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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
フラップド・ハート

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フィアフル・フェロン

 エルミを抱え込んだ姿勢のまま、マチルダの身体は剣で貫かれた。崩れ落ちながら黒い影となって広がり、そのまま霧散する。


「……ッ‼」


 息を呑んで身構えた敵兵は視線を上げた瞬間、その頭を射抜かれて倒れ込んだ。


「ぐ、ぅッ……」


 その遥か頭上にある梢で、マチルダは抱えていたエルミの首元に顔をうずめてうめく。


「マチルダちゃん⁉」

「……大丈夫ダ、問題なイ」


 純粋魔力による幻影だが、偽装のために同調精度を上げ過ぎたせいでハラワタを(エグ)られた感触がわずかに伝わってくる。その前に手槍で薙ぎ払われた不快感も残っていてギリギリと神経を削られるが、死にはしない。


「生き残りハ……」

()()だけニャ」


 エルミの指した方角に、小柄な人影が動いていた。そのまま撃とうとしたエルミが怪訝そうに首を傾げる。


「やった! やってやった! みんな! ころされた!」


 泥の中でもがくようにジタバタしているのは、最初に感知した斥候らしき相手だった。そのとき悪意的と感じられていた魔力反応が、揺れながら不安定な歓喜へと変わってゆく。


「ざまあみろ! おもいしったか!」


 姿も声も子供のようだったが、稲光に照らし出された顔に幼さはまるでない。雨風に揺れる森のなかで目を見開き、歪んだ泣き笑いの表情を浮かべていた。


「あイつは、何者ダ?」

「わかんないけど、ウチらの味方じゃないのは確かなのニャ」


 喚いていた言葉を聞く限り、おそらく()()()なのだろう。それは漠然と理解したが、殺すべきかは少しだけ迷う。警戒しながら周囲の魔力反応を探るが、他に接近する者も隠れている者もいない。エルミを抱えたまま、マチルダが翼を広げてふわりと樹上から降りた。


「武器は持ってなイようダが……」

「油断しちゃダメなのニャ」


 そう言いながらも、エルミはステンガン(短機関銃)を構えたままため息を吐いた。敵でも子供を好きこのんで撃ちたくはない。武器を持っていないとなれば、なおさらだ。

 有翼族でない者がこの場にいるなら、野盗と無関係ということはあり得ない。その上で丸腰なのだとしたら――年齢的にか体力的にか信用の問題でかは不明ながら――()()()()()()()()だけだという気がした。

 戦力外と判断された、“野盗のなかの異物”。敵の敵であろうと、その敵であろうと。いずれにしろ、敵だ。


「「……」」


 いっそ抵抗してくれていれば殺しやすいのに。あるいは、さっさと逃げればいいのに。ふたりは無言のまま賊の子供と睨み合う。


「だいじょぶ?」


 有翼族の家から顔を出したクリルが、エルミたちに声を掛けてくる。


()()()()、なんともないニャ。危ないから、家に入ってるニャ」


 エルミとマチルダが対峙している相手を見て、クリルが微妙な顔をした。


「……イークル」

「知り合イか?」

「となりむらの、こども」


 それを聞いて一般人かと思ったが、その“となりむら”は半農・半野盗で暮らすような連中だという。最初に襲ってきた野盗たちのひとりであることには間違いないようだ。

 イークルと呼ばれた子供は丸腰で、近づくエルミたちの前にひざまずいて降伏の意思を示した。目の前に転がっているのは、松明の先端に魔珠を縛り付けたような安っぽい魔道具。


「こレは?」

「合図を送る魔道具なのニャ」

「ぴかぴか、ひかる。さんかい、ひからせたたら、あいつらがくる」


 魔増具による光魔法の合図を送れば、元兵士の男たちが有翼族の村に踏み込んでくる手はずになっていたという。だが合図がなければ、村に入った野盗が逆襲を受けたということになる。兵士たちは警戒して逃げるか、皆殺しに掛かるか、あるいは他の村に狙いを変える。

 イークルは兵士たちを無防備のまま呼びみ、結果的に全滅させたことになる。


「お前は、アいつラの同類ダろう。なぜ、ワタシたちに殺させタ?」

「あいつら、むらのおとな、ころしたから」


 それを聞いたクリルが、怒りの表情で詰め寄りイークルを怒鳴りつける。


「おまえたちは、うちのむらの、みんな、ころした!」

「そっ、それは、へいたいに、むりやり……」

「ちがう!」


 クリルは、野盗の連中が有翼族の大人たちを殺し回った姿を見ている。男たちを次々に矢で射り、嬉しそうに女子供を捕まえる姿を。他人に無理やり強制されて、なんていう言い訳は許さない。


「殺すノに手を貸すナら、殺さレる覚悟もあルはずダな?」


 マチルダが睨みつけるが、イークルは震えながらも満足げな顔で笑う。


「……もう、かたきは、うった」


 だから殺されてもいいという身勝手な物言いに、クリルが怒りの声を上げる。だがマチルダが突きつけた指先に電撃を煌めかせると、クリルは息を呑んだ。


「……ねえ、ころすの?」

「自分でやりタければ、構わンぞ」


 マチルダが差し出した黒い短剣を、クリルは思わず(あしゆび)で受け取ってしまう。そのまま突き付けるとイークルは目に見えて怯え始め、逃げるべきか命乞いをするべきか目を泳がせる。


「……いい」


 しばらく迷った後で、クリルは息を吐いて短剣をマチルダに返した。


「こいつ、じぶんのちからじゃ、なにもできない、よわむし」


 イークルに背を向けた後で、マチルダにしか聞こえない声でつぶやく。


「……あたしと、おなじ」

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