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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
ウォーター・アンド・ドラゴン

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セパレイタス

 ゲミュートリッヒに到着した避難民たちは、身体を休めた後で新しい“クエイル王朝の都”ができるまでの身の振り方を確認された。

 その結果、半分強の六十四名がサーエルバン行きを希望し、領主代行のサーベイさんが用意した数両の馬車でサーエルバンに送られることになった。


 ちなみに、マカ領主エインケル翁からも引き取りを打診されたのだけれども。避難民に職人はいなかったためマカ行きの希望者はおらず。

 エインケルお爺ちゃんは、理解しつつもちょっとションボリしてしまった。


「またなー!」

新生王都(クエイリア)で会おう!」


 サーエルバン行きの避難民たちが馬車の荷台から、見送りの仲間に手を振る。

 つうか、もう名前決まってんのかいな。しかも王様の名前を冠した街って、古代っぽいすな。彼らの隣にいる王様本人(クエイル)は苦笑いしてるから、当人抜きで決められたみたいだけど。

 クエイルも領主たちと今後を話し合うためサーエルバン組。道中の護衛のため、戦闘職も同行してもらった。ゲミュートリッヒは小村とはいえ過剰戦力なので、戦闘職を残してもらう必要はない。


「なあ隊長、空き家は足りるかな?」


 正門前で見送っていた俺は、ティカ隊長に今後を相談する。


「問題ない。シスターに確認したら、女性と子供は元孤児院組(集会所)で預かってもらえるそうだ」

「そっか。歳が近い子がいた方がいいかもな」


 ゲミュートリッヒに残るのは四十三名。再度の移動を嫌がった女子供と老人が多い。滞在中は畑仕事やら漁やら料理など、自分たちにできる仕事を手伝いながら空き家や宿や集会所で寝泊まりすることになっている。それが長く掛かるかどうかは、俺たちの頑張り次第だ。


「隊長、慰労と親睦を兼ねた宴会でもしようか」

「それもいいかもしれん。できるだけ不安を感じないように、気を使ってやらないとな」

「再移住までどのくらい掛かるかわからんからなあ……」

「上手くいけばそれに越したことはないし、ずっと住みたければ、それでもいいぞ」


 ティカ隊長は鷹揚に笑って、遊んでる子供たちを見た。避難民の子供は元の住人たちと混じって、俺にはもう見分けがつかない。大人たちも、とりあえず飢えず凍えず暮らせるとわかって表情が穏やかになっていた。

 相変わらず、ゲミュートリッヒのひとらは弱者に優しいな。たぶん、根底にあるのは自分たちが辛い思いをしてきた経験なんだろう。それで攻撃的になるやつもいれば、優しくやれる奴もいるんだが。


「そうだ、今日はマルテ湖のほとりにあったっていう、アイルヘルン最初の都……なんだっけ」

「アクアーニアです」

「さんきゅーヘイゼル。再興できないかって言ってた、その跡地を見に行こうと思ってる」


「気を付けてな。行くのは、ヘイゼルとミーチャと……?」

「わたしも」


 食い気味に言ってきたのは、ゲミュートリッヒ残留を希望した避難民のアルマイン。水龍に故郷を滅ぼされたという褐色の美少女だ。

 それは、いいんだが。なんとなく違和感があったのを思い出す。


「ええと……コフィア、だっけ。アルマインの故郷。そこが滅ぼされたのって、どのくらい前?」

「……十五ねん、くらい」


 コフィアというのは、クエイルの説明によれば西の山を越えたずっと先、何百哩も離れた大陸西端の国だそうな。アルマインは、そこから王国まで逃げ延びてきたわけだ。他にこんな褐色のひと見たことないから、たぶん単身で。


「……なあ、すごく失礼な質問なんだけど」

「なんでも、だいじょぶ、です」

「アルマインって、いくつ?」


 しばらく指を折って考えて、俺を見た。


「二十、九?」

「アルマインさんは、エルフ……混血(ハーフ)エルフですか?」

「そう、です」


 だよね。美少女ではあるけど、なんか聞いてたライフヒストリーと時系列が合わん気がしたんだよ。

 エルフって、長寿でいつまでも若いんだろ。エルフの二十九歳が、人間でいうと何歳くらいなのかは知らんが。


「ミーチャ、様」

「様は付けなくていいよ、アルマイン。それで、どうした?」

「あれは、なんですか」


 彼女が指さす方向を見ると、南の空から抱っこ偵察機が飛んでくるのが見えた。

 エルミとマチルダはアルマインにも紹介したはずだけど、ふたりが飛べる話はしてなかったかも。


「エルミとマチルダだ。ふたりの力を合わせると、飛べる」

「どういう、魔法、ですか?」

「ごめん、俺にはわからん。魔法には詳しくないんで」


 ふわりと着地したマチルダが黒い魔力の羽根を畳むと、エルミと並んで歩いてくる。胸の前には愛用の短機関銃(ステンガン)。戦闘でもあったのかと思ったが、ふんにゃりした猫耳娘の表情を見る限りそうでもなさそう。


「みんな、おはようニャ」

「おはようございます、エルミちゃん。朝からどこかにお出かけでしたか?」


 ヘイゼルがふたりに飲み物のボトルを手渡す。エルミは嬉しそうに受け取ったが、マチルダは怪訝そうな顔のままだ。


「ミーチャとヘイゼル、アルマインもダ、近いウちにマルテ湖に行くトか、言っていタな?」

「ああ。今日これから行ってみようと思ってた。それが?」

「明け方、妙な感ジがしタので、見に行っテきタのダ」


 行って来たって、マルテ湖にか。たしかに飛んできた方向は、そっちだったけど。危なく……は、ないか。このふたりに危害を加えられるような相手は想像できん。

 とはいえ、なんでマチルダがそんな微妙な顔しとるのかがわからん。


「妙な感じって、なんだったんだ?」

「水龍ニャ」

「「え」」


 エルミからサラッと言われて、俺とヘイゼルの声が重なる。アルマインは声を上げはしなかったけど、隣で身を強張らせるのがわかった。それをチラリと見たマチルダは、“だから言ったのに”というような顔を俺に向ける。

 う~ん、すまん俺にはなんのこっちゃわからん。


「エルミ、どゆこと?」

「ウチには、わかんなかったのニャ。でもマチルダちゃんが言うには……」


「アいツ、助けを求めテいルぞ?」

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