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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
ダンジョンズ&ハンマーズ

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帰り道

「それじゃ、サーベイさんメナフさん、また来ますね」


「こちらからも立ち寄らせてもらうヨ」


「ミーチャさん、ありがとうございました」


 午後に入って陽が傾き始めているので、挨拶もそこそこに急いで車に乗り込む。帰りはまたエルミとヘイゼルとティカ隊長だけだ。特に危険な魔物もいなさそうなので、屋根の銃座は閉じて女性陣には後部座席に座ってもらっている。


「ミーチャもエルミもヘイゼルも、あたしの都合に付き合わせて悪かったな」


「ウチは楽しかったニャ」


「ああ、俺もだ。サーベイさんとこだけでも、ぜんぶは見切れなったな。今度また来るときは市場も見てみたい」


「わたしも興味があります。広場の屋台から串焼きと焼き菓子みたいな香りがしてましたね」


「してたニャ。あの匂い、木の実を糖蜜に絡めたのかニャ? すごく美味しそうだったのニャ……」


「ニューヨークの大通り屋台(ストリートベンダー)みたいでしたねー」


 いやヘイゼル、それはさすがに通じないと思うぞ?

 とはいえ、こちらの世界でも女性は甘いものに目がないようだ。甘味に関してはブリテンの圧勝とサーベイさんは言ってたけど。それはそれだ。出来立ての焼き立てを屋台で買うのが良いのだろう。

 何の肉か知らんが串焼きは俺も食ってみたい。


「ミーチャ、日暮れまでに戻れるか?」


「どうかな。少し急げば大丈夫だと思うけど。隊長の帰りが遅いと衛兵隊が心配するか?」


「いや。出がけに、遅くなるかもしれんとは伝えてある。単独行動はいつものことだしな」


 一応仮にも防衛組織の長――そして町長代理で政務財務商務土木関連も一手に背負い込んでるっぽい重要人物――が独断先行の常習ってのは、どうなの。


「夜道の移動は危ないだろう……と、思っただけなんだが」


「大丈夫だよ、ほら」


 山陰に入った薄暗がりでライトを点けると、苦労人のドワーフ娘は溜め息混じりで笑った。


「そっか。“もーりす”は魔道具みたいなもんだからな。灯りくらいは当たり前に備わってんのか」


「灯りがあっても夜道が危ないのは事実だからな。できるだけ陽のあるうちに戻ろう」


 往路(いき)の様子はなんとなく覚えているし、危険な箇所はヘイゼルが詳しく注意してくれる。おかげで復路(かえり)のペースは速く、夕陽が山に隠れ始める頃にはゲミュートリッヒの町が見えるようになってきた。

 夜には閉める町の正門をくぐって、衛兵詰め所前で車を止める。


「おかげで助かった。掛かったカネは衛兵隊に請求してくれ」


「要らんよ。半分以上は俺の趣味だし」


「そうもいかん。アンタらの手間賃もそうだが、こいつは走るのに“がそりん”とかいう油を焚くんだろう?」


「まあ、そうだな」


「少ないけど、これを受け取ってくれ」


 財布と思われる革袋から銀貨を七、八枚ほど俺に手渡してきた。気遣いはありがたいが、公務なのに衛兵隊長が個人的な支出というのも少し引っ掛かるところはある。


「今回は、ありがたくいただいとくよ」


 こういうのは、受け取らないのも角が立つだろう。そのうち別の形で個人的に返そう。


「なあティカ隊長、ちょっと気になってることがあるんだけどな。この町の予算って、何から得てるんだ?」


「租税か。住人は十四歳以上ひとりごと、商用は店舗ごと、農業は面積ごとの毎月定額だ」


「定額って……売り上げにかかわらず?」


「ああ。アイルヘルンでは一般に売り上げの一割だったはずだが、徴税官どころか文官がいないんでな。細かい対応は無理なので合議で決めた。今後もし対応しきれない状況が生まれたら、都度対応だな」


 財務担当やら政務担当がいないのではなく、文官がいないのか。何から何までティカ隊長ひとりで引き受けてる状況を見てたら、そんなことじゃないかとは思ったけど。

 ちなみに一店舗の税負担は月に銀貨十枚。人頭税も同額だったし、たしか家賃もそのくらいだったな。

 偶然とは思えない。というか、大した理由なく“このくらいかな?”で決めた感じ。

 ちなみにゲミュートリッヒには私有地がなく、個人所有された家や店舗はない。初期の開拓開発に投資した分を回収するまで公有という体裁になっているようだ。


「それで、いまのゲミュートリッヒの財政は、どうなの?」


「蓄えてあった分が増えも減りもしない辺りでどうにかなってる。町の財政で儲けたいわけでもないしな。いま組んでる外堀や外壁のように大規模な支出があるときには話し合いで追加の徴収も考えるし、有志の寄付もある」


 それ、いわゆる財政じゃないわ。持ち寄りとどんぶり勘定。ちょっと大規模な同棲だね。

 お金の面で言うとこの町、かなり問題ある。けど、どうにかなってきたから現状維持で進むという危なっかしい状態だ。悪意ある人間や怠惰な公共サービスただ乗り(フリーライダー)みたいのが入ってきたら崩れるのも早そう。

 そんなこと、絶対にさせないけどな。俺のスローライフを、それを支えるゲミュートリッヒを、壊そうとする奴は誰だろうと容赦しない。


「なあ、ティカ隊長。困ったことあったら、できるだけのことはする。手を貸せることがあったら言ってよ」


 予想してなかった事態なのか、我らが衛兵隊長はキョトンとした顔になる。


「わたしも、お手伝いさせていただきます」


「ウチも、なんでもするニャ♪」


「……あ、……ああ、よろしく、頼む」


 いつもシャキシャキした活発な万能ガールが、珍しく動揺したみたいだ。わずかに声が揺れて、語尾が掠れた。

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