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終焉 ①

「セルロス、お嬢様も無事に戻ってらっしゃったって言うのに忙しそうね」


「ああ、全くだよ。お嬢様の結婚式の準備でバタバタだ。お暇だからって、領地から奥様が無理難題を吹っかけて下さる。今は、戦争中だから、大っぴらに準備が出来ないってのに」


 沢山の書類に埋もれながら、セルロスは叫んでる。


 あ、うん。奥様、お暇なのよね。


 異常に凝った結婚式と、その後の夜会のプランが書かれた何枚にもなる紙の束に目を向けた。暇を持て余した奥様が、結婚式の招待状は全て手作業で作成されているらしい。その一通一通、凝りに凝って、押し花で飾り、リマンド侯爵領の特産品である綿を使ったハンカチに刺繍を入れ、全ての招待状へ同封されるらしい。


 お嬢様のお針子、領地にいるもんね。好き放題よね。領民への振る舞いの酒や、料理も次第に豪華なものになり、ダンジョンを有するルーキン領のハンソン卿の留守を預かっているニキータ様から、これ以上の魔獣の納品は出来ないとヘルプの手紙が連日届いている。


「戦争中で穀物の値段が上がっていて、食料品の買い込みができないものね」


「こんな情勢の中、奥様の振る舞い酒と料理のプランがこれだ!料理長に連日試食を作らせて、日に日に常識を逸脱したものになっている。式の日は、オペラ歌手呼ぶつもりらしく予定を抑えたらしい。はあ、お金を使う才能は天下逸品だ。次から次に、どうしてこう思いつくのか」


 相手がフリードリッヒ様だから、式はご自分の思い通りに行うことができますものね。


「ねえ、ストッパーになるかわからないけど、ポリーナ様に奥様の手伝いに行って貰ったら?ほら、ポリーナ様はフリードリッヒ様のお母様だし、奥様の侍女だったわけでしょう?上手く諫めて貰えるかもしれないじゃない?」


「ああ、そうだな、其れが得策だな。フリップ伯爵に手紙を書いてみるよ」


 伯爵、ポリーナ様を奥様に合わせるの嫌がるのよね。引き留めて、なかなか帰さないから。渋い顔をしている伯爵の顔が思い浮かぶわ。


「それは、そうと、ジョゼフ殿下、治癒魔法は使えるようになったの?」


「いや、その兆しすら無しさ。だから、焦った上皇陛下が御自分でメープル騎士団を率い、ジョゼフ殿下を補佐として付けて、戦争に出られたんだ。治癒魔法が使えないにしても、この戦争をメープル騎士団のみで制圧すれば、ジョゼフ殿下はまだ、王位継承権を棄てずにすむとお考えなんだろう」


「そんなことが可能なの?」


 治癒魔法が使えなきゃ、将軍になることも出来ないこの国で?


「皇后陛下は治癒魔法は使えるが、聖女と呼ぶには烏滸がましいぐらい微々たる力しかない。陛下が聖女の役割まで果たしてらっしゃる」


「なら、もしかして」


「そうだ、もし、ジョゼフ殿下がお嬢様と御結婚なされば…。だが、その為には、最低でもメープル騎士団を治癒魔法無しで完全なる勝利へと導ける力が必要だな。皇后陛下はスミス侯爵の手助けもあり、孤児院の運営に、外交、慈善事業は完璧にこなされているわけだしな」


 皇后陛下の、強いてはスミス侯爵家の威厳を保つ為の持ち出しは、中々の金額と聞いているわ。


 あの渾沌とした情勢の最中、リマンド家の次に潤っていたのが、スミス家だったのよね。でも、皇后陛下を輩出し侯爵家に名を連ねたことによって、中々の経済打撃を被っているらしい。


「何よそれ!お嬢様にジョセフ殿下の為に犠牲になれってことでしょう!」


「そう怒るなよ。メープル騎士団は酷い惨状なんだ。ユリが危惧するようなことにはならないさ。それより、旦那様が到着されるまで、持ち堪えれれば良いがな。上皇陛下を説得できるのは旦那様だけだからな」


