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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
玉座なき王たち

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贄と仇

「龍に、復讐の代行を頼むってことか? そんなことができるのか? そういう話が伝わっているってだけではなく?」

「もちろん、事実かどうかは誰にもわからない。だが龍に捧げた誓盃(せいはい)とされる遺物なら、聖国の宝物庫に納められていた」


 それが本物だと証明できるわけもないし、事実だという証拠にはならないだろう。さらに言えば、その宝物庫が聖都にあったんだとしたら、残念ながら、もう存在していないと思います。はい。


「ずいぶんと詳しいな。なんでそんな話を知っているんだ」


 子供の頃から放浪癖がひどかったらしいクエイルは、ごく最近まであちこちで――本人いわく“見聞を広めていた”のだとか。聖国にも行ったってことは、優に千キロ以上を移動してる。乗合馬車などの交通網はないようだから、おそらくは徒歩で。


「なんでまた」

「自分の血の源流を知りたかった。探れば探るほどに茫洋(ぼうよう)とした過去の断片しか集められなくて諦めたが」

「“龍の誓盃”の話もそのひとつか。やっぱり知識が多いと役に立つこともあるもんだな」

「感心している場合ではないぞ、ミーチャ殿。やつらが誓盃を捧げたつもりであれば、自ら龍に喰われるか、それが叶わなければ湖水に身を投げる」


「おい、それを早く言え!」


 俺はパトロールボートの舳先に行って、先行する水龍娘に叫ぶ。


「マルテ! あいつら、まだ岸の上にいるか⁉」

「わからん! この先の尖った大岩を曲がれば、右手に見えてくるはずだ!」

「ミーチャさん、どうしました!」

「四人の女は生贄志願者だ! マルテが喰わないとわかれば投身自殺する!」


 ヘイゼルはうなずいて、ボートをフル加速させる。マルテの言っていた大岩を高速で通過すると、右手に断崖が見えてきた。水面までは十メートルそこそこで高さはそれほどでもないが、下には岩が飛び出していて波が立ち、自殺の名所みたいになってる。


「いるぞ!」


 俺には見えんけど、ヘイゼルが人影の数をカウントしてくれた。()()誰も飛び降りてはいないらしい。


「マルテ! 女が飛び降りそうなら止めてくれ! 落ちてきたらできるだけつかまえて!」

「ムチャいうな! でも、わかった!」


 なんだかんだで優しい水龍娘は身を翻して加速する。ぐんぐんと速度を上げて水面下で白い航跡を引く。それが真っ直ぐ断崖に向かっていく姿は、まるで発射された魚雷のようだ。


「「ああぁッ⁉」」


 クエイルとヘイゼルが小さく声を上げた。俺にはまだ、なんとなくしか見えないが、生贄志願者たちが飛び降りようとしているらしい。

 マズい。水龍が全力で向かってきたのを見て、自分らを喰いに来てくれたんだとか勘違いしたんじゃないのか。当の水龍(マルテ)からするといい迷惑なんだろうけれども。


「飛んだ!」


 クエイルの声で状況を察する。急接近する船からも、断崖から身を投げたのは見えた。下は鋭く白い波が立っているから水面下に岩がある。これは助からない、と思った瞬間すさまじい勢いで水柱が立った。そこから水龍が大きく身をくねらせながら飛び出して……


 がっぷりと女の身体をくわえこんで水中に消えた。


「ちょっとぉ! マルテ⁉」


 大丈夫だよな⁉ まさかホントに喰ってないだろうな。


「マルテちゃん、来ますよ」


 崖下の海面までやってきたボートの舷側に、水龍マルテが浮上してくる。うんざり顔でくわえていた女をペッと甲板に吐き出し、苛立ったように身を翻すと水中で加速した後でもう一度大きく飛び上がった。


「やめんかあぁッ!!」


 怒りに満ちた怒号が轟く。続けて飛ぼうとしていた連中は、それで止めることができたようだ。


◇ ◇


「「「すみませんでしたあああぁ‼」」」


 崖の上に向かった俺たちは、(くだん)の六名から全力の土下座を受けていた。正確に言えば、ひとの姿に変わった水龍様(マルテ)が、だけどな。

 ちなみに本人は服を持ち歩いてはいないので、今回もヘイゼルが用意してくれた。


「命を粗末にしよってからに。水龍(わし)は酒など飲まんし、ひとも喰わん。いきなり樽を投げられたところで、貴様らがなにをしたいのかもわからんわ」

「申し訳ありません。龍に願うにはこうすべしと、我が家に代々伝わっておりまして」


 だから、ワケのわからんその話はどこから生まれたんじゃいとマルテは不満そうに口を尖らす。


「そうまでして水龍(わし)に願いたいこととはなんだ。できることとできないことはあるが、話くらいは聞いてやらんでもない」


「「ありがとうございますッ!」」


 いちいち平伏するな、と鬱陶しそうに手を振るマルテ。ぶっきらぼうな態度ではあるが、言ってることはえらく優しい。

 この集団の代表者なのか、年輩の男がマルテを見て話を始める。


「水龍様に申し上げます。王国の都が攻め入られ、王と王族が揃って身罷(みまか)ったことは御存じでしょうか」

「ああ、()()()()()が城を吹き飛ばした話は風の噂で聞いておる」


 チラッと俺たちの方に目を向けて、またお前らかというような顔をした。

 俺マルテにその話したっけな。俺か他の誰かが言ったんだろうな。別に口止めしてないし、聞かせたくない話でもない。


「その際に、なぜか王家と対抗していた有力貴族も(たお)れまして」


 ああ、こっち見るなマルテ。それも俺たちだよ。王と王城以外は意図したものではないにせよ、王国の政治的中枢をミサイルでみんな吹っ飛ばしてしまったようだ。


「王国の政治(まつりごと)を担うものがおらんのだな?」

「水龍様のおっしゃる通りなのですが、そこに下級貴族の有象無象が沸いてきておりまして。私兵や領軍を率いて村や街から略奪を繰り返しているのです」


 貴族が火事場泥棒か。王国って、もう完全に終わってんな。

 でも、それは俺たちのせいじゃないぞ。遠因ではあるから、わざわざ口にはしないけど。


「そいつらを退治してほしいということか? それは水龍(わし)に願われても無理な話だぞ?」


 それはそうだ。湖で暮らす水龍様(マルテ)にしても、難民の王でしかないクエイルにしても、酒場の主でしかない俺にしてもな。

 そもそも統率を喪った有象無象が散らばっている状況は、ある意味で大軍相手よりも厄介だ。滅びかけた王国内を延々と巡回して、野盗まがいの兵隊たちを潰して回る? そんなモグラ叩きをやる気はないし、そもそも人員的に不可能だ。


「そうではありません。我らの願いは、魔なる力に操られた者を倒すこと」


 ん? なんかいきなり話が思ってたんと違う方向に急ターンしたような気がするんだけれども。身構えた俺をまったくノーマークのまま、男はマルテに目的を告げた。


「王国を蹂躙する“新生貴族議会”の首領、ルコアの討伐です」

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