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デート ①

 金曜日の朝、夜も明けぬうちに何故かクロエが私の部屋へやって来て、クローゼットの中をこれでも無い、あれでも無いとあせっている。


「ちょっと、クロエ何してるの?まだ、日も登ってないのよ?」


 苛立ちに任せて声を荒げるけど、それを全く気にする素振りすら見せずに、顔すらこっちに向けずにクロエはクローゼットの中身と格闘している。


「決まってるでしょう?貴女が今日着る服を見繕っているのよ!」


 え?


 私の今日の服?


 夜も明けきらないうちから?


「ちょっと、(庶民向けの)商会へ行くだけよ?」


 奥様が通っているような、王都にあるマダムの店(高級ドレスショップ)に行くわけじゃあるまいし、何をそんなに準備する必要があるのかしら?


「あら、でも、デートでしょう?気合い入れなきゃね!」


 デートって、一緒に買い物行くだけなんだけどな…。それも、何処ぞの公子や騎士では無く、相手はセルロスでただの同僚。クロエと買い物に行くのと変わらないのに。


「デートって、そんなんじゃないわ。唯の職場の仲間よ」


「あら、でもセルロスと買い物に行くのに、酷い格好では行けないでしょう?彼と一緒なら、貴女がリマンド侯爵家の侍女だってアピールしているようなものじゃない。それこそ、気合い入れて行かなきゃ!旦那様や奥様の顔に泥を塗ることになるわ」


 うっ、それを言われると返す言葉も無いわね。


「わかったわよ、私の考えが甘かったわ。でも、これはさすがに気合い入れ過ぎじゃない?」


 ワンピースに靴やリボン、ジャケットや、ケープなどを手当たり次第合わせて唸っているクロエに声を掛ける。


「あのね、全くわかってないわね?貴女の服は、色々な方から頂いた物でしょう?物は良いわよ、でもね、その分合わせが難しいの。普通は服に合わせて靴や上着、アクセサリーを購入するの、でも、これらは全て別の方に頂いたものでしょう?だから、全てテイストが違って、どう組み合わせるかが難しいのよ!」


 腕がなるわ!と気合いを入れているクロエを横目に、はあと小さな溜息を吐く。


 外出一つで、ここまで気を付けなきゃならないのね。社交クラブへ出入りする時の服装も、クロエに助言を受ける必要が出てきたわ。後、手持ちの服に合った靴と、上着くらい購入しなきゃならないわね。


 手持ちがあるとはいえ新品の服は高い。その殆どがオーダーメイド。殆どの騎士達の奥様達が着ているのは、大貴族のお嬢様達やご婦人がサンプルとして作らせた洋服を扱う店の商品。


 庶民は基本的に古着屋で服を買い、着なくなったらまた古着屋へ売る。大商家のおぼっちゃまやお嬢様で無い限り、ハレの日くらいしか新品を誂えて貰えない。


 古着屋ってわけにはいかないわね。はあ、クロエ達は給料の殆どを服代にしている訳だし…。どこからそのお金を捻出しょう、手持ちで足りるかしら?

 

 シンが騎士学校を卒業するまでは仕送りを減らす訳には行かないし…かと言って、チグハグな格好で社交クラブに出入りするわけにもいかない。一難去って、また一難だわ。


「ユリ、さっ、着替えて!」


 クロエが選んだのは、白い袖口に小さな花の刺繍の入った水色のワンピース、それに同じ色合いのリボンと、ベージュのポンチョに茶色の編み上げブーツという春らしい装いだった。


 促されるまま着替え、髪を結って貰う。


「ふふふ、どう?して貰う気分は?」


「なんだか恥ずかしいわね」


 いつもながら、クロエの手際の良さに感心してしまう。


 ささっと白粉を叩いて紅を入れ、軽く化粧を施される。


「ユリ、このままここでお嬢様付きとして、職業侍女をやっていくつもりなら、一度ちゃんと化粧と髪結いを学ぶ必要があるわよ」


 クロエの言わんとすることはわかっている。魔法学園に付き添うのであれば、一人で全てを賄わなけばならない。学園へ連れて行ける従者は、王族であっても一人と決まっているのだから。


 小説の『ユリ』は力不足だった。ただ、お嬢様のお気に入りというだけで側に侍り、盲目にお嬢様の言付けに従う、お嬢様のご機嫌取りに懸命に励むだけの存在。お嬢様が破滅の道へ突き進もうと、諌めることすら思いつかず一緒に突き進むだけ、お嬢様のお世話も完璧とは言えない。お嬢様が学園で侮られていたのには、ユリにもその原因がないとは言い難いわね。


 まあ、わからないでもないのだけれど、侯爵家の侍女は皆、良家の子女で小さい頃から躾けられていて作法も完璧。何の取り柄も無く、生きる事が精一杯だった『ユリ』とは元々住む世界が違う。そんな彼女がお嬢様に気に入られたと言うだけでお嬢様付きになる。彼女は劣等感の塊で、助言でさえお嬢様付きを降ろすための妬みではと、疑心暗鬼になって素直に従うこともできない。


 実家への仕送りもしなければならない立場だから、絶対に辞める訳にもいかず、そんな彼女が出来るのは、お嬢様に嫌われないように一生懸命にご機嫌取りをすることくらい。


 こう考えてみると、私が他の侍女なみに知識があれば、だいぶお嬢様の人生が明るくなる気がしてくるわ。


「ねえ、良い先生はいる?」


「サマンサさんは?」


 冷たい眼差しが印象的な奥様の専属侍女さんよね。


「奥様付きの?」


「ええ、奥様が城から嫁ぐ時に連れていらっしゃった方よ。幅広い知識と洗練された技術の持ち主よ」


 興奮するクロエを横目に、そっと息を吐く。


 できれば関わりたくない人物の一人だ。


「他には?」


「王都のマロウマダムの女主人、通称マダム。彼女はこの国の流行の最先端よ。職業侍女を目指す人が自身の休暇中に教えを乞いにこぞって行く人物よ」


 また、敷居が高いわね。王都で一番値の張るドレスを売る店、ドレス一着の値段は我が家の一年間の収入を遥かに超える。しかし、店の予約は半年前までびっしりと埋まり、中々予約の取れない店としても有名だ。一見さんお断りで、そこで購入するためにはある一定の爵位が必要。奥様が足繁く通われている店の一つよね。


 クロエはどうして侯爵家に行儀見習いに来たのかしら?クロエのご実家はそれなりの伯爵家、城でも充分に働けるわよね。


「クロエはどうして、リマンド侯爵家の侍女になろうと思ったの?」


「決まってるじゃない!ここにはサマンサさんがいらっしゃるからよ。彼女に教えを乞う為にここへきたんだから。マダムからは、ドレスを購入さえできれば、この先色々教えて頂く機会はあるわ。でも、サマンサさんからはここの侍女にならない限り教えを乞う機会が無いのよ!」


 美意識の高いクロエには舌を巻くわ。もしかして…


「ねえ、ユリアもそうなの?」


「当たり前じゃない!ここに行儀見習いに来ている侍女の目当てはサマンサさんよ」


 あはは、そうだったのね…。今まで一切気が付かなかったわ。ここは、流れに乗って私もサマンサさんにご教授願うべきね。


「さ、出来たわ。今日は楽しんで来てね!」


 可愛く髪を結われている。


「ありがとう」


18時ごろ更新予定でしがミスりました。

お待ち下さってた方、遅くなりすみません。明日も更新します。

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