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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
ダンジョンズ&ハンマーズ

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道行山行

「すまん」


「いや、サーエルバン行きは俺の個人的な興味だ。できれば少しくらいアイルヘルンの市場状況も見たいしな」


 ゲミュートリッヒは暮らしやすくて良い町だけど、市場が内需だけで閉じているためこの世界の商売を知るにはあまり得るものがない。

 アイルヘルンがどこもあんな、みんながみんな優しくて美味いもんばっか出回ってるとは思えんのだ。エーデルバーデンもカスばっかで極端過ぎたしな。


「だいたいティカ隊長、なんでもかんでも背負い込みすぎだろ。少しは他に預けること覚えないと潰れちゃうぞ?」


「そ……それは、大丈夫だ。あたしは若いし体力もある。切り盛りできるうちは……」


「いまは良いかもな。でも、それじゃ下が育たない。周りも成長しない。いつかティカ隊長が引退するか倒れるかしたら町全部がダメになる」


 偉そうに言うけど、俺がブラック企業でやらかした失敗だ。

 よくある話だ。“自分がやった方が早いし楽”というのが自殺行為の第一歩だったわけだな。


「ミーチャって、ときどき爺さんみたいな顔するよな。何歳なんだ?」


「三十二」


「「「うぇッ⁉」」」


 なんだよ。ティカ隊長とエルミはともかく、なぜヘイゼルまで驚く。


「あたしと、同じくらいだと思ってたが」


「二十くらいニャ?」


「ああ。あたしは十九だけどな!」


「ウチは十七なのニャ」


 ぐぬぬ、みたいな顔してるけど、みんな若いのな。ヘイゼルは、あれだろ。電子の妖精的なものだから、年齢不詳なんだろうな。


「わたしは、十七歳です」


「うわ、厚かましい!」


 思わずツッコんでしまったが、そんなわけねえだろ。エーデルバーデンの開拓から見守ってたって、そこだけ見ても半世紀以上前じゃん。


「クライアントがリセットされたら、そこでチャラです」


「そこでドヤ顔すんな。意味わかんねえし」


「受肉した日を降臨の初日とするならば、生後七日ほどですが」


 それはそれで、どうなんだ。何日経ったか覚えてないけど、多少サバ読んでる気もするし。

 ティカ隊長とエルミはキョトンとした顔で俺たちを見ている。


「ええと……そうだな。ヘイゼルは、なんというか……」


「天使みたいなものニャ」


「なるほど」


 なるほどて。そんなガバガバな説明で納得すんなよ。素直なのか興味ないのか他人の出自に干渉しないのがマナーなのか知らんけど。

 とはいえ、その気遣い(と思われる不干渉)のおかげで、こちらはずいぶんと助かってはいるんだよな。


「言われてみれば、天使というのが最も腑に落ちる説明かもしれん」


「え? こんなのが?」


「ミーチャさん、さりげなく失礼ですよ? わたしは、天使的な存在です。……あいにく英国製ですが」


 お前もそこで、さりげなく英国ディスんなや。ティカ隊長が首傾げてじゃん。


「ミーチャからは魔力をまったく感じない。ヘイゼルからは恐ろしいほどに圧縮された魔力を感じる。最初のうちは正体がわからず、警戒するべきか迷ったんだがな……」


「ああ、最初に会ったときか。それで、どうしたんだ?」


「どうもしない。そのまま様子見して、いまに至る」


 屈託ない笑顔で言われてもリアクションに困るな。俺たちは、当人だし。


「ここまで知り合ったら、どうでもよくなった。あんな美味いものを作れる者ならば天使だろうと悪魔だろうと構わん」


 いや、そこは構えよ。町の治安責任者だろ。

 俺がツッコミを入れると、ティカ隊長は鼻で笑った。


「どうせゲミュートリッヒは移民・流民・遊民どもの吹き溜まりだ。選別の基準は、ひとつだけでいい」


「……ああ、そうか」


 最初に、町の入り口でティカ隊長に言われたっけ。“良い奴だったら認めてやるし、悪さをしたら、ぶっ飛ばす”って。

 あれで、なんだかすごく気が楽になった。ここじゃ、まともな扱いをしてくれるんだって。


◇ ◇


「その先、路肩が崩れてるニャ」


「内側に寄れば大丈夫だろ。エルミ、右側見ててくれるか?」


「はいニャー」


 最大四頭立て馬車が行き来するルートだと聞いて不安はなかったけど、路面の荒れはところどころにあった。

 通れないほどでもなく、減速程度で通過できるので大事には至らず。盗賊・山賊・野党の類も見かけず。獣や魔物もいまのところ現れるのは小さなものだけだ。モーリスの巨体とエンジン音では、近付くと一目散に逃げていってしまう。俺の視力では、逃げてったのが何なのかも視認できていない。


「いまのは?」


「藪猪の親子みたいですね」


「ああ、あれ美味いんだよな。脂肪に甘みがあって」


「またマッサエーナさんのところで獲ってきてもらうのニャ」


 わいわい話しながら、俺たちは淡々と移動を続ける。モーリスは見晴らしのいい平坦な道で時速五十キロほど、入り組んだところでは三、四十キロほど出すことができた。

 最高速度は約八十キロ(五十マイル)らしいが、山道では五十が限界だろう。

 山が深くなってくると、標高が上がっているせいか気温が落ちてきた。窓を閉めて、ヘイゼルにも銃座から降りてもらう。


「左手の斜面に大山羊の群れがいます。あんなに大きな群れが維持できるとしたら、この山は安全で豊かなんでしょうね」


「安全といえば安全だけど、豊かかどうかは微妙だな」


「あの山羊、大型の肉食獣がいないから、あんなにのんびりしてるんじゃないのか?」


「ああ。この山脈は、大型肉食種が定住するにはエサが少ないんだ。特に上の方は、秋から春までかなり寒い。自然の恵みを得られるのは、初夏から秋の初めまでだ。あの山羊や他の草食種も群れは山脈をまたいで移動し続ける」


 なるほど。ひとが住むには割に合わない、みたいな説明を聞いた気がする。


「世捨て人のような暮らしが望みなら、ミーチャが住んでみたらどうだ?」


「いや、そういう趣味はないわ」


 インターネットとPCでもあるならともかく、山小屋にポツーンみたいのは無理、絶対アタマおかしくなる。シャイニング的に。

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― 新着の感想 ―
[一言] 盗賊・山賊に並び称される野党とは、 果たして何処の国会議事堂に棲息しとるんやろ
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