表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
失くしたものと残されたもの

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/339

硝煙の果て

 銃座から車内に飛び込んできたヘイゼルが慌てて俺の椅子を叩く。


「ミーチャさん、直撃の軌道です! 全速後退!」


 ゴリゴリのシフトレバーをリバースに叩き込み、俺はクラッチを繋ぐと同時にアクセルを床まで踏み込む。

 “魔導爆裂球”とやらが装甲車にダメージを与えられるほどなのかは不明だが、ヘイゼルの緊迫した声から察するに、そこそこ威力は把握しているのだろう。


「これ後ろはほとんど見えねえぞ! 踏んだり轢いたりしたら……」


「こっちが困るようなものはないです!」


 ああ、うん。そうね。それはそうだけどね。

 グーグー唸るような雄叫びを上げてサラセンは揺れながら後退し始める。後ろに何があったかは覚えてない。薄汚れてブレブレのバックミラーには、遠くの木や町並みらしきものしか見えない。


「発射台の投石機(カタパルト)は三基! 三発目が着弾したら反撃します! 正門まで前進してください!」


「わかった、けど……タイミングが」


「着弾、正面! 続いて右と左!」


 目の前で地面が掘り返され、土と草木が巻き上げられる。轟音も上がっているが、いまはそれどころの話ではない。車体前方で初弾が炸裂し、右に次弾が降ってくる。時間差の連投で左にケツを向けさせて、そっちに落とす三段構えのようだ。右に方向修正したところで、車体の左側に爆煙が上がる。

 バチバチと車体を叩く金属片の勢いは装甲を破るほどではないが、発光している妙な効果が榴弾の威力を嵩上げしているように思える。


「いまです、前進!」


「んぎぎぎぃ……ッ!」


 硬いブレーキを踏んでギアを一速に入れ、フラフープみたいなハンドルを無理くり回しながらアクセルを踏み込む。六輪が駆動しているだけにグリップはしっかり感じるのだけれども。如何せん車体が重過ぎてレスポンスは鈍重だ。


敷地内(ふところ)に入れば榴弾は使えません! 擲弾程度なら装甲で止められます!」


 盾持ちと大剣持ちが正面に姿を現す。装備に青白い光がチカチカしているのは、魔法的な効果でも付与されているのか。さっきのなんとか球も、それだな。

 ヘイゼルは銃座に上がって叫ぶ。


「そのまま、突っ込んでください!」


 屋根のヴィッカース重機関銃が盾持ちに集中砲火を浴びせる。しばらく火花が散って耐えているような感じだったけれども、接近とともに着弾が激しくなり盾を貫通され(ぬかれ)たのか崩れ落ちて動かなくなる。横っ飛びで盾の防御範囲から外れた大剣持ちが剣を水平に構えた低い姿勢でこちらに突進してくる。


「おおおおおおおぉッ!」


 ヘイゼルの銃弾を左右に避けながら十数メートルを一瞬で詰め、凄まじい気合とともに斬り掛かってきた。


「ミーチャさん、ハンドルそのまま! 加速してください!」


 避けようとした俺はヘイゼルの声でハンドルを止めた。青白い剣尖がフルスイングの軌道で閃くが、加速でタイミングがズレたのか撥ね飛ばされて転がる。剣は弾かれて吹っ飛んだけれども、男はまだ闘志を捨ててはいない。


 空中で剣をキャッチした男はひとっ飛びでサラセンの鼻先を蹴り、ヘイゼルに向かって斬り上げの一閃を喰らわす。


「ヘイゼル!」


 ヴィッカースの連射をまともに喰らった男の身体が、ボンネットに転がって血飛沫を撒き散らす。まだ剣を握ってはいるけれども、その頭は原形を留めていない。地面の凸凹(バンプ)で跳ねた車体に弾き上げられ、人形のような肉体は車体の下に転がり込む。


「げ」


 硬いものを潰したような感触がハンドルとシートに伝わってきた。十トン以上はあるはずの装輪装甲車に轢かれた人体がどうなるかなど見るまでもない。仮に魔法の守りがあったにしても、頭を吹き飛ばされていては結果など同じだろう。


「そのまま、正門からなかへ!」


 鉄の扉は開いたままだ。鼻先で隙間をこじ開けて、俺はサラセンを敷地内に進入させる。


「魔導師、弓持ち、双剣使い、盾持ちに大剣持ちで冒険者五名は制圧、残るは衛兵ですが……」


 敷地内に見える敵はいない。建物に篭ったか。三基並んでる傾いたシーソーみたいのがカタパルトなんだろうけど、そこも弾頭やら何やら放り出されたままだ。


「掃討します。少し前へ」


 ヘイゼルが正面の扉を、あっさりとヴィッカースで打ち砕く。


「おい、ここ使うんじゃなかったのか」


「金目のものだけ回収して、みんなで逃げましょう。どのみちエーデルバーデンは陥落し(おち)ます。救う意味があると思われるのでしたら、籠城戦も可能ですが」


 なんか話が変わってるな。目的地も目的もない俺には、別にどうでもいい話だけれども。


「自分の知ってるエーデルバーデンは、ここじゃないって言ったな」


「はい」


「当然、場所を間違ってたって意味じゃないよな?」


「はい、もちろん。自分たちが作り上げた町を、見間違えたりはしません。間違っていたのは、あの頃の住民たちの子孫が暮らしていると思っていたことです」


 衛兵たちが窓辺に隠れながら矢を放っては、ヘイゼルの銃弾に倒される。その数が七つを数えた頃、彼女はふわりとスカートを翻してボンネットに立った。


「終わりのようです。ミーチャさん、お手数ですが少しお付き合いいただけますか」


 ツインテールの銀髪メイドは、おどけた顔で悲しそうに笑う。


「夢想家のドイツ人が遺した夢の欠片を、回収させてください」

【作者からのお願い】

「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。


参考画像:ヴィッカース機関銃

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