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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
スピリッツ・ハイ&ロー

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舞い上がる災厄

長距離の引越しがあり、しばらく間が空いてしまいました

 サラセンの前方視界が回復すると、目の前にはタキステナの塩湖が広がっていた。周囲に敵影はない。少なくとも、追跡者は。


「ナルエル、どっち行けばいい?」

「そのまま湖畔を半周して、前に通った道へ」

「ああ……わかった」


 前回、汎用ヘリ(リンクス)が燃料切れで不時着した場所だ。今回は逆に、そこから離陸することになるのか。俺はタキステナの外壁から少し距離を取って車輌を走らせる。城門からは離れたので敵が飛び出してくることもなさそうだし、もし飛び出してきたところで対処できない状況はなさそうだけれども。


「城壁上に、兵士がいる」

「僧兵だね」


 車体側面に並んだ銃眼用の窓を覗いて、ナルエルとハネルさんが言う。教会を守るためタキステナに来て、聖国に戻れなくなった連中だ。帰れなくなった理由は、なんでか帰る場所が消えたからだな。うん。


聖国の首都(アイロディア)が消失した後から、彼らは“真性コムラン聖国”と名乗っていたな」


 自分たちこそが真の聖国、ってか。なにをほざこうが勝手だけど、他国の庇護下でそれを謳うかね。おまけに身を寄せた先を薬物汚染するとか、頭湧いてるとしか思えん。

 聖国残党にとって、タキステナとアイルヘルンはイコールではないわけだ。まあ、実態としても間違ってはいない。


「ナルエル、そいつらに攻撃の意思は」

「いまのところ、その素振りは……いや、複数の魔力反応。攻撃魔法が来る」

「また“聖なる贄(セイクリッド)”だろうな。聖国僧兵は、やたらとあれを使いたがる」


 側面銃座からでは仰角(みあげ)がキツ過ぎるか。前方銃座のヘイゼルも、なぜか射撃する様子はない。


「ヘイゼル、止められるか?」

「小銃弾は胸壁に弾かれますね。ミーチャさん。合図をしたら、左奥の倒木までフル加速してください」

「了解」


 攻撃タイミングを読んでいるのだろう。ブーツの踵がコンコンと椅子の支柱を叩く。


「いまです!」


 合図でアクセルを床まで踏み込むと、装輪装甲車(サラセン)はモッサリと加速し始める。攻撃魔法の着弾位置を逸らすには十分だったようで、右後方の路面に攻撃魔法が降り注ぐのが見えた。ハネルさんの読み通り、単純な火魔法の連弾だ。いまのところ車体にダメージはないが、攻撃が続いているため高火力の反撃に移れない。


対戦車ライフル(ボーイズ)を置いてきたのは失敗でした」


 潜入と破壊工作のつもりで、正面戦闘の想定はしていなかったからな。


水平発射迫撃砲(P I A T)は?」

「高低差で約十五メートル(十六ヤード)、距離で百四十メートル(百五十五ヤード)超、となると少し厳しいですね」


 仰角で打ち上げれば当てられなくはないが、その間は車輌を停止させる必要がある。相手の攻撃が届く間合いで、それは現実的ではない。


「必要ならなんでも購入しちゃって」

「問題ありません。半マイル離れたら、こっちのターンです」


 それもそうか。攻撃魔法の射程外に出たら一方的な虐殺が始まる。向こうも俺たちの素性はわかっているだろうに、おとなしく逃げ隠れしているのが最善手と理解できんのか。


「ミーチャさん、そこで停止してください。ナルエルちゃんは車輌の外に出て、ハネルさんと城壁からの遮蔽側(ブラインド)に待機を」


 俺たちは湖畔近くでサラセンを停車させる。城壁から二、三百メートル離れたことで、攻撃魔法は止んだ。

 ヘイゼルは英国的武器庫(D S D)から汎用ヘリ(リンクス)を出し、操縦席に乗り込むとエンジンを始動する。副操縦席にナルエル、俺とハネルさんは後部座席だ。


「これは?」

「これこそ、わたしを魅了したゲミュートリッヒの奇跡。飛龍(ワイバーン)よりも速く飛び、古龍(エンシェント)を超える災厄をもたらす」


 機体点検を行いながら、弾む声で告げるナルエル。完全に嘘ってわけでもないけど。表現には誤解か誇張があるような。


「まさか、領主館を吹き飛ばしオルークファを焼き尽くした?」

「それ」

「おお、これだ。この音。あの日タキステナの住民を怯えさせた、“煉獄の太鼓”」


 えーと。また大仰な呼び名が付けられているようだが。ヘイゼルは笑って、機体を離陸させる。


「ええ。メインローターの立てる回転騒音(スラップ)ですね。鳥や龍とは飛翔の原理が違います。花弁がゆっくり回りながら舞い落ちるのを、逆回しにしたような」

「なるほど」


 ハネルさんは、ツインテメイドの適当な説明にあっさりと納得してしまった。このひと凄腕の魔道具師という話だし実際かなり賢そうではあるけれども。知識の方向性がわからん。技術的に詳しいから原理の推測が得れられたのか、理解の範疇を超えたからぼんやりした理解でも納得したのか。


「ナルエル、“雷霆(らいてい)”という魔道具を覚えているか」

「知らない」

「君が作ったものなんだがな」


 ハネルさんは、呆れた声で言う。“いつでも誰でも簡単に魔法を行使できるようにする”のが魔道具の第一目的、という設計理念で作られたナルエルの魔道具は、低位の雷魔法を連発できるというもの。か弱い女性が害獣や暴漢から身を守るための……護身用スタンガンみたいなものだったようだが。

 例によって端金でオルークファに買い取られ、設計者の名誉は奪われたそうな。


「思い出したか?」

「うん。オルークファに物凄く怒られたやつだ」

「怒る? なぜ?」

「指摘した。“魔道具に恥ずかしい名前をつけたがるのは才枯れた者の老醜だ”と」


 ひでえ。いや、事実だが、それだけに哀れだ。他人の功績を奪って我がものにして銘だけ刻みたがるようなもの。才長けた若者からすると老醜でしかない。

 それはともかく、ハネルさん先刻までヘリの飛行原理を話していたのに、なんでいきなりそんな話に飛んだ?


「つかまってください!」


 ヘイゼルは警告と同時に機体を傾け、速度を上げながら大きく旋回させた。

 ローター音を掻き消すほどの雷鳴が轟き、ヘリの鼻先を掠めて稲光が走る。飛んできた方を見ると、城壁上におかしな機材が据え付けられていた。シーソーに梯子とアンテナを不細工に束ねたような。男たちが操作しながら角度を調整している。梯子状の部分からは白煙が立ち、アンテナ部分には魔力の青白い光がバチバチと瞬く。


「なあ、ハネルさん。もしかして、ナルエルの作った魔道具って……」

「そう。あれが、その成れの果てだ」

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