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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
新たな町へ

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矯激な挟撃

 サラセン装甲車を苦労して操作しながら冒険者ギルド近くの門に向かう。周囲に人影はなく、来たとき締め出しを喰らった木の門は、開けるまでもなく砕け散っていた。内側から外に壊されていたから、モーリスの鼻先で突き飛ばしたんだろう。


「ミーチャ、そこ出たら右ニャー」


「了解」


 町外の木柵に沿って南側に百メートルほど走ると、少しずつ視界が開けてきた。

 南側は森からの襲撃に備えてか木々が伐採されているのがわかる。じゃあなんで亜人の暮らす北側はそのままなのかと思わんでもないが、そんなことはどうでもいい。

 南下するための曲がり角は南西側の門の前にある。その手前数十メートルとのところにモーリス二号車が停車し、屋根の銃座から門に向けて射撃しているのが見えた。


「門の陰から攻撃を受けているようですね。いくつか魔導師の反応があります」


 また王国軍の斥候どもか。

 緑のモーリスは、視界内にはいない。一号車が通過後に、二号車が攻撃を受けたか。


「無理されて被害が出るのは避けたい。サラセンで前に出る、ヘイゼルは射撃を頼む」


「了解しました」


 屋根の銃座でヴィッカースのボルトを弾く音が聞こえた。


「エルミちゃん、あれはオクルさんとラクルさんのどっちですか?」


「ラクルなのニャ」


 若手ドワーフのふたりは似たような体格と服装で、顔立ちも愛嬌ある表情も、名前まで似ている。血縁はなく息の合った親友だというが、エルフのハンコ画のようなイケメン同様に俺にはイマイチ見分けがつかない。

 ヘイゼルもまだ識別に少し不安があったようだ。


「ラクルさん! コーエルさんに、この車の遮蔽に入るように伝えてください! 門の敵は、こっちで対処します!」


「わかったー!」


 俺たちはサラセンでモーリスを追い越して、門への距離を詰める。

 まだ俺には敵が見えないうちから、車体に鏃が降り注ぎ、赤熱の攻撃魔法が飛んできた。ヘイゼルのいる銃座には防楯があるものの、守れるのは前方向だけだ。


「ヘイゼル!」


「問題ないです。ミーチャさん、速度と進路そのまま……ッ!」


 サラセンの前部銃座から、ヴィッカース重機関銃の反撃が始まった。

 領主館での攻撃でも感じたけど、いわゆる映画のマシンガン無双みたいなイメージとは少し違う。威力はともかく、音は思ったよりのどかで発射速度もゆったりしてる。同じ戦争映画でも、複葉機の空中戦とかで鳴ってた音だな。


脅威排除(クリア)


 ほんの数秒の掃射で、ヘイゼルがあっさりと告げる。


「ヘイゼルちゃん、凄いのニャ!」


「わたしではなく、車の性能ですよ。敵との距離を詰められるのが装甲車輌の強みですから」


 そう言って、ヘイゼルがラクルに伝達してモーリス二号車を先行させる。門から南に延びる道は両側に高い木や遮蔽物がない。南に向けてわずかな見下ろしになっていることもあって、うねうねと続く道が数キロ先まで見通せる。


「おーい!」


 こちらに向かってきていた一号車が百メートルほど先で停車する。こちらが付いてこないので様子を見に戻ってきた感じか。ヘイゼルに身振りで先へ進むよう伝えてもらう。敵が潜んでいるかもしれないので、あまり車から降りて欲しくない。

 緑のモーリスがターンし終わったところで、運転席のマドフ爺ちゃんが声を掛けてきた。


「おい、大丈夫か⁉︎ 後ろで魔力光が見えたと言うんで戻ってきたんじゃ」


「問題ない、もう済んだ。それより、東に折れる曲がり角は遠いのか?」


「ふたつ先の丘を越えたところじゃ」


 王都までの道で左手に伸びる道はそこしかないし、手前にうずくまった犬のような形の大岩があるので、すぐわかるそうだ。

 どんな岩か知らんけど、丘……けっこう遠いな。ひとつ目の丘でも一キロほど先だ。ふたつ目は俺の視力では見えない。


「それじゃ、そこまではサラセンが前に出る。危険があるとしたら“生き残りの追撃隊(うしろ)”より“北上する討伐部隊(まえ)”だからな」


 少し詰めて停車した二号車のコーエルさんに、ヘイゼルから声を掛けてもらう。


「曲がり角より前に北上してくる敵と当たったら、こちらの車輌が留まって引き付けます。二台はそのまま追い越して、東へ進んでください! すぐ追いつきますから!」


 爺ちゃんは“か弱い孤児院組が搭乗しているのに大丈夫か”という顔を一瞬だけしたが、冷静に考えれば防御力も攻撃力もモーリスの比ではないのが明らかだ。


「心得た。しかしミーチャ、気をつけるんじゃぞ」


「大丈夫だよ。こいつは弓や槍くらいじゃビクともしない」


「わかっとるが、それでもじゃ。丈夫なやつほど死にやすいのでな」


 そんなもんかと受け入れて、装輪装甲車を発進させる。

 下り坂になると、重量のあるサラセンはかなり勢いがつく。土を踏み固めた程度の道でゴツゴツした突き上げはあるものの、元々が不整地を走るように考えられた車輌なのでさほどの問題はない。後部座席に乗ってる孤児院組も平然としている。


「みんな、苦しかったり気分が悪くなったり、手洗いに行きたいときは言ってくれよ!」


「「「はーい」」」


「馬車より、ずいぶん楽です」


 なるほどね。裏庭で見た領主の馬車のような車軸に木の車輪なら、揺れや突き上げなど比較にならないほどひどいだろうしな。

 酔わないようハンドル操作を少なめに、速度も時速三十マイル(四十八キロ)ほどにして南へ向けて走る。


「いくつか怪しいところがあるので、探り撃ちを入れますね」


 前部銃座のヘイゼルは、そういって何度かヴィッカースを短く発射した。そのたびに遠くで悲鳴が上がったり、茂みが揺れて逃げ去る影が見えたりした。


「敵? 魔物?」


「右のは野生動物、たぶんイノシシですね。奥のはゴブリンのようです」


 最初の丘を越えたところで、ふたつ目の丘が見えてきた。犬の形の岩とやらは、死角にあるのか見当たらない。


「ミーチャさん、少し急ぎましょう」


 銃座から運転席の俺に、ヘイゼルが緊張した声を掛けてきた。


「騎兵が向かってきています」

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