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裏切りの対価

 男がマルクで、女がシーラか。どちらも卑屈そうな感じの笑みを浮かべているが、目だけは暗く濁っていて、チラチラとこちらの隙を伺う不快さがあった。


 こいつらは、社会の“屍肉喰らい(スカベンジャー)”というところか。


「やっとわかったよ。あのとき、お前らがゴブリンに攫われてくエルミを見ながら言ったことがさ」


「な、なんの話……」


「“しょうがないよね”“わたしたちは悪くない”“こうするしかなかったんだ”」


「……まさか」


「おいおい、そこは必死に否定するとこじゃねえの? 一応仮にも、エルミに謝罪する演技までしたんだからさ」


 ふたりは固まったまま、動かなくなった。

 小者がテンパったときの反応はふたつしかない。フリーズするか逆ギレするかだ。ただ、こいつらに選択肢はない。俺が銃を持ってるからだ。


「そっか」


 俺は鼻で笑って、エルミの背後に立った。いつでも彼女を守れるように、銃を構えて周囲を見渡す。


 俺は、裏切ったふたりに、何の感想もない。蔑みもしないし、憎しみも覚えない。でも、必ず殺そうと決めた。


「俺は、武器を向ける相手を、間違えたのかもな?」


 近くにいる者たちはみんな、こちらを注視していた。怪我から回復してもらった者たちも。遠巻きに見ていた町の住人たちも。門の外を警戒しているはずの兵士たちもだ。


 いや、おかしいだろ、それ。最大の敵がどこの誰だと思ってるのか、丸出しにしすぎじゃん。


「覚えとけ。エルミは、もう俺の仲間だ」


「ニャッ⁉︎」


「手を出せば殺す。彼女を害そうとした連中は、せいぜい遠くまで逃げろ。そいつらも見つけ次第、殺す」


 兵士たちの目が俺に向いて、槍や剣を持った手が強張る。

 誰もが俺ではなく、俺が持ったステンガンを見ていた。


「……あんたは、いったい」


「まず自分が名乗れって、言ったよな?」


 俺のチンケな眼光に怯んだわけでもないだろうが、ボソボソと小さく名乗りを上げた。名前は聞き流す。覚える気はない。だが顔だけは覚えておく。

 こいつらを警戒することも、いずれ城門から締め出した報復をすることも忘れない。


「もう、いいだろう。教えてくれ。あんたは、どこから来た、何者だ」


 そうだよな。俺がこの国の者じゃないことはハッキリしてるんだ。こっちの人間、人種も文化も文明も日本人とは掛け離れた感じだもんな。

 服も靴も武器も顔も、口先だけではごまかしきれない。どう説明したもんか。そもそも説明する必要あんのかな。


「ミーチャは、遠いところから来た……魔道具使いの猟師ニャ。ウチがゴブリンの巣に連れて行かれたところを、助けてくれたのニャ」


 説明に困った俺の代わりに、エルミが解説を買って出てくれた。魔道具でもないし猟師でもないが、エルミのなかではそういう解釈になったようだ。

 当たらずとも遠からず、なので否定はしない。


 兵士や町の住人たちが、臨戦態勢のまま頷く。

 エルミの説明に納得してはいないようだが、俺と敵対することが得策ではないと理解した結果だろう。三十ほどのゴブリンを瞬殺したのは兵士たちも目にしているのだ。


「……それが、魔道具なのか」


「ああ。ゴブリンくらいなら()()()()()()()()簡単に倒せるが、カネが掛かる。お前らが群れを(けしか)けたことを、忘れちゃいねえからな?」


 睨みつけてやると、兵士たちは怯えて震え始めた。

 門の外での消費弾薬だけでも二千円(十五ポンド)以上は掛かってるんだ。貧乏なときの無駄金ほどストレスになるものもない。


「ああ、いいとも。もちろんカネは払おう」


 背後で偉そうな声がして、振り返ると兵士の詰所みたいな建物から歩いてくる男がいた。

 筋肉質ではあるが、年齢とともに弛んだ感じ。口髭を生やして、インチキ臭い笑みを浮かべている。


「ようこそ、エーデルバーデンへ。わたしは、この町の衛兵隊長、マーバルだ」


 なるほど、こいつがね。


 衛兵隊長はエルミの方に顔を向けもしないが、その演技は下手クソすぎて笑いも出ない。彼女が変なタレコミでもし始めたら全力で止めようと身構えているのが丸わかりだった。


「俺は、ミーチャ。いま説明にあったように、流れの魔物猟師だ」


 そんな職業があるかは知らん。名乗ったもん勝ちだと思って押し切る。

 この状況で魔物狩りの専門家だと聞けば放ってはおけないだろうと踏んだが、案の定マーバルは思っ切り喰いついてきた。


「それは、素晴らしい。ミーチャくん、念のため聞いておきたいんだが、ゴブリン以上の魔物は倒せるのかな?」


 ほぼ同年代であろうマーバルの口調に、ちょびっとだけカチンときた。

 この状況で三十男を“くん”呼ばわりって、舐めてんのか。いくつに見えるのか知らんが俺は童顔でも若作りでもねえぞ。服はヨレヨレのTシャツに膝丈カーゴパンツだけどな。


「もちろん殺せるさ。やるかどうかは、お前らの態度とカネしだいだ」


 俺は端的に事実を伝える。

 “お前らなんて、いつでも殺せる”とういうこと。そして“タダ働きはしない”ということもだ。


 マーバルは頷きながら目を逸らした。ということは、少なくとも前半は受け入れたようだ。


「さっきも言ったが、カネは払おう。ゴブリンを……倒してくれた分もだ。それで、頼みたいことがある」


「金額と条件次第だな。どうせオークを殺せとかだろ。それとも、オウルベアか?」


 ビクリと、マーバルの表情が強張った。

 ゴブリンの群れにヒーヒー言ってるヤツらが、もっとずっとデカくて強いらしいオークやらなんやらを殺せるわけない。それなのに大物の姿がないということは、何らかの理由で去ったか、他の防衛地点に回り込んでいるか……


「町の内部に入り込まれたのか」


 強張った顔を見る限り、正解だったようだな。たぶん、かなり切羽詰まってる。


「さっき殺したゴブリンは、一体につき銀貨一枚にしておいてやる。オークやオウルベアは、一体につき金貨五枚だ」


 俺は鼻で笑って吹っ掛けた。


「もちろん、先払いでな」

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