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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
アンフルフィルド・キングダム

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淀みの影

「無理じゃな」

「まあ、どう考えても不可能ですナ」


 商都サーエルバンにある、サーベイさんの商館。その応接室で、クエイルと向かい合ったエインケル翁とサーベイさんは開口一番バッサリと切り落とす。


「……やっぱりそうか~」


 当の“真王”クエイルも、それを聞いて笑う。

 ふざけているのではなく、笑うしかないというところか。


「だから言ったでしょ」


 その横で溜め息を吐くのは、前アーエル領主の孫娘ソファル。

 彼女はクエイルの異母妹で、対外的には、暫定的王位継承者のクレイメア王女でもある。そちらの再興計画でさえ問題山積で、長期化を覚悟しているところらしいからな。横から別口が名乗りを上げてきたところで、協力もできんし実現可能性も低い。


「当たり前じゃない。考えなしに進めたところで破綻すんのは目に見えてる、っていうか……もう破綻してるんじゃないの?」

「してるな」


「クエイル殿。まずミーチャ殿のところに顔を出したのは、なにか理由があるんですかナ?」

「いや。王国北西部(アーエル)から来たときゲミュートリッヒは入り口だから。それと、俺は当初ソファルがそこで世話になっていると聞いていたからだな」


 実際ソファルが世話になっているのは、サーエルバンもしくはマカなんだけれども。情報が間違っているのか、救出劇から誤解が生じたか。


 俺とヘイゼルも同席してはいるが、この件について俺たちは、ほぼ無関係だ。セキュリティ上、部外者に転移魔法陣を使わせるわけにもいかず、クエイルとソファルを車で送り届けたなりゆきで同席することになっただけ。

 クエイルはもちろんソファルについても、俺は王として担ぐ政治的プレゼンスに手を貸すつもりはない。それはヘイゼルとも意見が一致している。縁も義理もない相手に、力を貸しても意味はない。

 そもそもアマチュア商人でしかない俺に国づくりなど手に余るのだ。英国的地獄の使者(ヘイゼル)は殺して壊して粉砕して更地にする能力こそ異常に高いけれども、復興支援に向いた力は、たぶんない。


「ミーチャさん、なにか失礼なことを考えていますね」

「……き、気のせいデス」


 俺は片言気味にごまかす。サーベイさんたちがこちらを見たので、一応ティカ隊長からの言伝を伝える。


「ゲミュートリッヒでも難民を受け入れることはできるそうですよ。クエイルから聞いた四十名は少し厳しいですが」

「全部をゲミュートリッヒに被せるのは筋違いじゃろ。サーエルバンとマカでも受け入れは可能じゃ。当人たちに希望を聞いてみるかの」

「移送を請け負うくらいは、できるかもしれません」


 そう言ってヘイゼルは、俺に確認を求めてくる。そのくらいなら問題ないと、俺も頷きで応えた。


「ああ、それなら俺たちが車で運びますよ」

「ただ」


 俺の声にヘイゼルが被せる。どうにも不穏な予感がするものの、この閉塞感を破る方策があるのだとしたら聞いてみたい気もする。


「移送先に、ひとつ提案があるのです」


 サーベイさんとエインケル翁が少しだけ身構える。それはまあ、そうだろう。ヘイゼルが動いた結果が殲滅(アニヒレーション)以外の結果で終わったことはない。


「マルテ湖に、かつてアイルヘルン最初の都があったと聞いているのですけれども」

「……ありましたナ」

「アクアーニアじゃな。ずいぶんと古い話を知っておるのう」


 ん? なんの話だそれ? マルテ湖って……王都とゲミュートリッヒの間にあるクソデカい湖だよな。直径キロ単位の。それはどうでもいいんだけど、そこの湖水には水龍が棲んでるじゃなかったか?


「過去の経緯は理解しますが、もしこれから新たな()()(ひら)くのであれば、アイルヘルン最大の水源であるマルテ湖を除いてはあり得ないでしょう」

「……」


 エインケル翁とサーベイさんは一瞬ちょっと目を泳がして俺を見た。それはそうだろ。アイルヘルンで水龍をどうにかできるのは、俺……というか実質ヘイゼルだけだ。


「いや待てヘイゼル、水龍は」

「処分しましょう」

「言うのは簡単だけどさ。ああいうデカい生き物って、人間の都合で殺していいもんなんか?」


 以前は、やむを得ず排除したけれどもさ。俺の主張に、ヘイゼルは不思議そうな顔で首を傾げる。


生態系(エコシステム)など、理想論(アイディアリズム)でしかありません」

「おい待て」

現実を見ましょう(フェイス・イット)食物連鎖(フードチェイン)の理想論を騙れるのは、その枠外にいる者だけです」

「それは確かに、そうだけど!」


 わかるけど。北海道のヒグマ駆除に文句言う関東民とかな。そら、わかるけどさ。

 イギリス的な利己的正論とか政治的な合理主義がダブスタに思える俺が、現実を前にすると逆に日本的な机上の空論を語っているような気にもなる。

 ヘイゼルはなにかを割り切ったようにクエイルに向き合う。


「クエイルさん。いろいろと問題はあると思いますが、それはわたしたちとは無関係です。こちらに影響がない限り干渉するつもりはありません。ですので、訊いておきたいのは、ひとつだけです」

「ああ。なにをだ?」


 ヘイゼルは笑みを浮かべて、言った。


あなたの覚悟を(ショウアス・)見せてください(ユア・リゾルヴ)

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[一言] うわー、絶対ヘイゼルさん「いい」笑顔してはるわー
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