 旦那様が王都から旅だって、もうそろそろ一月になる。


「まだ、戦地へお着きにならないの?」


 セルロスは言いにくそうに、頭をかいた。


「馬車での移動だからな」


 馬車での移動とはいえ、貴婦人の旅行とは違うのだから、軍用の道を使い野営をすればもうとっくに着いるはずだけど…。


「んー。旦那様、野営が無理だからな。後、軍用の馬車も」


 なるほど、旦那様は貴婦人の扱いなんだ。まあ、なんとなくわかってはいたわよ。幼少期のフリードリッヒ様を見て、あの方も、剣術以外は姫君のようにここで過ごされてましたし…。


「ジュリェッタ嬢はどうされているの?バルク邸、使用人は皆、辞めてしまったんでしょう?」


「あんな事しておいて、もとの生活に戻れると思ってたみたいだ。ルーキン家の従者によれば、手紙を渡した後、呆然としていたらしい。ルーキン家に連れて帰れと言い寄られると面倒だから、急いでその場を離れたと言っていた。密偵によれば、ドレスを数着お金に替えていたようだ」


 ジュリェッタの頭の中はお花畑なのかしら?あんなことをしでかしたのに、ルーキン伯爵がまだ後見人をしてくれると思っていたなんて!使用人すら逃げ出すような犯罪を犯したのよ。


「お金に困っているのかしら?まあ、バルク男爵、飲み代が給金だけでは足りずに、彼方此方から借金なさっていたものね。家にお金なんて無いわよね」


「まあな、冒険者ギルドへ行ったようだが、周りの目に耐えれらず、早々に立ち去ったようだ。街でも、居心地は良くないようだ。顔が知れ渡っていたから、余計に非難を浴びているようだぞ」


 強制労働に送られ無かっただけマシじゃない!本来なら、罪人として、強制労働に従事させられるべき罪でしょう。それが、バルク男爵の前線での活躍が目覚ましいので、士気が落ちないようにとの配慮で、バルク男爵の褒美と引き換えに家に帰れたんじゃない!非難くらい、軽いもんでしょう。


「じゃあ、家でおとなしく引きこもっているの?」


 ユリの言葉に、セルロスは片眉を釣り上げた。


「いや、そうでも無いらしい。後日、大量のドレスを売り、それなりの金を作ると、不成者が集う酒場に消えて行ったそうだ。バルク邸の前ではってはいるのだが、それ以来、密偵もジュリェッタ嬢を見ていない」

 

「ふーん。でも、よくそんな所、知ってるのね。まさか、その店がどんな店が知らずに入ったわけじゃ無いでしょ?」


 その店に入ったきりってのが気になる。彼女は今、そこに住んでいるの?

 

「だろうな。普通の令嬢ならいざ知らず、彼女はソロでもやっていけるだけの実力を持つ冒険者だ。何か企んでいるのは明白だな」


 ジュリェッタは冒険者時代、それなりに人脈を築いていたとラティーナ様が言っていたわね。彼女が交渉を全て受けもっていたし、組む冒険者の選定もしていたらしい。不成者にも顔がきく可能性はあるわ。


 ドレスを処分して得た多額のお金。不成者達。消えたジュリェッタ。


「狙いは何かしら?」


「わからないが、お嬢様の身辺は警戒して損はないだろな。彼女が王都を去ってないことだけは確かだ。お嬢様が無事結婚されたら、やっと学園へ入学だ。長かったな、学園にはついて行くんだろ?」


「勿論よ」


 何があるかわからないから、ちゃんと守って差し上げなきゃ。


「だよな、あと、一年ちょいも御預けか」


 セルロスの呟きはユリの耳には届かなかった。

 

 

宰相、運動苦手、夜はベットで、ある程度のクオリティーの部屋じゃなきゃ寝れない人。上皇陛下やジョゼフ殿下よりある意味で面倒。

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