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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
アンフルフィルド・キングダム

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グローイング・カラーズ

「クエイル、用意はいいか」


 翌朝、サーベイさんに離陸地点まで送ってもらった俺たちは、サーエルバンの正門から三百メートルほどの空き地で馬車を降りる。

 こんなところで降ろされてどうすると顔に出ているが、クエイルには移動手段を話していなかった。言っても通じるかわからんし、わかったところで不安しかないだろうとの気遣いだ。


「いつでも行ける、けど……あの“もーりす”じゃないのか?」

「うん。今日は、暗くなる前に戻りたいから」


 アーエルまで行って避難民たちを積んで持ってくるのに、十時間前後。クエイルのなかでは計算が合わないんだろう。不思議そうな顔をされた。

 俺たちの背後に現れた巨大な汎用ヘリ(リンクス)を見て、ますます不思議そうな顔になる。


「後ろに乗ってください」

「ヘイゼル、操縦はひとりで大丈夫か? 必要ならゲミュートリッヒでナルエルを拾ってくけど」

「問題ありません。今回有線誘導ミサイル(TOW)は使いませんから」


 なるほど。まあ、操縦はもちろんミサイルの操作もわからん俺は、せいぜい後部銃座でがんばるくらいしかできない。


「……ミーチャ殿。なんなんだ、これ?」

「すぐわかるわ」


 見送りに来たソファルが溜め息混じりの笑みを浮かべて、クエイルの背中を押す。彼女も最初に乗ったときは悲鳴を上げて震え上がっていたものだが。

 その記憶がよみがえったのか、彼女はどこか諦観めいた笑顔で俺たちに手を振った。同行してくれたサーベイさんとエインケル翁もまた、気付けば同じような笑顔を浮かべている。


「では、エインケルさん、サーベイさん。行ってきます」

「おお、よろしく頼む」

「お気をつけて。受け入れの用意はしておきますヨ」


 エンジンが回ってローターが回転を始めると、クエイルはどういうことなのか朧げに察したらしい。後部座席でシートをつかんだままキョロキョロと警戒し始めた。


「ど、ど……どういう、お」

「ミーチャさん、クエイルさんにシートベルトと機内通話装置(ヘッドセット)を」

「了解」


 カチャリとベルトがロックされてシートに固定されたことを知り、クエイルは身構えながら俺を見た。


「そんな顔しなくても大丈夫だよ」


 と言いながら俺も同じようにシートベルトをロックし、ヘッドセットを着ける。こちらの合図を確認して、ヘイゼルがエンジンの出力を上げた。


「いや、わかるが。なにを、したいかはな。でも、それは……自然の摂理に反してはいないか」

「そんなもんだ」


 俺も、お前の言いたいことはわかるが。俺たちは自然の摂理に反し続けてきたんだ。この世界に飛ばされてきたときから、ずっとな。


「お、おおおおおぉ……ッ!」


 機体が上昇を始めると、クエイルは泣き笑いのような顔を引き()らせながら叫んだ。


◇ ◇


「右手奥に見えるのがゲミュートリッヒです」

「お、おう……」

「少し遠いですが、左の地平線あたりに見える水面がマルテ湖ですね」

「おう……」


 好奇心と驚きと喜び、興奮と恐れと戸惑いの混ざった顔でクエイルはキョロキョロと地上を見渡す。

 しっかし、デカいなマルテ湖。いまは見に行く暇がないけど、避難民の回収が終わったらいっぺん訪れてみよう。水龍ってのも、どんな個体なのかわからんので確認が必要だ。


「クエイルさん、もうすぐアーエルが見えてくるはずですが、あなた方の拠点近くに何か目印になるもの(ランドマーク)はありますか?」

「小さな森と、小さな湖……というか、沼がある。方向は右手奥、いま前方に見えているふたつの山の間だ」

「了解です」


 ヘイゼルによれば、アーエルはゲミュートリッヒから百八十キロ弱(百十哩)、サーエルバンからだと二百六十キロ弱(百六十哩)ほどなので、ヘリだと一時間ちょっとで着く。

 一日走ってきた距離でも飛ぶとあっという間なのだと思い知らされて、クエイルはどんな顔したら良いやらという表情で窓の外を眺めていた。


「“もーりす”でも、俺には信じられんほどだったんだがな」

そういう(ザッツ・ハウ)ものです(・イットイズ)


 ヘイゼルが飛び立つ前の俺と同じような言葉を返す。実際、そんなもんだとしか言いようはない。異界からの使者は、すべてが規格外なのだ。ヘイゼルは斜め上に、俺は斜め下にだが。


「なあ、クエイル。取り潰される前のアーエルは、王国内で亜人や混血が多い地域だと聞いてたけど」

「そうだな。異母妹(ソファル)も、俺も混血だ」

「へえ。お前の仲間も?」

「ああ。百名のうち亜人は二十かそこら、混血を含めると半分以上だな」


 言いながらクエイルは少しだけ、俺とヘイゼルの反応を見ているようだった。差別意識があるのであれば、今後の動き方が変わってくると考えるのは当然だ。


「それが、どうかしたか?」

「どうもしない。心配しなくてもアイルヘルンで……少なくともゲミュートリッヒで、人種や種族は気にしないよ」


 俺の仲間たちも、結果的にほとんど亜人ってことになるんだろうしな。

 俺は自分たちが王国でひどい扱いを受けて、アイルヘルンに逃げてきたことを話す。その結果、聖国と王国を滅ぼすことになったと聞いたクエイルの顔には“そうはならんやろ”と大きく書いてあったが。

 そんなん俺に言われても知らん。苦情は冥界の使者(ヘイゼル)に伝えてくれ。


「俺たちは、遠い遠いとこから来たんだ。そこで、純血主義は……なんて言うんだろうねヘイゼル」

「ブリテンメイドにそれを訊きますか」


 ヘイゼルは前を向いて操縦したまま、乾いた笑いを漏らす。


空っぽの(ヴェイカント・)忠誠(フィデリティ)ですよ。自分が何者か(アイデンティティ)見出せない苦悩(・クライシス)を埋めるための」


 うん。ヘイゼルさんいつもの英国的冷笑含みのコメントですが、なんか特定の集合を指して言ってますよねそれ。

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