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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
フラップド・ハート

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闇の奥

「さっき、危険はないと……」


 フォルガーは副官の言葉を聞き流して左手を上げ、前方に倒した。指示を受けた部下たちは静かに展開しながら前進を始める。

 上空で稲光が瞬き、見張りの死体を照らし出す。青黒くくすんだ肌と強張り固まった四肢。殺されてから半刻以上は経っている。


「こいつじゃねえ」


 光魔法による合図を出したのは、別の何者かだ。その目的が自分たちを誘い込むためなのは明白だった。


「クソが」


 先行していた手槍持ちの部下が、腕を水平に振ったのを見てフォルガーは小さく罵る。友軍の死傷者を発見したという合図だ。この場合は野盗どもの骸だろう。

 案の定、転がっていた死体は十数体すべてが野盗のものだけで、有翼族のものはない。

 明るいうちに起きていたという“大騒ぎ”が、なんらかの戦闘だったということだ。


「……まさか。全滅だなんて……」


 副官の言葉に、フォルガーは唇を歪める。野盗連中が思わぬ抵抗で痛い目に遭うことくらいは想定していたが、まさか返り討ちにされるとは考えていなかった。

 なにせ相手は脆弱な有翼族だ。小さく軽く、武器も持てない身体では飛んで逃げるしか能はない。嵐のなかでは吹き飛ばされるので飛行能力も封じられる。一方的な蹂躙で終わるはずだった。


「誰が、こんな」


 こういう小さな穴を穿(うが)たれた死体は、アーエルの戦場で大量に見た。

 “致死の(やじり)”、だったか。アイルヘルンの連中は、無数の(つぶて)を打ち出す魔道具を持っているという話は聞いたことがある。


 フォルガー自身は殺戮のさまを目にしていないが、兵数で何十倍、何百倍という不利な戦況でもひっくり返すような魔道具が存在する。それが“貴族院連合軍”を壊滅させ、ひいては王国をも崩壊させたわけだ。

 幸か不幸か生き残り落ち延びてきた敗残兵が、この期に及んで、そんな連中と当たることになるとはな。


「魔導師、魔力探知! この森にいる者は全て殺せ!」


 剣を抜いて、フォルガーは笑う。勝てるとは思えないが、退くには遅すぎる。敵意も殺意も読まれている上に、やつらの攻撃圏に踏み込んでいる。

 いや、踏み込まされたのか。村に攻め入った野盗を皆殺しにするだけでは飽き足らず、後から乗り込んでくる王国軍残党にも狙いを定めたというわけだ。


 殺るか殺られるか。きっとこれが、自分たちにとって最後の戦闘だ。


「ッ!」


 わずかに息を呑んだ気配の後で、手槍持ちの前衛が崩れ落ちる。なんらかの物音が上がったようだが、雷鳴に(かぶ)せたのか聞き取れなかった。


「左前方で光ッ」


 叫び声とともに、前衛のひとりが身体強化の魔力光を閃かせながら突進する。

 その前方で、小さな人影から光が放たれる。“致死の鏃”を打ち出す魔道具だろう。凄まじい勢いで距離を詰める手槍持ちの部下に対して、何度も光が瞬きバチバチと小さな炸裂音が上がる。


「うおおおおおぉッ!」


 あと少しのところまで迫った前衛のひとりが倒れると、その背後に追随していた最後の前衛が雄叫びとともに敵影へと手槍を突き入れ、横薙ぎに払った。


「ぎゃあぁー!」


 いくぶん芝居がかったように聞こえる悲鳴とともに、人影はぶわりと広がって消えた。奇妙な違和感があった。敵を倒したとき特有の感覚もない。逃げられたか。部下たちも同じように感じているのか、警戒を解く者はいない。


「“灼熱の(スコーチング)炎鏃(・ヒート)”!」


 後衛の魔導師が、全周警戒のまま動きのあった箇所に火魔法を放つ。炎上や延焼の機能を削り、高温と貫通だけに絞った王国軍魔導師団の基礎魔法だ。魔力消費が少なく発動が早く、荒天時でも熱や威力の減衰が少ない。

 聖国軍の魔導師ならば“聖なる贄(セイクリッド)”、王国軍の魔導師ならば“灼熱の(スコーチング)炎鏃(・ヒート)”を嫌というほど叩き込まれる。


「“灼熱の(スコーチング)炎鏃(・ヒート)”!」

「“灼熱の(スコーチング)炎鏃(・ヒート)”ッ!」


 火魔法が当たった岩や樹の幹は、指ほどの太さで溶解したような穴が開く。いまのところ敵からの攻撃はないが、敵を仕留めた感触もない。


「そこまでだ」


 魔力を温存するように追撃を中止させ、魔導師たちは後衛位置で遮蔽に入らせる。

 前衛2名を喪ったいま、索敵も周囲の警戒も指揮官であるフォルガーと副官も出るしかない。


 荒れ狂う嵐のなか、木々を揺する音が周囲の気配や物音を掻き消す。暗闇のなかで揺れる葉陰が、こちらに襲い掛かろうと身構える獣や魔物のように感じられる。


「丘の中央にある塚のようなものが、有翼族の地中巣……ぁぐッ」


 副官の頭が傾き、声が途絶える。その身体が崩れ落ちる頃には、フォルガーは既に発光位置を確認していた。距離は十五メートル強(五十尺)、姿勢を低くして遮蔽を縫い、光に向けて突進してゆく。

 視界の隅では少し離れた位置で、手槍を持った部下も同じく突っ込んでゆくのがわかった。もう少しで敵に手が届くのだ。迷いなどない。


 また光。礫が音を立てて耳元を掠める。見えた。獣人らしき小さな子供と、それを後ろから抱える少しだけ年長の子供。女であろうと子供であろうと、戦場に立ち武器を向けたのならば敵だ。手を抜くことなどありえない。気を抜けばこちらが殺されるだけだ。


 パンッ、と弾ける音がして左腕が動かなくなった。知ったことか。剣は右腕だけで振るえる。また光と弾ける音。胸を熱いものが貫いてゆく。問題ない。まだ足は動く。フォルガーは剣先を水平に構え、全身で抱え込むようにして小さな敵影にぶつかっていった。


「うおおおおおおぉおッ!」

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