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デート ③

 部屋をノックする音が聞こえ、セルロスが入って来た。


 あの冒険者との用事は済んだんだ。


 あの少女の顔が頭に浮かび、何となく面白く無くて少し苛立ちを覚える。


「遅くなった。話は済んだかい?」


 お忙しいのに長らく時間を頂いてしまったわ。


 机上の書類の山が目に付き、長いこと話し込んでしまったことを反省する。


「ええ、とても楽しい時間だったわ。会長さん、今日はありがとうございました」


「此方こそ、楽しい時間だったよ。また、良かったら近々是非、遊びに来て下さい。その時までに試作品をご用意しておきますよ」


 あっ、乾パンのことね。また、ここへ来る口実を用意して下さったことに感謝する。


「はい、是非」


「では、出来上がり次第連絡いたしましょう」


「ありがとうございます。連絡楽しみに待っていますね」


 会長と別れ、下で飴やクッキーなどを購入する。勿論セルロスの奢り、ここぞとばかりに両手一杯に商品を抱え込む私にセルロスは呆れ顔だ。


「こんなに買うのかよ」


「言ってなかった?私、兄弟が多いのよ。で、全て母の子供なの」


「何人だよ?」


 商品の代金を払いつつ、セルロスが聞いてくる。


「私を含めて五人よ、一番下は双子だしね」


「そりゃあ、服だの靴だの言ってられないな」


 セルロスはビックリしたような顔をしたが、なんとなく納得した様子だった。


「でしょう?で、お父様は騎士爵なんだけど、騎士学校を卒業していないし、それ程の実力も無いからお手当は少ないし、領地も猫の額ほどだから実入りも期待出来ないのよ」


「よし、じゃあ、髪留めぐらい買ってやるよ。仕事の時に髪を纏めるモノは自分で用意する必要があるだろ?」


 危ないからと手を引かれ街をぶらつく。洒落た店は少なく、定食を出す店や酒を出す店が建ち並ぶ。服も冒険者用の物を取り扱う店がほとんどだ。


「ここに入ろう。この時間帯なら大丈夫だろう」


 セルロスがチョイスした店は、比較的高い値段設定の定食屋だった。


「ここ、良い値段するわよ?」


「気にするな、俺が出すから。それに、安い店にはタチの悪い連中がいることが多いからな。ま、この時間帯なら人も少ない絡まれることも無いだろうが、気を付けるに越した事はないからな」


 安全対策ね。


 でも、なんか申し訳ないわね。お菓子を買って貰った上に食事まで奢ってもらうなんて。


 店内は清潔に保たれていて明るい雰囲気だ。セルロスは窓際の比較的入り口に近い席を選ぶと、ユリを奥へ座らせ、何故か横並びに座った。


「ちょっと、何で横なのよ?」


「安全面を考慮してだよ。正面に座ったら、何かあった時に対応が遅れるからな」


 冒険者って、そんなに物騒な人達なの?


「なら、食事なんかせずに大人しく帰った方が良いんじゃない?」


「皆んなが皆んなそんな人達じゃないよ。ただ、中には気性の荒い人達がいるから気を付けるに越したことはないさ」


 なら、良いけど…。確かに、気を付けるに越したことは無いわね。


 セルロスは慣れた様子でちゃっちゃと注文する。


「で、聞きたい事は聞けた?」


 わざわざ、約束を取り付けてくれたんだよね。その上、安全面を考慮してこうして着いて来てくれた訳だし、お礼くらい言わないとダメよね。


「うん、聞けたよ。ありがとうね。私一人ではこの街を散策するのは厳しかったわ。本当に助かった」


「どういたしまして」


 セルロスは機嫌が良さそうにいつもの作った笑みではなく、珍しく本来の笑顔を見せる。


 なんだ、そんな顔出来るんだ。


「ねえ、パブロ商会でセルロスに声をかけて来た…」


「はい、お待ち!これで全部だよ。あら、貴族のお嬢様じゃない。ちょっと待ってて、小分け用の取り皿を持ってくるから」


 恰幅の良い明るい表情の定員に、ユリの声が掻き消される。


 聞くタイミングを失いモヤモヤが胸に広がる。


「どうした?」


「何でもない」


 ならいいけどといい、セルロスは肉を口へ頬張る。


 リマンド家では上品に食事をしている姿しか見たことがなくギャップに驚く。


 へー、そんな食べ方もするんだ。


 店員の持って来た皿に、手際よく肉をカットし乗せて

目の前に置いてくれる。他の料理も食べやすいように取り分けてくれた。


「ありがとう」


 切り分けてくれた肉は、柔らかくジューシーでとても美味しかった。全ての料理に満足し、程良い満腹感に浸っていると、五人の冒険者のグループが店内へ入って来た。


「おっ、貴族のお嬢様じゃないか?」


「本当だ珍しい」


 不躾な視線に耐えかねて、セルロスの影に隠れる。


「出ようか」


 こくりと頷き、彼らの視線から逃げるように店を後にした。


「ごめん、不快な思いをさせた」


「セルロスのせいじゃないわ。ただ、彼らにとって私は珍しい存在なのよ、きっと」


 セルロスに気を遣わせないようになるべく明るく努める。


「ああ、そうだね。そろそろ帰ろか、暗くなると危ないから」


 帰りは幌の中でゆっくり休むように言われその言葉に甘える。慣れないことをした疲れもあって、長椅子に横になり目を閉じる。


明日も→18時過ぎに更新します

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