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事件 ④

 ワゴンを片付けて、いつ呼ばれても良いように部屋の前で待機する。時折り、ジュリェッタの興奮したような怒鳴り声が聞こえる。


 小一時間が過ぎた頃、ドアが開きユリは中へ入るように促された。部屋の中には疲れた様子のハンソンと、目を丸くしたマリアンヌ、相変わらず飄々とした侯爵、そして、非常に興奮した様子のジュリェッタの姿があった。


「わかった。では、検証が済むまでは我が家の離れに留まって貰おう。」


「いやよ」


 侯爵の言葉にジュリェッタが間髪をいれずに叫ぶ。


「なら、城の地下牢の方がよろしいかな?」


 侯爵の言葉にジュリェッタは慌てる。まさか、城の地下牢という言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。


「は、離れがいいです。」


 侯爵家で軟禁。いったい、この1時間で何があったの?


「ユリ、案内を。ハンソン、ジュリェッタ嬢を安心させるために君も一緒について行ってやりなさい。」


 ユリは戸惑いながらも、それをおくびにも出さず、言われるがままにジュリェッタを離れへと案内する。


 改装が終わった離れは、まさしく貴人の為の牢獄だ。外への連絡手段は無く。離れの周り半径20メートルは芝生のみで姿を隠せる所は無い。そればかりか、窓は全てはめ殺しで、棟内は術を用いて生活魔法すら使えないような作りになっている。


「ねえ、離れって、普段は誰が住んでいるの?」


 落ち着きを取り戻したジュリェッタが、道すがら尋ねる。


「普段は誰も住んでおりません。お奥様が此方に滞在される時によく使用されます。また、奥様がよくお茶会を開催されております」


 後は、旦那様が密談に使うくらいね。


「ふーん。なら、一応、良い待遇なんだ」


「今、離れにはメイドが三人、下男が二人居ります。その者達がお世話を致しますので、どうぞご安心下さい。また、建物に入られましたら、旦那様の許可無く、建物から出られませんように」


 抑揚の無い喋り方を心掛けながら、ユリは注意事項を説明する。


「わかったわよ」


 不貞腐気味に答えるジュリェッタに、ハンソンは大きな溜息を吐いた。


 離れに着き、部屋へ案内するユリの横で、ハンソンは終始無言だった。ユリが本館へ戻る際、ハンソンも一緒に着いてくる。


 あれ、ジュリェッタに声を掛けなくていいのかしら?


 建物を出た所で、ユリは横のハンソンを仰ぎ見る。


「これで良かったんですか?」


 ジュリェッタは、ハンソンが愛した人との間にできた子だ。


「何のことだ」


 ハンソンはユリに冷たい視線を向けた。


「ジュリェッタ嬢です。今まで、本当の妹のように面倒を見て来られたと伺っております」


「ああ、そのことか。彼女は我々より、いや、自分の母親よりバルク男爵が大切なようだ」


 小説では何よりジュリェッタを大切にしていたハンソン。ルーキン伯爵家の当主の座を諦めてまで、ジュリェッタを愛しんだ彼が、今、ジュリェッタを切り捨てた。小説てのハンソンは、亡き最愛の人であるジュリェッタの母親を思い、生涯婚姻をしない。


 今を生きる彼は辺境伯の娘を娶ったことも、びっくりだけど、あの部屋で何があったの?ハンソン様がこんな台詞を言うなんて!


 そのまま重い雰囲気のまま、ユリは無言でハンソンを馬車まで送った。


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