(閑話)つよくてニューアーム
「ミーチャさん、この際ですから携行火器を追加しませんか」
朝食が終わってお茶を楽しんでいると、ヘイゼルが思い付いたように言い出した。
「それって、身に着ける銃のことか?」
「はい。今後は町中で暮らすことになりますし、万が一にでも、わたしと離れた場所とか、実体化解除中とかで戦闘になった時のことを考えると、臨機応変な対応が難しくなります」
「そうだな。ステンとブレンとヴィッカースじゃ、ふだん持ち歩けないしな」
「ウチは“すてん”を持ち歩いてるニャ」
ネコ耳娘はこの無骨なサブマシンガンを気に入っているらしく、出歩くときには弾倉を外したステンガンを背中でたすき掛けにしている。弾倉と弾薬は携行袋のなかに入れているので……まあ、さほどは目立たない。はず。
「もっと携行に向いた、となるとウェブリーとかエンフィールドとか?」
どちらも中折れ式のリボルバーだ。威力はないが扱いやすいと聞く。
シューティングレンジでの射的以外に拳銃を使ったことがないので、実際に使い勝手が良いのか悪いのかはわからない。これまでの戦闘は比較的遠距離での対処、しかも魔物や兵士が相手だったのでなおさらだ。
「わたしは弾薬を含めて個人所有していますが、今後ずっと使うことを考えればステンと弾薬共用できる9ミリルガーがお勧めです」
「イギリス軍で9ミリっていうと……あれか」
「ええ。ブローニングハイパワーです」
十三発装填の自動式拳銃。設計はベルギーのFN社。自動拳銃としての設計はいささか古いが、その性能には定評がある。
というよりも、現代の軍用自動拳銃の原型になった偉大な銃だ。
「俺も好きな銃だけど、撃ったことはないな。いくらくらい?」
「エルミちゃんのステンガンは、そろそろ銃身寿命ですし、装弾不良も出始めています。それを更新するのも含めて、程度の良いステンガン一挺、ブローニングHP一挺と予備弾倉一本、ショルダーホルスターと9ミリ弾二百発付きで約二十一万円」
「良いかもな。それじゃ、頼む」
ヘイゼルはエルミのステンガンを新しいものと交換して革帯を移し替え、弾薬もひと箱渡しておく。
今度のステンガン、見るからに状態が良いな。ボルトを操作したエルミが、動作音もキレイだと喜んでいる。
最初のが酷過ぎただけかもしれんけど、あれは弾薬付きで五千円の処分品だもんな。
俺にはホルスターを渡して、楽な着け方を教えてくれた。ブローニング・ハイパワー、やっぱカッコええのう……状態もけっこう良くてキレイ。買って良かった。
「自動拳銃の基本操作はわかりますか?」
「うん。この銃で特に気を付けることはある?」
「引き金を引くだけでは撃鉄が起きないシングルアクションですので、携行するときは薬室を空にしておいた方が安全だと思います。臨戦態勢のときは、発射可能状態で安全装置掛けるも可能ですが」
「なるほど」
「弾倉が入っていないと撃てないマガジンセイフティ機能は外してあります。トリガーの感触が悪いとか重くなるとかで」
「わかった。ありがとう」
薬室を空にした状態でホルスターに収める。銃は左脇で、予備弾倉は右脇だ。
「ミーチャ、カッコいいのニャ」
なんだろう、この感じ。銃を身に着けると、ちょっとドヤ顔になっちゃうとこあるよね。
良い歳こいたオッサンがなにしてんだと気恥ずかしい。
「ミーチャ、顔赤いのニャ」
「エルミちゃんが褒めたから、照れちゃったんですよ?」
「いや、違う。ちょっと別のことで恥ずかしくなっただけだ」
中二病的な意味では無垢なガールズに俺の説明はピンとこなかったようで、揃って首を傾げられた。




