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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
ダンジョンズ&ハンマーズ

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トラブルインポーンド

 外堀で作業中のコーエルさんに声を掛けて、湖に向かうと告げる。灌木混じりの牧草地みたいな平地を数キロ。歩くのも面倒なので、砲兵用牽引トラックのモーリスC8を出す。


「誰かが襲われてるってことは?」


「ゲミュートリッヒの住人で可能性があるとしたら、昨日お会いしたキルケさんですね。魚の調達もお肉屋さんだと言ってましたから」


「急ごう」


 アクセルを踏み込んで、鳥が舞っている方に走る。ガタガタした草地を走ること十五分ほどで、遠くに湖面が見えて来た。湖の周囲にはまばらな森が広がっている。

 ときおり急降下してゆく個体があった。明らかに何か獲物を見付けているのだ。嫌な予感がする。


「ヘイゼル、ブレンガンを頼む。エルミはステンで援護の用意」


「はいニャ!」


 俺もヘイゼルから予備のステン短機関銃(サブマシンガン)と弾倉を受け取って対応に備える。

 車を湖畔まで乗り入れると、湖面を見渡せる位置に停車させた。俺たちが直接の対処に周り、ヘイゼルには銃座に着いてもらう。


「エルミ」


「あっちニャ!」


 右手を指差したネコ耳娘は、すごい速度で走り始めた。魔力がなく身体強化もできない運動不足の中年には追いつくどころか見失わないようにするだけでもひと苦労である。


「ミーチャ!」


 わかった、ちょっと待てと声にならない声で応えながら必死で足を動かす。

 エルミが足を止めた先、水辺には小さな桟橋があって、手漕ぎボートみたいのが係留されていた。その陰に何か獲物がいるようで、レイジヴァルチャとかいう巨大な鳥が何度も急降下しながら攻撃を仕掛けている。


「シャーッ! シャーッ!」


「ギャアアアァ……ッ!」


 いかにもネコっぽい威嚇音を出しながら、エルミがステンガンを乱射する。銃弾を喰らって鳥も金切り声を上げるが、ハンググライダーくらいの巨体なのであまりダメージを受けた様子はない。

 青白い光が明滅しているところからして、魔力によるプロテクトが掛かっているのかもしれない。


「ヘイゼル!」


 身振りと大声で指示すると、モーリスの屋根から射撃が開始される。

 こちらが射界に入らないように気を使っているらしく、ヘイゼルは水打ち際に舞い降りてくる個体を避けて上空を旋回するものだけを射落としていった。

 さすがに拳銃弾の五、六倍の威力を持った小銃弾だけあって、ブレンガンの弾頭は魔力防御を物ともせず巨鳥の身体を貫通する。水面に叩き付けられたレイジヴァルチャはピクリとも動かなくなった。

 四羽ほど殺されたところで魔物も不利を悟ったようだ。カタカタと嘴を打ち鳴らして警戒音らしい音を発しながら、群れは次第に距離を取って湖面の反対側に逃げ始めた。


「エルミ、誰かいるのか」


「キルケさんニャ」


 ボートの陰になった水のなかから、ずぶ濡れになったネコ獣人の男性が這い出てくる。俺とエルミを見てホッとした顔になった彼は、ブルブルと身体を振って水を飛ばした。


「見たとこ大きな怪我はないニャ。念のために治癒魔法を掛けとくニャ」


「ありがとう、助かった……」


 巨大な鳥は死ぬと水面にベロンと広がって、海に捨てられたビニール袋みたいに見える。


「なあエルミ、あの鳥って食えるの?」


「どこでどんなもの食べてきたかわからないし、羽根とかもけっこう汚いのニャ。病気になるかもしれないから食べちゃダメっていわれてるニャ」


 さいですか。地産地消を進める方針だったから尋ねてはみたものの、食えなくて残念と思えるほど美味そうな外見ではない。


「しっかし、ビックリしたよ。なんなんだ、あいつら急に」


 ふだんのレイジヴァルチャはどちらかといえば臆病で、小動物以外の生き物を襲わない。前にエルミから聞いた通り、主な餌は死んだ獣や魚だそうな。


「なにか餌になりそうなものでも持ってたとか?」


「いや、まだ漁に入る前だ。銀鱒でも獲ろうかと船のとこまで来たら、いきなり群れで襲って来た」


 それを聞いて、エルミが首を傾げる。


「性格が変わるのって、繁殖期とかくらいニャ」


「わかるけど、それは秋口だよな?」


 野山が実りを迎えて、出産前の生き物が栄養源を確保しやすくなる時期。大型の魔物や獣、特に妊娠中や子連れの雌は気が立って、なんでも襲うようになるから気を付けろと聞かされているそうだ。

 こちらの世界に来て間もない俺に季節感はないが、いまは初夏に当たる。繁殖期がズレるという話は、エルミもキルケも聞いたことがない。


「どうする? 町に戻るなら、乗せてくけど」


「そうだな。理由がわかんない以上、ここで漁をすんのは止めといた方が良さそうだ」


 モーリスに戻って、ヘイゼルに状況を伝える。

 彼女も手持ちの情報を思い出そうとしていたが、繁殖期以外で生き物が急に凶暴化するという話は聞いたことがない。凶暴な奴は年がら年中凶暴だし、臆病な奴は大概ずっと臆病なのだ。


「……あ、いいえ。そういう事例はあります」


「え? ヘイゼル、何を思い出した」


「思い出したんじゃないです。当たっていたとしたら、拙いですね。すぐ町に戻りましょう」


 キルケを後部座席に座らせ、俺たちは町に向かって走り出す。濡れたせいか恐怖かでプルプルしてる彼に、思案顔のヘイゼルが尋ねた。


「キルケさん、湖の周辺でレイジヴァルチャが巣を作るような山はありますか」


「北東の山脈だな。あいつらが巣を掛けるのは、そこの中腹にある崖だ」


 それがどうした、という俺たちの視線に、ヘイゼルはまだ推測でしかないと前置きして答えた。


「そこで、ダンジョンが発生したんじゃないでしょうか」

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