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断罪?

 今日はお城でクリスマスの夜会が開かれる日。小説では、お嬢様はリフリード様のエスコートで会場入りされたのよね。


 しかし、その実態は、行きの馬車でさえ別々で、会場に入ったとたん、リフリードはマリアンヌの手を離し、ジュリエッタの元へ行ってしまった。リフリードはマリアンヌと目さえ合わせず、ドレス姿すら褒めず、その瞳はマリアンヌを一度も映すことは無く、会場に着いたその時からジュリエッタを探していた。


 社交界に友達の少ないマリアンヌがポツンと立っていると、学園で出来た取り巻きの三人の令嬢が、マリアンヌの側に来て、ジュリエッタの悪口を言い出す。それを、ジョゼフ殿下がマリアンヌがジュリエッタを貶めたと鬱憤もあり盛大に非難する。陛下の目もあり、皇后がそれを取り成し事なきを得るが、本来ならマリアンヌを守るってくれるはずの、リマンド侯爵は病床、夫人はそれに付きっきりでこの場には居ない。陛下は立場から、マリアンヌを擁護することは難しかった。


 マリアンヌにとって、大きな転落の布石になる悪夢のような夜会。ジュリエッタにとってはこの騒ぎのお陰で、その存在を皆に示す為の大きなイベント。このイベントのお陰で砂漠の国の皇太子に顔を覚えて貰える。


 大丈夫。お嬢様のパートナーはフリードリッヒ様。リフリード様のように、お嬢様をほったからして他の女の所へ行くことは無い。何かあっても、奥様と旦那様が助けて下さる。


 ユリは、ふうと、息を吐くとドレスの用意をしていく。靴に装備具、リボンにパニエ、絹のストッキングに、手袋、上に羽織る毛皮のポンチョ。一つ一つ、不備が無いかしっかりチェックする。


 明日はクリスマスだ。城へ送り出して仕舞えば、ユリに出来ることなどない。精々祈るくらい。


 本来なら、ヒロインであるジュリエッタが着るはずだった、ブルーグレーのドレスに視線を向ける。イザベラ渾身の作であるそのドレスは少しだけそのデザインを変え、マリアンヌの為にここにある、ジュリエッタが身に付けた装備具とは比べ物にならないくらい、豪華な装備具と共に。


 ああ、明日はどうなるのだろう。友達すら居ないジュリエッタ、ヒロインのドレスを着るお嬢様、まるで、その立場が逆転したような現象。転生者であれば、ジュリエッタはあのドレスを血眼になって探していただろう。明日、あのドレスを着たお嬢様を見てジュリエッタは何を思うのだろう。確実に、ストーリーがずれてしまったこの世界に、物語を知っているであろうジュリエッタが面白くないことだけはわかる。


 お嬢様の店で出会ったジュリエッタは、淑女という雰囲気では無かった。彼女の侍女であり、ハンソンの犬であるナタリーが手こずっている様子だった。ジュリエッタは、彼女ほどの能力のある侍女の手に余る存在なのだろう。もしかしたら、ハンソン卿から見捨てられるかも知れないわね。


 ユリは何も起こらないことを願いながらドレスルームを後にした。


「ユリ、隣、いい?」


「ええ」


 明日に備え、早目の食事を摂っていると、セルロスがトレーを持って横に座った。


「明日の準備は終わったのか?」


「バッチリよ!ドレスも装備具も、シャボンも香油も良い物を準備したわ。領地へ帰る準備も終わっているし、明日はお嬢様を磨き上げてお送りすれば、全ての仕事はおしまいよ」


「流石、侍女の鏡だね。なら、お嬢様達が城へ向かわれたら、少し出かけないか?」


 セルロスはパンをちぎると、皿に残ったソースを拭き取りそれを口へ運ぶ。


 その時間帯は確かに暇だわ。


「ええ、いいわよ。どこへ行くの?」


「前に、教会へ行こうと言ってだだろ?」

 

 そんな話していただろうか?庶民は教会へ集う事くらいは知っているけど…。そう言えば、最初に組み紐を貰った時にしていたような…。


「ああ、そう言えば…」


「忘れてたのかよ」


 セルロスは呆れたようにユリを見ると、直ぐに気をと直したようににこっと笑うと、楽しみにしといてと一言言い残し、さっさと食事を済ませて出て行った。


 セルロスも今日は忙しいのね…。


 侍女として働いている良家の子女達は、クリスマスの一週間前には皆自宅へと帰って行った。明後日から、この屋敷の大半の使用人は休みを取る。領地から来ている者達は、二年ぶりに帰る我が家に心を弾ませていた。


 セルロスからの誘いと、浮かれた屋敷の雰囲気で、沈んでいたユリの心は幾分か回復した。


 翌早朝、ユリは支度を済ませるとメイド達を伴って、湯の用意をする。お湯に乾燥させて置いた薔薇の花びらを浮かべ、花から取った香油を垂らす。オイルとクリームを用意して、浴室のベッドの上にバスタオルを敷き詰める。


 準備を全て終えると、食事を終えたであろうお嬢様を呼び行く。お風呂で磨き上げ、全身をマッサージし、髪を結い上げ、コルセットを締め上げる。ユリが化粧を施している間、リサとメイドが手のマッサージをする。時間を確認しつつ急ピッチで進めていく。合間にマリアンヌに軽食を摂って貰うことを忘れない。最後にドレスの背中の全ての釦を留めて、装備具を着け、靴を履かせて終了だ。


 完璧なマリアンヌの出来栄えに皆が達成感に包まれる。


「お嬢様、素敵です」


 うっとりと、メイド達が賛辞の言葉を口にする。


 本当、美しいわ。美しい主人を持つことは、侍女やメイドにとってとても至福ね。


 鏡を見るマリアンヌも、自分の姿に満足そうににっこりと笑った。


 ユリは心の中で祈りながら、セルロス達と城へ向かう主人達を見送ったら。


 どうか、何事もありませんように…。



 

 


 

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