王都民がただでありつく食事でしょう?最低ランクとは言いませんが、それより、この金額で少しランクを落として貰えたら」


 肉屋は紙に数字を書くと、セルロスへ見せた。


 ああ、振る舞い料理に上等な肉を使うことに不満があるのね。タダ飯にお金をかけるより、肉屋に利益を上乗せして欲しいと。


「いえ、このランクでこの金額でお願いします。リマンド侯爵家の体面が関わってきますので」


「わかりました。では、品物が手に入り次第、随時納品させて貰います。何せ、肉は保管に金がかかりますからな」


 貴族ってのは大変なんだねぇと、呟き、男は契約書にサインをした。


「ところで、執事様は我々と同じ平民でございますよね。結婚は考えてらっしゃらないのですか?」


「私ですか、お嬢様が学園を卒業されてからと思っております」


 セルロスは面倒そうにはしているものの、執事として来ているので、それをおくびにも出さず、柔らかに答える。


 お嬢様の結婚の準備の為に来たから、世間話でセルロスの事を聞いたのかな?


「執事様ともなれば、やはり結婚も勤めている家の出来事に合わせるものなんですか?」


 興味本位ね。


「はは、そうですね。私はリマンド侯爵家に忠誠を誓った身ですから、私事で迷惑をおかけするわけにはいきませんから」


 男はどことなく残念そうな顔をして、娘を見ると、席を立ったセルロス達を娘と共に見送る。


「では、品が届き次第、娘に納品させます。宜しくお願いします」


「わかりました。料理長にそのように伝えておきます」


 セルロスの言葉に、男と娘はビックリとした様子だ。


「執事様が対応なさるんじゃ?」


「肉の質については門外漢なものですから、その道のプロである料理長が対応した方が、ご安心では?」


 男は愛想笑いを浮かべる。


「そ、それもそうですな。いや、全て執事様が対応なさったんじゃ、身体が幾つあってもたりませんわな」


 熱っぽくセルロスを見つめる娘が気になったものの、ユリはセルロスがサラッと対応するのをみて、いつものことかと気にもしなかった。


 セルロス、顔がいいし、執事の時は紳士的だからモテるのよね。

 


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