城郭都市
ゲミュートリッヒの面積調整のため文言修正
「このまま真っ直ぐだヨ」
サーベイさんの指示で、俺たちは正面にある門へと向かう。サーエルバンには南と北西、北東に大門があるのだそうな。俺たちはゲミュートリッヒから来たから、正面に見えるのが南門だ。
「ティカ殿の向かう冒険者ギルドは南門近くだから、ちょうど良かったヨ」
まだ午後も早い時間で多くの馬車が並んでいたが、近付いてくる巨大な牽引トラックの威容に衛兵から警戒の視線が集まる。明らかに、敵襲を疑ってる感じだ。
「おう、タマナ! サーベイの旦那とゲミュートリッヒのティカ、それと旦那の客人たちだ!」
「すまんが急ぎの公用でな、通してくれ!」
騎馬の人狼護衛マイファさんとダエルさんが、モーリスの前に立って門前の衛兵に手を振る。サーベイさんの護衛だけあって顔見知りなんだろう、衛兵たちはすぐに手槍を下ろした。
「おお、サーベイ殿。スゴいものに乗って戻られましたね。なんです、これ」
「こちらのお客人の魔道具だヨ。そっちの王国馬も、この方の尽力で都合つけてもらったヨ」
サーベイさんが窓から顔を出すだけでほぼ顔パス、ちょっと話しただけで並ぶことなく通された。
「ミーチャ殿、冒険者ギルドでティカ殿とダンジョンの話を伝えてきますので、少しだけ待ってもらえますかナ?」
「はい。俺たちは適当に時間を潰しますが」
「いえ、でしたら是非とも我が商館にお立ち寄りいただきたいのですヨ」
「旦那、だったら俺たちが先に送ってくよ」
後部座席のセバルさんが言うと、サーベイさんは頼むヨと頷いてティカ隊長と降りていった。
「そんじゃ、ミーチャ。そのまま、真っ直ぐ頼む」
「お、おう」
勝手に話が進んでしまった。まあ、いいか。市場調査という名の観光目的だったからな。
冒険者ギルドは、エルミの前情報通りに建物も雰囲気もエーデルバーデンのと代わり映えしない場末の酒場感だったし。
「セバルさん、この町って広さはどのくらい?」
「ゲミュートリッヒが、十は入るかな。縦横とも四百メートルを切るくらいで、形は防衛用にこう……ちょっと丸に近い」
正確には、鈍角の多角形のようだ。建設されたのは数百年前で、アイルヘルンでもトップクラスに歴史の長い町だという。
南門側には冒険者ギルドがあったが、北西門側には商業ギルド、北東門側には職人ギルドがある。
石造りの高い城壁に守られた町の外周近くには公的機関の建物や領主館、管理防衛施設、馬車の停留施設や保管倉庫などが並んでいて、中心に近い辺りが居住区と商業区だ。
町の中央広場には観光用の噴水があり、自由市が開かれているのだそうな。
「なんだよそれ、楽しそうな町だな」
「そうですね。どこかパルマノヴァに似ています」
車窓から町を眺めていたヘイゼルが、嬉しそうに話す。
「それは、イギリスの町?」
「いえ、イタリアの有名な“城郭都市”です。日本の“ゴリョーカク”のような“星形要塞”として知られています」
知られてる……のかもしれんが、俺の知識にはない。十六世紀末に作られた、ユネスコの世界遺産的な町らしい。ここは、その町に似てるのね。サーエルバンは星形ではないようだけど。
「建設当時には当時銃砲火器からの防衛が必要なかったのでしょう。星形は重砲に対する備えですから」
「ああ、そこは知ってる」
星の角に砲を置いて相互支援の死角をなくし、敵射程距離外から攻撃を加える設計とかなんだとか……うん、“知ってる”とか言って完全にうろ覚えだ。
町の中心に近付くと、ひとが増えてきた。注目されるのも警戒されるのも怯えられるのも疲れるっちゃ疲れるが、車を知らないひとたちの飛び出しが怖い。
馬車には慣れてるのかもしれんけど、子供とかドワーフは目を輝かせて車に近付いてくるのだ。危ないっつうの。
「そろそろ降りて歩こうか」
「はいニャー」
人狼護衛のマイファさんダエルさんは馬に乗ったままだ。俺たちが車を降りヘイゼルが車輌を収納していると、不思議そうに見る。
「ミーチャ、“もーりす”がどうかしたのか?」
「いや、ひとを轢きそうなんで。馬は避けてくれるのに、車の前ではけっこう立ち止まっちゃうし」
「そうね。わたしも気持ちはわかるわ」
そう言ってマイファさんは笑う。ティカ隊長も最初そんな感じだったっけな。
「まあ、いいさ。旦那の商館はそこだ」
セバルさんの指差す方を振り向くと、そこにあったのは貴族のお屋敷かと思うほど巨大で豪華な建物だった。




