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リンダ ②

「まだ、事態の重大さをわかっておらんようだな」


「そんなに悪い事ですか?まあ、確かにお嬢様のアクセサリーを持ち出した事は良くないことですわ。それは、反省しています。でも、第二夫人に…と言うのは、そんなに悪いことではないでしょう?聞く所によると、テイラー嬢はフリードリッヒ卿と恋人同士と言ってらっしゃったみたいですし」


 もじもじとしながら、だから、そんなに重大な事じゃないでしょう?熱りが冷めるまで、形ばかり修道院で過ごすから、できれば、社交界シーズンは外して欲しいと訴えているのだ。


「リンダ!」


「お兄様、そんな怖い声を出さないで下さい。わかっております。ちゃんと、修道院には参りますし、しっかりと反省しております。この春より、城勤めされる兄様にご迷惑をお掛けしたことは、申し訳なく思っております」


 夫人はそれくらいは仕方ないわね。と言う風に静かに頷いている。そればかりか、こんなにリンダが反省しているのだから…とでも言いたげだ。それを横目に嘆息はしると、男爵は力なく口を開いた。


「リンダ、テイラー伯爵令嬢は女神の教会へ行かれた」


「女神の教会…。嘘でしょう?」


 リンダの顔色が始めて変わり、カタカタと震え出す。


「嘘では無い。伯爵がそうお決めになった」


「嘘よ。だって、テイラー伯爵はとても愛していらっしゃったわ」


「そうだな。最初は辞職なさるつもりだったらしい。だが、陛下から、養子を貰ってはどうかと打診されてね。ならばと、令嬢にこの国の為、祈るようにと女神の教会へ行く事を命じたそうだ」


 夫人とリンダが崩れ落ちた。テイラー伯爵が娘を溺愛していたことを知らぬ貴族などいない。あの、マダムの店で社交界シーズンになると毎年一着づつ、ドレスを新調していた。伯爵家であれば、かなりの贅沢だといっていい。余程、娘を可愛がっていなければそれを許すことは無い。


「そんな…。なら、私も…生涯、修道院で」


「そうなるな」


 ぽつりと呟いた男爵の言葉に、リンダは気を失った。


「ユリ、帰るか」


「はい、旦那様」


 見送る為、のろのろと立とうとした男爵一家を侯爵は手で制する。


「見送りは良い。皆、疲れておるだろ」


 そう言うと侯爵はユリを伴って、男爵家を颯爽と後にした。


 ユリは手の中の酷く傷んだチョーカーを見て気分が沈んだ。


「ユリ、私はこのまま城へ戻る。マリーにはお前から、上手く伝えてくれ」


「はい、旦那様」


 ユリは侯爵を見送ると、その足でフール商会へと急いだ。


 帰ったら、お嬢様にリンダの事を報告しなきゃならないわね。でも、その前に、このチョーカーを修理に出さなきゃ。この状態でお嬢様に見せることは出来ないわ。


 屋敷に帰り、ユリはマリアンヌを探すと、中庭からフリードリッヒとマリアンヌの楽しそうな声が聞こえる。


 楽しくお過ごしの時に水を刺すようで申し訳ないけど、フリードリッヒ様がご一緒の方がショックも和らぐわよね。


「お嬢様、只今お時間宜しいでしょうか。大切なお話があります。」


 真剣なユリの表情に、フリードリッヒが気を利かせる。


「俺は、席を外そうか?」


 お嬢様を慰めて貰わなくてはならないから、この場合にいて貰わなきゃならないの!


「いえ、そのままで。フリードリッヒ様にも関わることでございます。」


 ユリの言葉で、フリードリッヒがメイド達を手でこの場から立ち去るように促すと、メイド達が礼をして退出したのをユリは目で確認すると再び口を開いた。


「お嬢様のチョーカーの件でございます。」


「見つかったの?」


 花もはじらう笑顔で、嬉しそうにマリアンヌは笑った。


「はい。ですが、少し面倒なことになりまして。」


 ユリはどう話そうかと思案しているようで、その口調はどことなく歯切れが悪い。


「面倒なこととは?」


「チョーカーを持っていたのはリンダでございました。本人は盗むつもりは無かったと言っておりますが、いかんせん、それを身に付けている所を数名の令嬢達に見られておりまして…。また、その令嬢達にフリードリッヒ様からそのチョーカーを貰ったと言っていたみたいで…。」


「で、リンダの処分は?」


 あ、お嬢様、怒ってらっしゃるわ。はあ、そのお顔も可愛い。


「旦那様が男爵家に帰されました。流石に、出来心とはいえお嬢様のものを勝手に身に付けて、お茶会に行った者をリマンド家には置いて置けないと仰りまして、処分は男爵様に委ねられるそうです。」


 流石に、修道院から一生出て来れないかも、とは言えないわ。まあ、実際に一生修道院ってことは無い。熱りが冷めて、2、3年したら、こっそりと修道院から出て商家や男爵家、騎士家の後妻か第二夫人に収まるのが普通だわ。


 社交界には二度と戻って来れないから、まあ、そこからは抹殺されたも同然。勿論、良い婚姻が入ってくる可能性はゼロに等しい。見目が良くても、いわくつきの令嬢を嫁にしたがる貴族はほぼ居ない。


「誤って持ち帰って、それをフリード様から貰ったなどと偽りを言って、リンダに何の得があるのかしら…。」


 マリアンヌの疑問に、ユリは一層沈んだ表情になり、口にしようかどうか思案したようだが、決心したらしく言葉を選ぶように話しだした。


「リンダと一緒にお茶をしていた令嬢の話によりますと、リンダはフリードリッヒ様の第二夫人の座を狙っていたようでございます。この、リマンド家に侍女として来たのも、フリードリッヒ様に近付くためだったと思われます。」


 申し訳ございませんとユリが頭を下げたが、マリアンヌはその様子も目に入らず放心状態だ。


「マリー、大丈夫かい?顔色が悪い、可哀想にリンダのことがよっぽどショックだったんだね。」


 フリードリッヒは立ち上がると、未だ青い顔をしているマリアンヌを抱き上げた。


「ユリ、済まないがここの片付けを頼むよ、マリーを部屋へ運ぶ。調子が悪そうだ。」


「はい、承知致しました。」


 良かった。フリードリッヒ様がいらっしゃる時に報告して、これ以上心労を与えないように、チョーカーは綺麗になったら、そっと戻しておこう。

 

 

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