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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
失くしたものと残されたもの

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遭遇

 なぜかヘイゼルは黒甲冑への攻撃をせず、小さくうーんと唸る。


「ミーチャさん、少々お待ちいただけますか」


 待つも何も、向こうは臨戦態勢なんだが。こちらの攻撃手段を見たせいか、姿勢を低くして全方向に飛び避ける体勢。両手の短剣を後ろ手に構えているが、そこからは青白い光が瞬いている。


「どうするつもりなんだよ。説得でもすんのか?」


 そんな無理に決まってんじゃん! さっき俺の意思確認したよね⁉︎


「気になることがあるので、接触してみようかと」


 ひょいと天井の銃座からボンネットに飛び降りたヘイゼルは俺を振り返って笑う。


「もし、わたしに何かありましたら、ミーチャさんの思うままになさってください」


「ヘイゼル!」


 スタスタと身構える様子もなく近付いてくるメイド服の少女に、黒甲冑は飛び退って周囲に目を向ける。

 そらそうだ。俺だって、あんなの見たら陽動か罠だと思う。

 でも、いまの俺たちはふたりだけだ。装甲車以外の戦力を持っていない。運転席にいる間は攻撃手段もない。


「ああ、くそ……ッ」


 いったんは移動を捨てて、銃座に着くべきか。他の連中に回り込まれると厄介だな。

 しかも、射撃は素人でしかない俺に、ヘイゼルを避けて黒甲冑だけを倒す腕はない。

 ヘイゼルを頼りにしようにも、彼女の持つエンフィールド・リボルバーでは金属甲冑を抜くほどの威力はないのだ。


「あああぁッ!」


 悲鳴のような雄叫びを上げて、黒甲冑がヘイゼルに斬り掛かる。受肉したシステムガールの物資と情報の調達能力は桁外れ(チート)だけれども、身体能力がどのくらいなのかは知らない。

 双剣の刃が届くその瞬間、ふわりと揺らいだヘイゼルはするりと後方に抜ける。


 三、四十メートルほど離れて見ていた俺には、状況が把握できなかった。お辞儀でもするみたいに頭を下げて(かわ)し、懐に入ったように思ったら、後ろに立っていた。

 当の本人もそうだったらしく、黒甲冑は慌てて振り返る。無防備なメイドにあっさりと後方に回り込まれ、明らかに動揺している。


「なぜだ!」


 黒甲冑の、吠える声が聞こえてきた。声は女性、それも案外と若い。


()()()()()()()!」


◇ ◇


「ヘイゼル!」


 ミーチャさんの声を背に受けて、わたしは甲冑姿の相手に歩み寄る。気になることがあると、口では言ったけれど。

 わたしは確信していた。


「あああぁッ!」


 甲高い気合の声とともに、双剣が振り抜かれた。右手で足を薙ぎ払い、左手で首を刎ね上げる。小柄な()()に有効な技術を、かつてふたりで何度も試行錯誤して、繰り返し練習した。

 そのときの思いが、胸に痛い。

 足を引いて腰を落とし頭を下げて淑女の礼(カーツィ)を取ると、左右の斬撃はわたしの上下を勝手に擦り抜けていった。


「皮肉な話ですね、ワーシュカ」


「⁉︎」


「女性であることを拒否し続けたあなたの、人生を賭けて磨き上げた技が……“従属的な(サボーダネント)女性性の象徴(フェマニナティ)”によって無効化されるなんて」


 背後に回ったわたしに、再び双剣が向けられる。今度は警戒しているのか、踏み込んでは来ない。


「お前、なぜ」


「顔が変わったか、ですか。時代が変わり、顧客(クライアント)が変わり、生きる目的が変わったからでしょう」


 甲冑の奥で、鋭い目がわたしを見る。小さく首を振って、“なぜ”の答えを否定する。

 彼女が訊いたのは“なぜ姿が違うか”、ではない。それは、わかっていたけれども。

 答えられるかどうかは、わからない。


「ヘイゼル。なぜだ」


 静かに呟かれた声は悲しげで消え入りそうに細い。そして顔を上げ、ワーシュカは叫ぶ。

 怒りと憤りと悲しみを込めて。わたしを睨みつける。


「なぜ戻ってきた!」

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