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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
新たな町へ

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ランナウェイ&ランナウト

「「「行く!」」」


 商業ギルド会館に戻った俺たちは、みんなからゲミュートリッヒ行きに同行するか意見を聞いた。

 ほぼ即答で全員が脱出に賛成。好きで残っていたわけではなく、他に行き場がなかっただけのようだ。


 こんなところには残して行きたくなかったので、居残り組が出なかったのにホッとした。

 夜には山やらダンジョンから魔物が戻ってくるというし、近日中には王都からの討伐部隊が来る。

 残った者は、まず確実に死ぬ。


 さて、脱出するとなると問題になるのは足だな。裏庭会談はいったん解散して、各自出発の準備を始めてもらう。

 冒険者チームには交代で見張りに立ってもらい、俺たちも移動の用意をする。


「東に百十二キロ(七十マイル)……車なら半日くらいか。ヘイゼル、いまの予算は?」


五万三千ポンド(七百万円強)です。車輌を増やしますか」


「ああ。爺ちゃんたちが運転できるようになってくれたのが幸いだな」


 いつの間にやら俺たちは、総勢四十人近い大所帯になっている。

 牽引トラック(モーリス)装輪装甲車(サラセン)に四十名乗車は無理だろう。屋根にでも乗るならともかく、装甲馬車が必要になるほどの行程だ。あまりやりたくない。舗装道路じゃないから、下手すると落ちるし。


「大型トラックを購入するのが最も安易で簡単ですが、おそらく到着後に用途がないです。これまでの車輌はガソリン(ペトロール)ですから、継続使用するなら新たにディーゼル燃料の供給も必要になります」


ヘイゼルの光る板(D S D)って、売却は?」


「できません。たいがい仕入れ元は死んでますから。肉体的にか精神的にか社会的にかはともかくとして」


 なるほど。となると捨て金を許容するか、到着後にも利用可能な選択をするかだ。

 燃料についても、大した問題じゃないけど微妙に面倒臭くはある。弾薬と同じく、補給品は統一できればそれに越したことはない。ガソリンエンジンの小型トラックで安いの……


「……いや、モーリスC8をもう一台だな」


「それも賢明かもしれません。カテゴリ上は“非装甲”ですが、こちらの(アローヘッド)程度ならなんとか防げるでしょう」


 孤児院組は装甲車(サラセン)に乗ってもらおう。残りは冒険者だから、ある程度の荒事にも対処もできるだろうしな。

 と思って振り向いたところでドワーフの四人に縋り付かれる。


「「「みいちゃあああッ!」」」


「お、おう⁉︎」


 なんだ、どうした爺ちゃんたち。そんな全員が目をキラキラさせて。


「いま、耳に入ったんじゃがの! “もーりす”を、もう一台、手に入れるのか⁉︎」


「ああ、うん。さっき乗ってきたサラセンを入れると三台になるから、できれば運転を……」


「わしが」


「では、もう一台は俺が」


「「俺たちは“ぶれん”!」」


 早いな。マドフ爺ちゃんとコーエルさんが年功序列でドライバーの座をゲット。屋根の銃座には若手ドワーフのふたり、オクルとラクルが着いてくれるようだ。

 こちらとしては助かるけれども。ドワーフたちのあまりの喜びように、見ていたヘイゼルとエルミが首を傾げている。

 どんだけ楽しみなのか、爺ちゃんたちハンドルとシフトレバーを動かす仕草でニマニマしてるし。子供か。


◇ ◇


「「「「おおおおおぉ……」」」」


「爺ちゃんたち、うるさいニャ」


 裏庭に現れた二台目のモーリスC8を見て、ドワーフの四人はいきなりテンション最高潮である。

 一台目は軍用の濃緑色(オリーブドラブ)だったが、二代目はくすんだベージュ。どこにいた――というか、どこで昇天した――車輌やら、全体にくたびれている。


 嬉々として車輌確認を始めた爺ちゃんたちは少し放っておこう。見張りを交代してきたエルフ冒険者組を裏庭のテーブルに呼んで、領主館から剥がしてきた地図を広げた。道中に関しては、ある程度ドワーフ組から聞いた。

 次に知りたいのは到着後だ。


「ゲミュートリッヒがある国って、政情はどうなのか知ってる?」


「知れば知るほど答えに困るな。良くも悪くも、あそこはメチャクチャだ」


 エルフのひとりが、本当に困った顔で答える。


「アイルヘルンは、王を持たない部族領の集まりでな。なにか問題が起きれば、部族長の合議で動く。あるいは、合議に至らず動かない。たいがいは、後者だ」


 俺は困惑して、ヘイゼルに目をやる。

 この世界のことはもちろん、前いた世界でもあまり政治形態のバリエーションを知らないんだけれども。


共和制(リパブリック)……というには原始的ですね。単なる首長制(チーフダム)の集合、もしくは同盟なのでは」


「……それは、国か?」


「わかりません。そもそも、政治形態(レジーム)があるかどうかも不透明です」


 一体どんなとこなのやら。今度こそ、のんびり異世界ライフを過ごして行きたいんだが、早くも先行き不安である。


 俺たちが話している間にも、孤児院組や冒険者たちがそれぞれ荷物をまとめて車に積み込み、出発の準備が進んでいく。サラセン装甲車も後部ハッチを開けてあるので、子供たちが荷物を入れているようだ。小さい子が毛布や木箱をチョコチョコと運んでいるのが見えた。


「ミーチャ」


 獣人組の斥候スーリャが駆け込んでくる。

 見張りについていた彼女が知らせに来る時点であまり良い知らせではなさそうだ。


「早く出た方がいいにゃ。エーデルバーデンの南に、見かけない連中が入ったみたいにゃ」


「連中? 王都の部隊じゃなく?」


 スーリャによれば、四、五人の冒険者風。だけどギルドには向かわず町中をウロウロしてるという。いわゆるスパイという感じか。


「たぶん先遣隊にゃ。本隊が、思ったより早く向かってきてるにゃ」

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